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2021年5月16日日曜日

再生可能航空燃料(SAF)の大幅増産が必要な理由。2050年に向け、今年から大きな動きが民間分野、政府間に出てきそう。

 Aviation Weekの長文記事ですが代替燃料の最新状況がわかります。

 

ネステの再生可能燃料精製工場はフィンランドにある。Credit: Neste

 

生可能代替航空燃料(SAF)の不足が深刻だ。米エアラインも英国他とならび実質ゼロカーボン排出を2050年までに達成することになり、代替燃料の必要性が航空業界で増している。

再生可能ソースからの航空燃料増産が航空業界の排出量削減に必須というのは各シナリオで共通している。燃料消費が優れる新型機へ更新しても変わりはない。同様に飛行空域を変え、新型推進技術が開発されたとしても同じだ。

だが増産規模は莫大だ。SAFの2020年生産量は6億ガロンに過ぎない。ジェット燃料全体の消費量2019年の960億ガロンと比べ微量だ。

2050年までの純ゼロ目標達成を発表した全米エアライン協会(A4A) は政府他関係機関と共同しエアライン向けSAFの20億ガロン提供を2030年に目指す。グローバル規模でみれば今後の課題の規模が明白に想像できる。

民間航空では炭素ガス排出を2005年水準で2050年までに半減させる目標が2009年以来示されており、各国が前倒しを模索している。ICAOの2022年目標は達成可能とはいえ、その実現のカギを握るのがSAFだ。

一部エアラインはもっと意欲的な目標を掲げている。貨物空輸専門のドイツ郵便DHLは2030年までに3割の燃料をSAFにする目標を掲げる。同社は2019年に4.8億ガロンを消費した。デルタエアラインズは2030年までにSAFを10%にすると2019年に目標設定した。ジェットブルーエアウェイズは2040年にネットゼロをめざしており、SAFの増産を求めている。

増産でSAF価格を下げる必要がある。現在はジェットA燃料の3-5倍の価格だ。IATAはSAFが価格で競争力を発揮できる生産量を2019年実績の2%つまり19億ガロン程度とみている。IATAはこの実現は2025年とするが、現在の30倍の増産が前提となる。

新型推進手段の出現でSAFの長期ニーズで議論が生まれている。EasyJetCEOヨハン・ランドゲンの意見は短距離路線運航会社はSAFよりカーボンオフセットに資金投入すべきとし、ゼロエミッション技術となる電気推進や水素の実用化が近づいているとする。

だが電気推進や水素動力の機体は当面飛行距離が500から1,000nm程度に限られ、現行の短中距離機材や長距離機材も長期的にはSAFが唯一の脱炭素化手段となりそうだ。

SAFがなぜ必要なのか

世界の民間航空のCO2排出量は10億トン規模にすぎない。技術や運用の改良により、さらにパンデミックによる影響を入れても2050年時点で20億トンまで増加する予測がある。

目標が2050年までに50%削減なのか、ネットゼロなのかは異なるが、燃料消費効率が優秀な機体、航空交通管制の改善、さらに新型電動や水素推進技術がこの達成に効果を上げるはずだ。それでもSAFやカーボンオフセットが必要となることに変わりない。

FuelKLMは今年2月、部分混合の持続可能合成ケロシンによる商用飛行を実施した。燃料はシェルが供給した。Credit: KLM

 

SAFは飛行中の排出を減らすものではない。温暖化効果ガス排出は炭素のライフサイクルで発生する。通常型ジェット燃料の燃焼により化石CO2が放出され、大気中の炭素量が増える。SAFを燃焼すると植物が吸収した炭素を大気に還元することになる、あるいは家庭ごみの燃焼や産業廃棄物が放出していたはずの炭素を放出することになる。

その結果、ライフサイクルCO2排出が「目覚ましく」純減する。SAFがバイオマスの使用済み調理油などから生産されるで効果は80%にも達する。大量削減効果は森林からも期待できる。CO2取り込みと再生可能電力で合成燃料を生産すれば化石航空燃料の大幅削減も可能となる。

一部の供給原料にはカーボンネガティブ効果が期待される。米国再生可能エナジー試験所の3月公開発表ではSAFを木質廃棄物から生産するとネットの炭素排出量を最大165%削減できるとある。これだけ大きな削減効果が期待できるのは従来は木質廃棄物を埋め立てて腐食すして発生するメタンが減る効果が大きい。メタンはCO2の20倍の温室ガス効果がある。

