2019年8月18日日曜日

737MAX問題の負担から777-X開発にも影響が出ているボーイング

Aviation Daily

Boeing Delays Development Of Longer-Range 777X Variant

Aug 15, 2019Guy Norris and Adrian Schofield | Aviation Daily

ーイングが777-8開発のペースを落とすと認めた。777-9のフライトテストが遅れ型式証明取得に影響がでているためだ。さらに737 MAXの緊急事態に技術資源をつぎ込んでいることもあり、777-8派生型の長距離機材の引き渡し開始が2023年以降にずれ込むのはほぼ確実だ。
「開発日程を見直し、777Xの顧客ニーズも再検討し日程変更することにした」と同社は述べ、「この調整により開発作業のリスクが減る一方で777-8への切り替えがスムーズに進む」としている。
777-8は乗客365名を8,690カイリまで運ぶ性能があるが受注はわずか45機に留まっている。(エミレイツ30機、カタールエアウェイズ10機)一方で大型版の777-9(414席)には325機の発注があるが、エンジン問題のため初飛行は2020年初頭に先送りされている。ボーイングは777-9の引き渡し開始を2020年末にできるとまだ希望を持っている。
777-8の派生型は超長距離用でカンタスの要望に答えるものだ。カンタスはオーストラリア東海岸からロンドンやニューヨークへのノンストップ便運用が可能な機材を選定したいとする。777-8の遅延についてボーイングは「現在の顧客今後の顧客ともに当社は各社の機材需要に答えていく。カンタスは大事なお客様だ」としている。
カンタスは2022年に引き渡し可能な機材を選ぶとしており、エアバスからは超長距離型A350ファミリーの提案が出ていた。今回のボーイング発表で777-8運用開始が遅れるとわかり、カンタスは「エアバス、ボーイング両社と協力し新機材調達を進めていく。両社から最終提案内容を頂いており、社内検討で精査していく」とし、同社としては今年末に決定する方針を堅持しているという。
777-8遅延があってもカンタスはボーイングを有力視しているようだ。業界筋によればボーイングは採用を期待しており競合から降りるつもりはなく、納期変更を考慮し「魅力溢れたオプション」を提示しているという。
777-8が成功作になる保証はない。また以前の長距離型の777-200LRや747SPのような特殊機材より多く売れるかも不明だ。777-200LRが原型の777F貨物機に代わる新型機が今すぐに必要とは言えない。777Fは依然として好調な売上を記録し、むしろ増産に向かっている。■

. – Guy Norris, guy.norris@aviationweek.com, and Adrian Schofield, adrian.schofield@informa.com

2019年8月11日日曜日

リチウム硫黄は電機飛行機のバッテリー問題の解決策になれるか

Aviation Week & Space Technology

Is Lithium-Sulfur The Answer To Electric Aviation’s Battery Limits?

Aug 7, 2019Graham Warwick | Aviation Week & Space Technology
リチウム硫黄バッテリーはリチウムイオンの2倍のエナジー密度を実現するが、出力と耐久性で改善の余地がある。
空機メーカーに実用に耐える全電動航空機実現の機運が強まっている。だがバッテリーが障害となり、寸法、性能で現行の制約の解消が不可欠だ。
次世代バッテリーが商業化の初期段階にありエナジー密度でリチウム-イオン(Li-ion)を上回り航空機への応用が期待されている。.
まず半導体バッテリーがあり、Li-ionに使われている電解液に変わり固体電解物として安全が向上しエナジー密度も高くなるとその分バッテリー寸法を小型化できる。またリチウム-金属型ではLi-ionの黒鉛陰極のかわりにリチウム金属を用い、これもエナジー密度が高くなる。
もう一つ有望なのがリチウム硫黄(Li-S)で注目を集めているのは英バッテリー新規企業オキシスエナジー Oxis Energy と米電動航空機メーカー、バイエアロスペース Bye Aerospace が航空機応用で協力関係を締結したことだ。バイは二人乗り練習機eFlyer 2の開発に取り掛かっており、Li-ionバッテリーを使用するが大型機用にLi-Sへ注目している。
オキシスは2004年創業でLi-Sのエナジー密度を400 Wh/kg以上に刷るのに成功し、来年早々には500 Wh/kg達成を目指す。Li-ionでは最高性能でも 250 Wh/kgだ。

