2021年9月19日日曜日

主張 国際航空旅行の制限を見直す時が来た。

 


 

 

airport testing center sign

Credit: Daneil Leal-Olivas/AFP/Getty Images

 

年コロナウィルス大量感染が爆発的に発生し、各国政府は直ちに国境を封鎖した。中国発のウィルスの世界規模の拡散を止めるねらいがあった。ウィルスを止めるのが不可能と判明すると、時間を稼ぎワクチン接種を待つ作戦だった。

18カ月が経過した今、航空業界は政府による制約を受けたままで、意味のない施策も見受けられる。例としてEUからの旅客入国を禁じる米国方針を見てみよう。欧州では米国発の利用客に入国を再開しているが、米国は欧州からの旅行客の入国を依然認めていない。ヨーロッパでのワクチン接種率がなかなか増えない間は意味があったが、今やヨーロッパの接種率が米国を上回り一カ月以上となり、ヨーロッパのCOVID-19感染率ははるかに低い。

もうひとつある。ヨーロッパ委員会は米国内の感染状況が高いことを受け、「不急不要の」米国渡航者の制限強化を提言している。オランダは米国人の渡航を「非常に高いリスク」とし、米疾病管理センターは米国民にイタリア渡航はコロナウィルスのため再検討するよう推奨している。

こうした中で不満がたまるが、ICAOが提唱する公衆衛生回廊構想ではリスク低減策を大幅に増やすとある。旅行客にワクチン接種を義務化し、COVID-19テスト結果で陰性証明を求め、マスク着用は機内、空港内で続ければリスクは大幅に減る。同構想は急に出てきたわけではない。これまでも入国時に黄熱病などでワクチン接種証明を求める国があった。

COVID-19ワクチンの登場前にも学術研究によりウィルスが航空旅行を介して広がる可能性は低いとされてきた。旅行者に厳しい制限が課されているためだ。感染が発生するのは家族友人同僚とマスクやソーシャルディスタンスなしで面会する場合だ。

COVID-19の地球上での撲滅が可能としても、数年かかるだろう。エアライン業界の立場を支持する。政府はリスクを皆無にするのではなく最小限に管理すべきという視点だ。ワクチン接種により深刻な症状悪化には歯止めが生まれ、レストランでの外食やコンサート鑑賞など基本的な自由を再び享受できるようになった。次は移動の自由で、この回復だけ例外扱いにはできないはずだ。■

Editorial: It Is Time To Revisit Travel Bans

September 10, 2021

Editorial: It Is Time To Revisit Travel Bans


2021年9月18日土曜日

ボーイングの2030年航空産業全体予測が出た。エアライン向け機材は8千機の純増。MROの成長に期待し、2025年までにCOVID-19前水準に復帰。デジタル化も成長の余地が大。

  


 

ーイングが2030年までの航空サービス関連業界見通しを発表した。それによると収益規模は3.2兆ドルで、うち民間部門は1.7兆ドルで53%を占める。

 

支出ではMROが軍民双方で主流となり、2.2兆ドルで全体の70%を占める。そのうち民生部門が半分をわずかに上回ると予測する。

 

民生MRO部門は2020年のCOVID-19関連の需要急落を経て回復基調にある。ボーイングはMROについて「COVID-19前の水準回復に二三年かかる」とみている。

 

機材退役が急増するとみられ部品や再利用可能な部材の取引が増えそうだ。ボーイングは2030年までの旅客機引き渡しを18,850機と予測しており、一方で供用を終える機材10,200機の一部は貨物機に改装されるが大部分は廃棄されると見ている。

 

「2020年に世界各地で運航中止機材が急増したが、旧型機で効率が劣る機材が多数になったため、資産運用効率や業務面では好影響が生まれたとみるアナリストが多い」と指摘し、昨今の不況を経て、エアライン全体では今後5年で15-20%の機材が退役すると見る。

 

ボーイングは「さらに20-25%の機材が運航停止になっても驚くに当たらない」としており、2025年までに6,475機が退役することになる。この計算の根拠としてボーイングは2019年時点で25,900機が供用中としている。

 

航空サービス関連のうち残る15%相当は訓練、「デジタルソリューションおよびアナリティクス」に二分されるとし、後者には燃料消費最適化、機材管理のソフトウェアが含まれる。

 