SAFの費用

2020年9月に業界団体Air Transport Action Group (ATAG)が発表したWaypoint 2050 報告書では航空業界が2050年までにCO2排出量を半減させる目標への選択肢を検討しているが、いずれの場合でもSAFが不可欠だと判明した。

SAFを最大限使用するシナリオでは年間1.160億から1,510億ガロン(4,400億-5,700億リットル)の生産が2050年に必要とある。電動、水素推進を最大限導入してもSAFは620-900億ガロン必要となる。

2050年までのCO2半減だけでこれだけの量が必要となる。パリ合意では世界の温度上昇は2C以下に抑えるとあり、ATAGは航空業界はより大胆な炭素排出削減を求められる年上昇幅が1.5Cになればなおさらだとする。

温度上昇を1.5Cに抑えるためには世界の航空業界は2050年までの純ゼロエミッションが必要になるとATAGは指摘し、SAF生産は年間380億ガロンの増産になる。

世界規模でSAF増産が迅速に実現すれば「2050年目標の先に向かうおそらく唯一かつ最大の機会」となるとWaypoint 2050は結論づけ、2050年までに1,500ないし1,700億ガロンが必要となると算出している。

ATAGは今後10年で業界としてこの目標達成が可能か判断する必要が生まれると分析している。SAF生産施設が何か所、どこに必要となるかを検討するのが課題だ。

各地にSAF工場が数百か所必要となる。各工場の建設には数億ドルが必要で、さらに増産が課題となる。英国だけで14か所での13億ガロン生産が2035年までに必要となる。そのひとつVelocysのゴミ燃料転換工場の建設費は7億ドルにのぼる。

SAFはどこまで使えるのか

増産が課題だが、消費増は別の問題だ。現在の航空機用SAFは通常型ジェット燃料と最大50%までの混合に限定されている。この制限はSAF混合燃料は通常型のジェットA燃料と混合され、既存の空港の燃料共有設備を改修せずに使うためだ。

混合比率に上限があるのは供給原料を燃料に転換し、合成パラフィンケロシンを製造するが、炭化水素の量が化石ジェット燃料の含有量に達しないためだ。炭化水素原子が不足すると燃料系統で問題が発生し、機体やエンジンに支障が生じる。

現在のSAFでは混合比率を一桁に抑えており、多分にこうした制限は学術的なのだが、エアライン側がSAF使用を増やす際にこの制限が足かせになる。このためエンジンメーカー企業はエアバスボーイング等機体メーカーとともに100%SAFで稼働するエンジンの実現を目指している。ボーイングでは100%SAFで稼働する機体の型式認証を2030年までに得る。

供給原料からのSAF生産方式は現在7通りあり、触媒加水熱分解ジェット燃料CHJでは芳香族を含有しており混合比上限が100%までとなるが、そのまま使える。その他方式には100%使用で承認待ちのものがある。だがSAFの大部分で混合比率の上限があり、燃料性状認証までにさらにテスト、改良が必要だ。

SAFの中で最初に民生使用が認められるのは水素処理エステル脂肪酸HEFAで、混合比は最大50%に制限される。これは芳香族が含まれないためだ。ただし、エンジンテストで100%HEFAをロールスロイスがテストしており、エアバスとボーイングは飛行テストを実施していることから今後の新型機はHEFA100%での運用が可能となり、エアライン側はライフサイクルCO2削減効果をフル享受できそうだ。

だがHEFAのみでは本質的に化石燃料と同質ではない。メーカーは100%HEFA使用を一部機材でのみ認めているが、他の代替燃料と異なる利用が必要としている。FAAは利用可能な機材は一部に留まるとしている。そのため100%HEFAはSAFだが「限定的」な存在で全機には導入できない。

SAFのメーカーは?