この性能はサイオンパワーが2015年にキネティック(現エアバス)の太陽光高度無人機ゼファーで達成した 350 Wh/kgを超える。ゼファーは11日間飛行して長時間飛行記録を樹立した。またその後25日間の連続飛行を達成したが別のバッテリー技術を使っていた。
だがエナジー密度だけがバッテリー性能の重要要素ではない。出力、放電充電回数、安全性、寿命も重要要素だ。
リチウム硫黄バッテリーは確かに高エナジーだが高出力ではない。つまりエナジー貯蔵量と放電量の問題だ。高高度疑似衛星となるゼファーのような機体では高出力が必要だが放電率(C)は極めて低くする必要がる。電動の垂直離着陸 (eVTOL) では高いエナジー密度、高出力が必要だが離着陸で放電率は高くなる。
従来型の固定翼機としてジェネラルエイビエーション分野で運用すると高出力が必要となるの離着陸時のみで比較的短時間だが、放電率の制御が必要となる。
リチウム硫黄で懸念されるのは寿命で、これが理由となり開発が進んでこなかった。オキシスのLi-Sは200サイクル程度しかない。一方でLi-ionは数千サイクルとなっている。ウーバーは自社eVTOLsをLi-ionを容量が85%になる1,300サイクルで交換し地上発電需要向けに売却している。


この点は改良が必要とオキシスも認める。エナジー密度にこれまで開発の中心が置かれてきたが、高性能は達成できたので次は寿命の延長をとりあげ、最低500サイクルの実現を2年以内に目指すという。
Li-Sは Li-ionに対しコストでも有利だ。その理由として硫黄はコバルト他のレアメタル素材よりはるかに安価に入手できる。さらにWh/kgが高い。同じ容量なら必要な素材量が少なくてすむ。密度が二倍なのでセル数が半分で済む。
安全面でも有利だ。Li-ionセル内でリチウムが樹状に伸びるとショートが発生し熱暴走が始まるためバッテリー全体で慎重な設計が必要だ。
これに対してリチウム硫黄では樹状成長はなく、一旦形成された小さなくぼみも次回のサイクルでリチウムが使うことで消える。 Li-ionでは陰極陽極間を埋めるスパイクができショートが発生する。だがリチウム硫黄ではこのような望ましくない問題は発生しないという。
オキシスは国連が定めたUN/DOT 38.3試験標準でリチウムバッテリーの輸送を実施したがリチウム硫黄は良好な成績を示したという。.
同社は増産に入っており、ウェールズのポートタルボットに新工場を設け、陰極陽極を製造する他、ブラジルにセル製造工場を置く。民生用途の第一陣は2022年開始予定で年間数百万セルの量産体制に入るという。一方で試作用は1万しか製造していない。.
それにより同社はリチウム硫黄バッテリーの強みを享受する目論見だ。さらにエナジー密度を生かした用途として電動バスがあり、バッテリー集合体で数トンになるほか、携帯型ウェラブル型の電源として軍用用途や航空宇宙用途を想定。.
Li-Sの航空用途としてオキシスは社名非公開の欧州航空機メーカーと性能実証をしている。Li-ionバッテリーによる飛行プロファイルを確認中だ。

リチウム硫黄は軽量なため機内に多数搭載できると同社は見ており、大型バッテリーでは離陸時の放電率は低くできる。Li-Sの高エナジー密度により巡航飛行時間が伸び長いフライトが可能となるという。■