「デジタルソリューションはパンデミック初期段階で必須となった。運航側が環境へ迅速に適合しようとしたためで、財務上もその必要があった」とボーイングは指摘している。「エアライン多数がデジタルソリューション投資の価値を認めており、デジタルトランスフォメーションで業務を迅速に変化させつつ、データ分析・活用の効率化で差をつけようとしている」

 

ボーイングは運航データを活用し保守点検を最適化しつつ想定外の事態の発生を抑え、また在庫を微調整して運航の信頼度を損なうことなく支出を最小限化することに業界の関心が高まっていると注目している。

 

訓練に関してボーイングは仮想学習の急速な普及を指摘している。COVID-19に伴う規制のため各社は適正な訓練を対面方式を使わずに行うことを求め、仮想学習のトレンドが強まっているとする。■

 

 

Boeing Sees Services Recovery By 2025

Sean Broderick September 14, 2021

https://aviationweek.com/mro/boeing-sees-services-recovery-2025

 

Sean Broderick

Senior Air Transport & Safety Editor Sean Broderick covers aviation safety, MRO, and the airline business from Aviation Week Network's Washington, D.C. office.


2021年9月11日土曜日

主張 航空旅行需要はいつ回復するのか。変異種の動き、ワクチン接種率を見るとコロナ共存の道を考えたほうが賢明だ。

airport terminal sign

Credit: Patrick T. Fallon/AFP/Getty Images

 

空旅行需要がCOVID以前の状態に戻るのはいつになるのか。

 

航空産業は同じ疑問をここ18ヶ月問い続けてきた。

2020年のAeroDynamic Advisory調査では、2023年末に平常に戻るとの評価が出た。この悲観的な見解に当時驚く向きもあったが、おおむねは消極的にこれを認めていた。筆者も再検討してみたが、楽観的過ぎたと考えるに至った。

 

デルタ変異種が世界各地で主流になって状況を一変させている。一人感染すれば5-9名にひろがるというのは、COVID-19当初の2-3名への感染力より強い。このため、集団免疫もワクチン接種率が90%にならないと実現しない。ちなみに当初のCOVID-19では70%だった。また世界各地の病院が新患で満員となり医療システム全体が危険となる。世界全体でワクチン接種は80億回必要となる。アジア、ラテンアメリカ、アフリカの大部分で深刻な状況が数年間も続きそうなのは、ワクチン接種が広まらないためだ。デルタ変異種の強力な感染力もあるが、新変異種がいつ現れないとも限らず、現行のワクチンが効果を出せなくなるかもしれない。

 

こうした背景から航空旅行の復活シナリオを考えてみよう。2019年の有償旅客キロ(RPK)は8.7兆でうち65%が国際線だったが、国際線需要は死んだままだ。

 

各国政府は航空業界向け支援策を講じ、ワクチン接種、検査、隔離など展開している。一部国は国際線利用そのものを止めており、渡航者にバブルを課す国もある。また渡航は認めても隔離措置を求める国もある。ワクチン接種履歴を渡航条件に採用している国は皆無に近い。世界各地のワクチン接種記録で標準化ができていないためだ。そのため各国で方策を各自組み合わせているのが現状だ。欧州連合では米国出発の渡航者への制限を加盟27か国に推奨し、米国内のデルタ変異種感染の高まりに警戒している。

 

このため国際旅行に面倒な要因がついてまわる。企業幹部は国別で異なるテスト要件を逐次満足する以外に隔離へ時間を取られるリスクに直面している。料金に敏感な観光客だが、数回にわたる検査料金が航空券価格に近づく上に隔離のリスクも覚悟しなければならない。

 

世界全体のRPKの残り35%を占める国内線利用でも影響が出ている。ワクチン接種率が高い中国でさえ、デルタ変異種の登場で減少が止まらない。8月初旬の座席提供数は32パーセント減となり、政府はCOVID-19撲滅をまず進めてから再開をねらうようだ。ロシアは50万人をすでに失っているが、ワクチン接種が進まず、7月の死亡数が記録を破ったという。

 

明るいニュースもある。今年に入り米国内需要が急上昇しており、需要の底堅さは確実だ。世界全体のワクチン製造規模は2022年に150億回分になる。うち三分の一が画期的なmRNA技術によるもので、ブースター接種で早く効果を発揮する、あるいは今後登場する変異種にも対応する期待がある。ワクチン接種義務化に動く国もある。またワクチン接種済み住民に死亡率や入院措置の必要度が非接種者より低いのが明らかになってきた。今後の各国政府はCOVID-19撲滅をめざすのではなく、共存の道を選択するはずで、英米両国がすでにこれを始めている。