2020年時点でSAFの大手供給企業は二社しかなかった。カリフォーニアのWorld EnergyとフィンランドのNesteである。ただ今後数カ月でこの構図が大きく変わりそうだ。生産施設の稼働が続き、原材料の搬入が増える。これは長年かけての投資活動の成果である。

Fuelフルクラム・バイオエナジーのレノ工場(ネヴァダ)は市内の固形ごみをSAFに転換する。Credit: Fulcrum BioEnergy

 

この二社が増産を続けるが、SAF工場の核となる専用工場が今年から2024年にかけ操業を開始する。2021年はフルクラムバイオエナジー Fulcrum BioEnergyが年産10.5百万ガロンの生産工場をネヴァダ州レノに完成させ、市内固形ごみ(MSW)からSAFを生産する。レッドロックバイオフュエルRed Rock Biofuelsの年産16百万ガロン工場はオレゴン州レイクヴューにあり、今年中に操業開始し、木質バイオマスから燃料を生産する。

2022年にはランザジェットLanzaJetのエタノール処理燃料工場がジョージア州ソパートンで操業開始の予定で、年間10百万ガロンの生産能力の9割をSAF生産にあてる。同社は2025年までに工場を4か所に増やし、1億ガロンのSAFを生産する大胆な計画を進める。

スカイNRGSkyNRGはKLMが共同出資して2010年生まれた会社で持続可能航空燃料のサプライチェーン開発にあたり、ヨーロッパ初の専用SAF工場を2033年に完成させる予定だ。オランダ・デルフセイルにあるDSL-01の施設はHEFA方式のSAF等を年間36百万ガロン生産する能力を有し、廃油から再増する。

また2023年にはWorld Energyがカリフォーニア州パラマウントのHEFA工場を拡張し、年間150百万ガロンの生産能力を実現する。NesteはHEFA480百万ガロンをフィンランド、シンガポール、オランダで生産するのを目標とする。。

FAAが進める民間航空代替燃料事業(CAAFI)では2023-24年に年間600百万ガロンのSAF生産能力が追加されるとしている。この一部としてジーヴォGevoが非食用とうもろこしを燃料転換する初の工場をミネソタ州ラヴァーンで操業開始する。

SAF増産は世界規模で広がる。石油精製業トタル Total (フランス)とプリーム Preem(スウェーデン)は初のHEFA工場を2024年に操業開始し、パラグアイのオメガグリーンOmega Greenは年産300百万ガロンの生産施設でHEFAのSAFとグリーンディーゼルの生産を2024年までに開始する。

原料は確保できるのか

今後のSAF増産では廃棄物利用として供給原料の投入が主流となる。再生可能燃料生産の初期にヤシ油のような原料を使ったことで批判を浴びていた。ヤシ油のため土地利用方法が変わり食料生産に影響が出るという批判だった。

SAFの商業生産の初期では廃棄植物油や動物脂肪さらに調理油を主に使っていた。生産方法が広がり、生産施設建設が始まると利用可能な供給原料の幅も広がっている。

航空業界では廃棄物利用への流れが望ましいとし、食料生産との競合を避けたいとする。供給源はひろがっており、都市部の固形ごみは従来は埋め立てや焼却で処理され、工業プロセスで生まれるガスや農林産業で生じる残さいも利用できる。

PtL合成燃料への関心も高まっている。これはe燃料とも呼ばれ、大気中のCO2と再生可能電力から生成する。ヨーロッパが先行しており、限定規模ながらバイオマスを原料に持続可能燃料を製造する。PtL技術はまだ未成熟で高価格だが、大規模な増産が必要となるだろう。

KLMは今年二月にシェルがCO2、水、再選可能エナジーから生産した合成PtLケロシンを少量混合し初の営業運行を実施した。オランダではe燃料で別の事業二件の発表があった。ロッテルダムのゼニドZenid、アムステルダムのシンケロSynkeroだ。その他e燃料生産事業がデンマーク、ドイツ、ノルウェーにある。

SAF生産の潜在性を分析した世界経済フォーラム(WEF) では各種原料を使えばATAGの最も大胆なシナリオとするSAF利用の2050年目標を実現する生産能力は十分存在するとしている。分析では380億ガロンの追加生産能力がMSWから、農林業残滓から570億ガロン、廃ガスから150億ガロンの生産が可能だという。

WEF分析では石油、セルロースは食品生産と競合せず、土地利用変更も起こさず2050年までに620億ガロンのSAF生産を実現できるとする。これは航空業界の需要に対応できる規模だ。PtL燃料は理論的には無限の生産量が実現するものの、利用層は他にもあり競合が生じる。