2019年8月10日土曜日

解説 ボンバルディアの民間機事業はどこに誤りがあったのか

Aviation Week & Space Technology

Opinion: The Mistakes Behind Bombardier’s Commercial Aircraft Failures

Aug 6, 2019Antoine Gelain | Aviation Week & Space Technology

CRJの三菱への売却を6月に発表したボンバルディアは33年前にカナデアをカナダ政府から購入して参入した事業から撤退するが、CRJで2千機、Qシリーズで1,300機が製造販売されており、さらに新型Cシリーズの開発まで行ったがボンバルディアの民間航空宇宙産業での実績は財務と戦略面での失敗事例として記憶に残るのは間違いない。
まず、1990年代末に戦略面でジレンマがあった。ボンバルディアはCRJファミリーの機体で大きな成功を収め、50席、70席、86席と次々にストレッチし、ついにリージョナル機の限界まで達してしまった。
ボンバルディア幹部は100-150席規模の分野はエアバスA318/319およびボーイング737-600-700が先乗りしいるもののこのセグメントの需要に最適化しているわけではないことに気づく。そこからボンバルディアに同セグメントのニーズに直接答える機体を一から作る機会を活用すれば既存機種に対して圧倒的に有利になるとの望みが開けた。


紆余曲折はあったものの完全新型機の開発には抵抗できない魅力がありCシリーズが2008年立ち上げられ、野心的なロードマップが広げられた。ねらいは市場の50%を手にすることで、100-150席規模の機体需要は20年で6千機超規模と見積もり、「クラス最高」の性能を燃料消費率で実行し、運行経費、CO2排出量ともに有利な状況を生むと期待できたのは画期的な技術として樹脂流し込みやギアードターボファンが有利に働くとの目算があった。少なくとも大胆なプロジェクトであったといえる。
そしてこの挑戦は同社には大規模すぎると判明した。55億ドルを投じた開発(当初予想の2倍以上になった)、さらに途中で数十億ドルを失い、ボンバルディア社のトップ経営層はこのまま実施を続ければ会社がもたないと見た。Cシリーズの将来はかぼそい糸でつながり、CRJとQシリーズが製品寿命の終わりに近づく中で同社は撤退を決めたのだ。
結局、ボンバルディア経営陣は戦略面でいくつかの誤りをおかしたあげく、市場動向や業界の力関係をもっとはっきりと認識していればこれを避けられたのではないか。
最初の誤りはCシリーズで狙うべきセグメントは同社が親しんできた市場の延長線にはないのを認識できなかったことだ。全く別の市場で要求事項も成功の尺度もこれまでと異なっていた。つまりCシリーズはカナダの小企業が世界を二分する巨大企業に挑戦してしまった事例だ。
二番目の誤りはボンバルディアの従来機種での知見により有利にスタートでき、急速に習熟度がCシリーズで上がると考えてしまったことだ。だがこれだけ多くの技術革新を5年間という短期間に実用化しようとしたことのは都合のよい発想で同社は事実上すべての点で現実に直面させられたのだ。
三番目にはサプライチェーンで規格通りの部品を予定通りかつ目標コスト内で実現する課題を過小評価したことだ。外注化を大胆に進める決定をサプライチェーンの適正な管理がないままにすすめたことで同社はサプライヤーの動向に左右される存在になり、コストは管理不能な状態に陥った。エアバスがここで介入し利益が出るようにA220のサプライチェーンを再構築したのは当然である。 
そうなるとボンバルディア経営陣は最も基本的な社内決定に失敗し、業界の動向の把握にも失敗し、分析をもとに戦略決定刷ることにも失敗している。参入障壁が高い市場に参入していなければ、ボンバルディアは今でも中核事業を守り今より良い状態を保っていただろう。また市場シェアも新規参入組の三菱、Comac、スホイから守っていただろう。またエンブラエルやATRににらみもきかしていたはずだ。Cシリーズのエアバスやボーイングへの売却もなかったはずだ。Cシリーズの売却でエアバスは同社に形式として1ドルを支払ったが、別のケースでは売却価格も異なっていたはずだ。■

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