 

では航空需要は2023年に回復するだろうか。可能ではあるが、世界規模のワクチン接種がどこまで広がるか、政府の渡航方針がどこまで改善されか、さらに変異種で運が良ければ、という条件が必要だ。航空業界で戦略を検討するなら悲観的なシナリオを使うほうがよいだろう。「パンデミックや伝染病には歴史を一変させる力があるが、生き残ったものには効果がすぐ見えない」とカナダの文化人類学者ウェイド・デイヴィスの言葉を贈りたい。■

 

Opinion: Why Air Travel's Recovery May Be Years Away

Kevin Michaels September 07, 2021

 

The views expressed are not necessarily those of Aviation Week.

 

Kevin Michaels

Contributing columnist Kevin Michaels is managing director of AeroDynamic Advisory in Ann Arbor, Michigan.

 

2021年9月4日土曜日

ボーイング新型機開発で日本企業が共同事業体に加わる可能性が浮上。スペースジェットの挫折を超える強靭な意思決定力が日本に試されそう。

 

  • Aviaion Weekに気になるニュースが入りましたので早速お伝えします。


  • スペースジェットで手痛い経験となった三菱重工業が慎重な態度を捨てるのか、その他重工業とコンソーシアムを組んで対応するのか、日本政府がどこまで支援するのか、いずれにせよ完全国産旅客機の夢よりも現実的な解決策を模索するべき時が来たと思います。


ボーイングの新型旅客機事業に期待があるが、同社内部に必要な資金がない。

だが同社が外部と提携し。例えばスーパーティアー1と呼ばれるメーカー、あるいは他国企業と共同事業となればどうなるか。

737 MAXとCOVID-19のダブル危機で、ボーイングは二年連続で記録的な赤字決算となった。ただ、第2四半期の赤字幅が予想を下回りウォールストリートが驚いた。CEOディブ・カルホーンは「峠は越した。回復に勢いがついてきた」と述べている。

ただ同社は6月末現在で420億ドルの負債を抱え、105年の同社史上で前例のない規模となり、2018年末から8倍増に増えた。ボーイング独自の予測では民間航空部門の発注は今後10年間で11%減となる。業界ではエアバスに対抗するボーイングは現状のシェア40-50%は維持できず、30-40%になるとの見方がある。

そこで業界内部には新型ボーイング機の投入を期待する声が高い。中型機、737後継機などが取りざたされており、運航会社の購買意欲を刺激し、ボーイングのシェア奪回につながる。だが完全新型機では200億ドル以上が必要とみる筋もある。

同社の支出には二つ優先事項がある。負債の整理と株主還元がある。バンクオブアメリカのアナリスト、ロン・エプスタインはウォールストリート関係者の56%はボーイングが新型機を立ち上げると予想しているが、34%はそのためにはボーイングは投資機関への姿勢を変えるべきだとみていると紹介。

「新型機開発の資金集めが課題でしょう」というのが航空業界に特化するコンサルタント企業Avascentの意見だ。「当社分析ではボーイングには完全新型機開発をしつつ配当金を支払うキャッシュフローがありません」

だが可能性が高いのはボーイングが他社と提携し、リスクを減らしつつ利益を共有する事業形態に走ることだろう。Acascentのジェイ・カーメル、スティーブ・ガニヤードはこの構想を深堀し、太平洋の向こう側、日本の「重工業」数社との提携だろうとのメモを8月に出した。

同上メモでは日本政府は国産旅客機開発を模索してきたと指摘。ボーイングは共同事業の可能性を数回にわたり探ってきたが、一度も成立していない。そこで、三菱スペースジェットの自壊に注目が集まっている。

「日本とボーイングが共同事業体を立ち上げれば、共同出資、共同生産で新世代旅客機が生まれる」と両名は記している。「興味深いのは今回はエンブラエルとの共同事業検討と異なることで、ボーイングはエンブラエルの技術力を高く買っていたものの共同出資は二の次だった」