SAFは買うのはだれか

SAFの利用拡大に大きな役割を演じているのはこれまでごく一部のエアラインや燃料供給会社だった。その一つがユナイテッドエアラインズで、World Energyと長期間オフセットSAF契約を結び、2016年からHEFA燃料供給を受けロサンジェルス国際空港を拠点に運行する定期便に使用している。

その他エアラインも利用を開始している。フルクラムのレノ工場はユナイテッド、キャセイパシフィックエアウェイズ、航空燃料メーカーのWorld Fuel Servicesと契約している。レッドロックのレイクヴュー工場はフェデックス・エキスプレスサウスウェストエアラインズシェルに供給している。

増産が続く中で初期からのメーカーのNesteはHEFA方式SAFの利用客を数多く確保しており、全日空フィンエアKLMのほか、サンフランシスコ国際空港を本拠地に運行する米系各社、航空燃料供給会社の Air bpAvfuel、シェルが含まれる。

ICAOが進めるCORISA国際線向けカーボンオフセット事業ならびにSAFを利用してエア林のオフセット義務を軽減する方策として、利用契約は増える一方だ。デルタは2019年に年間10百万ガロン供給契約をジーヴォと結んでおり、2023年から納品が始まる。デルタはノースウェスト・アドバンスト・バイオフュエルNorthwest Advanced Bio-Fuelsと条件付きオフテイク契約も結んでおり、木質廃棄物を燃料に転換する工場をワシントン州に建設する。

MSWを原料にSAF生産する工場をロンドンに建設する案は資金不足でとん挫したが、ブリティッシュエアウェイズ(BA)はVelocysとアルタルトプロジェクトと組み年産13百万ガロンのMSWからSAFを生産する工場を円グランドのイミンガムに建設し、2025年から生産開始する。

BAはアルタルト施設の所有オプション契約を3月に延長したが、同社はランザジェットのソパートン工場にANAと共同出資し、燃料オフテイク契約とともにアルコール原料のジェット燃料工場が英国内に建設できないか検討する。

業界ではオフテイク投資契約が徐々にだが着実に増えている。ジーヴォはSAFをスカンディナヴィアンエアラインズ(SAS)へ販売し、ユナイテッドには 1PointFiveへの大型投資をする。同社は大気中のCO2回収を専門とする新興企業だ。ユナイテッドCEOのスコット・カービーは炭素隔離技術が究極の排出ガスのオフセット手段となるとみており、航空機の排出ガスからCO2を除去できるとする。

今後必要な措置は

SAF増産の必要性が強まる中で、エアライン各社他航空業界関係筋は各国政府に対し、政策奨励策を実行に移し、原材料並びに燃料の生産ぞきょうを実現すべきとの声が高まっており、エアライン他業者は長期間にわたる関与、投資を続けるべきだ。

米国ではA4Aがガロン2ドルをSAFブレンド業者の税額控除として生産活動の奨励策とするよう求めている。SAF生産工場では同時にグリーンディーゼルの生産も可能で、こちらは要求水準が低いため利益率が高いことが理由だ。このため生産能力は利益率の高い陸上輸送用の燃料に向けられがちで、奨励策が必要との主張でSAF生産に役立つという。

ヨーロッパではReFuelEU Aviation法制がSAF利用促進のため混合方式で提言を出す予測がある。スカンジナヴィアでは導入済みだが、SAF混合比率を高め利用促進を狙う。

欧州連合(EU)が提案する義務内容は2025年に2%、2035年に20%、2040年に32%、2050年に63%と順次増やすとみられる。ヨーロッパで人気があるPtL方式のe燃料では2030年の0.7%を2050年までに25%増やすとの観測がある。

政府へのSAF増産支援では政府にともに働きかける航空業界だが、義務化は業界を二分する可能性がある。米国ではA4Aは混合比の義務化は時期尚早と主張し、SAF生産がまだ少量なことを理由とする。これに対しEUではLCC各社がSAF使用枠の適用を長距離国際線や短距離欧州内路線に求めている。

古代の船乗りは「見る限りの水だが一滴も飲めない」と嘆いたものだが、航空業界に見える持続可能燃料の供給はじれったいほど少ない。だが、状況が変われば今年中にもエアライン、政府、その他関係先が一気に活性化された状況を作り出せそうだ。■

Why Increasing Sustainable Jet Fuel Production Is Critical

Graham Warwick April 30, 2021

 


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