日本の国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構には航空機DXコンソーシアムの新規事業があり、「スーパーティア1」として日本国内企業にボーイングとの技術共有、リスク共有を進めさせる構想があるとAvascentは紹介。日本の労働コストは高いといっても北米、ヨーロッパの水準に比べれば低いと主張する。

両名は共同事業が成立すればウィンウィンとなるが、まずは日本側に今度はうまくいくと信じさせ、作業分担は日本航空宇宙産業のグローバルでの地位を高めるものにする必要があると主張する。エアバスの独走状態、さらに中国が実力をつけてきたことから、共同事業は以前よりも実現しやすくなっているのではないか。

「明確に言う。ボーイングには日本が必要だ。日本にはボーイングが必要だ。日本は財務、技術両面でリスクを共有する相手になれる。ボーイングが完全新型旅客機を投入できれば、『失われた十年』を回避できる」とカーメル=ガニヤードは指摘している。■

Will Boeing’s Next Airliner Be Built In Japan?

Michael Bruno September 01, 2021

https://aviationweek.com/aerospace/aircraft-propulsion/will-boeings-next-airliner-be-built-japan


2021年9月2日木曜日

宇宙衛星ビジネスは2040年に1兆ドル規模に成長する予測。低地球周回軌道上に大量の衛星を打ち上げ、ブロードバンド通信サービスがこれからの成長産業か。

  

Satellites in LEO

低地球軌道(LEO)は幕を開けつつある衛星ネットワークブームの舞台となる。「直近5年間で衛星運用は3,000パーセント増加した」とジョージア工科大のマリエル・ボロウィィッツ准教は指摘。「これだけでもすごい規模だが、序章にすぎない」

Credit: Source: COMPSOC

 

2010年から2020年にかけ地球周回軌道上の実用生成は958機から3,371機に増加したと衛星産業協会の最新報告書にある。だが252%増もこれからの増加率の前には小規模に映るはずだ。

 

「2030年までに10万機が軌道上を回っているはず」とスティーブ・ウルフは指摘する。公共政策専門シンクタンクBeyond Earth Instituteを共同で立ち上げて理事長をしている。「驚くほどの増加だ」

 

宇宙経済は2040年に1兆ドル規模に成長するとの予想がある。低地球軌道上に打ち上げられる大量の衛星がけん引役となり、スペースXのスターリンク、OneWebのグローバルブロードバンドなど既存の衛星運用会社がさらに機能や用途で細かく分けた衛星を打ち上げ、地球静止軌道(GEO)上の衛星が担当してきた通信サービスが大きく変わりそうだ。

 

設立52年周年のカナダ企業テレサットはGEO上に13機の衛星を運用しているが、50億ドルを投じLEO衛星ネットワーク、Lightspeedを立ち上げる。「ブロードバンド接続への需要が世界各地で増加している」と同社CEOダン・ゴールドバーグが語っている。「三年で倍になるペースとの予測だ」

 

SESは70機以上の衛星を運用しており、ボーイングに同社のO3bネットワーク中地球軌道(MEO)用新型衛星群を製造させる。MEOとは高度5千マイルほどの位置になる。O3b mPower ネットワークは2023年までに軌道上に完成し、ボーイングの702X新型衛星を使用する。これは完全にソフトウェアで仕様変更な衛星で、LEO、MEOあるいはGEOに対応し、市場需要に応じ帯域を変更可能だ。

 

 「ソフトウェア依存で完全な運用柔軟性を有する衛星はこれまで存在しなかったのですでに顧客層からの引き合いが相当来ている」とボーイング・コマーシャルサテライト・システムズ社長のライアン・レイドが語っている。

 

ボーイングはLEO衛星需要にも注目し、スペースX、OneWeb、アマゾン他のブロードバンド衛星運用会社の関心を集めている。レイドもパートナー候補と商談に入っていることを認めている。「たとえば当社がスペースXのスターリンクと直接競合することはないが、当社の顧客企業ではありうることだ。そこで当社の立ち位置は各社に解決策を提供し、当社の技術での支援を使っていただくこと」としている。■

 

 

Burgeoning Satellite Industry Paving Way To $1 Trillion Space Economy

Irene Klotz August 24, 2021

https://aviationweek.com/aerospace/program-management/burgeoning-satellite-industry-paving-way-1-trillion-space-economy


2021年8月30日月曜日

JALとGEエイビエーションが737用エンジンの整備支援契約が発効。MROビジネスはどこまで伸びるか。

  

 

 

 

日本航空(JAL)はCFM56-7Bエンジンのアフターサービス整備支援契約をGEエイビエーションと締結した。期間は5年で、対象エンジンはJALが運航するボーイング737-800で使われている。

TrueChoice Overhaul 契約ではJALはCFM56-7Bエンジン100基以上のオーバーホール作業と必要資材の提供を受ける。JALは737-800を48機運用中。

写真 JALがGEとの契約対象にしたCFM56-7Bエンジン。両者はこれと別に類似の整備契約を締結している。Credit: CFM International


「CFM56-7B向けTrueChoice Overhaul契約により新たな競争力がコスト節減、OEMならではの高い信頼性を通じて実現する」とJAL調達本部長中川由紀夫が述べている。

GEでは類似のアフターサービス契約をこれまでJALと結んでおり、GE90、GEnx-1B、CF34-8E、CF34-10E、CF6-80C2の各エンジンを対象にしている。「今回の契約により高品質のOEMサービスをJALのCFM-56-7B各エンジンに提供できます」とGEエイビエーションサービシズの社長兼CEOラッセル・ストロークスがコメントしている。

COVID19の流行前、JALは自社保有156機のMRO契約を別途取り交わしており、787部品ではコリンズエアロスペース、737、767、777の各エンジン部品の修理ではメギットが相手先となっている。■

 

Japan Airlines Pens CFM56-7B Services Agreement With GE

James Pozzi August 25, 2021

https://aviationweek.com/mro/japan-airlines-pens-cfm56-7b-services-agreement-ge


2021年8月28日土曜日

ジェットブルーの大西洋横断路線参入でどんな変化が生まれるのか。LCCの大西洋横断路線運航がこれまで挫折した中で同社は生き残れるのか。既存大手の対抗策は?コロナ禍だからこそ商機ありと判断する根拠とは。

 

 

ジェットブルーエアウェイズが念願の英国便開設を実現した。大幅な料金値下げをひっさげ世界有数の大西洋横断路線に旋風を巻きおこすのか。

 

007便となったジェットブルーのエアバスA321LRがロンドン・ヒースロー空港 (LHR) に8月12日午前到着し、同社が大西洋横断路線に就航した。第一便には同社CEOロビン・ヘイズが乗客となり、ジョン・F・ケネディ国際空港 (JFK) を8月11日夜遅くに離陸した。

 

JetBlue Airways aircraft ジェットブルーの大西洋横断初便がロンドン・ヒースロー空港に8月12日到着した。Credit: JetBlue Airways


 

8月はデイリー運航だが、9月は週四便に減らし、ロンドンのガトウィック空港 (LGW).に到着地を変更する。10月にデイリーに戻す。同社はボストン-ロンドン線を2022年に開設する。

 

同社は大西洋横断路線にあたり強固な自社ブランドイメージ、新世代A321LR、上級仕様のミントで24名にフルフラットシートをビジネスクラスに設定し、従来の低運賃キャリアが長距離路線で経験した挫折を回避できるとしている。直近ではノーウェイジャン・エアインターナショナルが赤字を脱却できず大西洋温暖路線から2019年撤退している。

 

ノーウェイジャン他の失敗の歴史を眺めると、ニューヨーク=ロンドン路線に参入したジェットブルーはどうなるのかという疑問が出てくる。業界では早速同社には有利に働く点があるとの指摘が出ている一方、障害となる要因がいくつかあるとの声もある。

 

Aircraft/Airline Projects Inc.社長のクレイグ・ジェンクスによればノーウェイジャンには真のビジネスクラスと呼べるものがなかったことが上級利用客獲得で障害となった。他方でジェットブルーは42インチピッチのシートを提供し、上級クラスがA321にある点を指摘する。

 

「ロンドン=ニューヨーク路線への新規参入事例を見ると参入後にすべてプレミアムクラスの必要性に気づいています。現行各社はビジネスクラスの販売収益でエコノミークラスの低料金を穴埋めしているのが現状です。単一クラス編成では成り立ちません」(ジェンクス)

 

Cranky Flierブログで人気を博すブレット・スナイダーは飽和気味のニューヨーク=ロンドン線ではジェットブルーも苦戦するとみている。A321LRの運行経済性は確かに魅力だが、ワイドボディ機のシートコストが低く、これに対抗するのは「勝ち目がない」とする。

 

「シートを埋めコストを下げるエアラインが既存各社に対抗するという図式ではない。むしろ効率が優れることで知られる機材を使いながらワイドボディ機のシートコストには対抗できないエアラインになるのではないか」

 

COVID-19大流行の中で新サービスを展開するとは尋常ではないように見えるが、航空旅行需要が低迷しているからこそ好機といえるのであり、ただでさえ混雑しているLHRのスロットペアを確保する好機だ。通常ならスロットペア入手には30-50百万ドルが必要でジェットブルーはこれまでは支払い価値があるか懐疑的に見ていた。だがパンデミック中で通常なら手に入らないスロットが手に入る。

 

ロンドン第二の空港LGWは本来はジェットブルーが希望する就航先ではないはずだが、英国発の観光需要で大きなシェアを同空港が持っていることは知られている。そこでジェットブルーの米国内・カリブ海路線が訴求力を持つことになる。また運航コストも比較的安価でありながら路線連絡が便利な空港で鉄道路線で市中と結ばれアクセスも容易だ。

 

英米間のビジネス需要に食い込もうとジェットブルーは便数を増やす必要に迫られそうだ。COVID-19前は大手会社はニューヨーク=ロンドン線で毎日4便を運行していた。ただしジェットブルーはLHRでのスロット追加と同様に困難に直面しそうだ。

 

「ヒースロー=ニューヨークの便数が極めて重要ののはビジネス利用客が好きな時に移動できることを重視しているからで、時間帯はばらつくからだ」とジェンクスは述べ、「ジェットブルーは便数を増やす方針だろうが、どう実現するかが試される。来年1月にウィルス問題が終わっていれば、スロットの空きはなくなり、40-50百万ドルに戻っているだろう」

 

ジェットブルーが成功を収めるには英米双方の既存エアラインとの厳しい競争に勝ち残る必要がある。アメリカンエアラインズ=ブリティッシュエアウェイズデルタエアラインズヴァージンアトランティックの各共同事業体に加え、ユナイテッドエアラインズがある。こうした大手に比べジェットブルーの提供座席数はごくわずかだとはいえ、これまで米大陸横断路線で同社が既存の構図を破壊してきた実績から放置すれば同社が再び秩序を破壊する恐れもある。

 

大手各社はジェットブルーの脅威を深刻に受け止めている。ユナイテッドはボストン=ロンドン線を開設し、ジェットブルーの2022年運行開始に先手を打った。各社とも当面はジェットブルーと料金で対抗する。

 

上記のスナイダーはエコノミークラス料金は夏の旅行シーズン明けに「競争激化」するとみている。ビジネスクラス料金は「予測困難」とし、理由として大手がジェットブルーの料金水準にどこまで合わせるかが見えないためとする。パンデミックのためビジネスクラス料金が低く抑えられたままだが、スナイダーはジェットブルーの参入に対し大手は短期的にイールドを犠牲にする動きに出るとみる。

 

「大手各社は脅威と受け止めれば積極策に出るだろう。かなり大規模な対抗策が出てくるのではないか。提供座席数では大きな変化はないだろうが、料金収益の管理が大きく変わりそうだ」

 

これに対しジェットブルーには各種の対応策がある。強力な商品ぞろえ、機材の効率引き上げ、さらに経験豊かな経営陣がある。だが同社はロンドンの混雑した空港で便数を増やすことの難しさに直面するはずだ。

 

ジェットブルーが短期間で黒字化に成功すれば、新規参入の成功例となり、A321LRの性能で可能なその他ヨーロッパ乗り入れとしてアムステルダム、マドリード、パリやローマも視野に入るだろう。■


JetBlue Puts Transatlantic Ambitions To The Test

Ben Goldstein August 20, 2021

https://aviationweek.com/air-transport/airlines-lessors/jetblue-puts-transatlantic-ambitions-test


エアバスがA321XLRの第2生産施設として旧A380組立ラインを転用―320neoファミリーの受注残は1万機で、321neoが中心

  Photo: Photofex_AUT | Shutterstock エ アバスはフランスのトゥールーズにある最終組立ライン(FAL)でA321XLRの組立てを開始した。 フランスでのA321XLRの組み立て トゥールーズを拠点とするLa Dépêche紙記事によると、エアバ...