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2021年11月12日金曜日

遠心力で小型衛星を地球周回軌道に打ち上げる画期的な技術を米新興企業が公開。実用化されれば宇宙利用の構図が大きく変わりそう。

 Spin

SPINLAUNCH

 

運動エナジーだけで小型衛星を安く迅速に打ち上げ可能とする新興企業SpinLaunchにペンタゴンも関心を寄せている。

 

新興企業が運動エネルギーによる宇宙機の軌道打ち上げシステムを公開した。SpinLaunch社の構想では真空密閉した遠心機を回転させ、音速の数倍まで加速してから上方に放出し、大気圏上層部に到達させるものっで、究極的には地球周回軌道に乗せる。同社はカリフォーニア州ロングビーチにあり、従来からのロケットによるペイロード宇宙打ち上げ方式に真っ向から挑戦する構えだ。

 

試作型の初飛行はニューメキシコの宇宙港アメリカで10月22日に実施されたが、同社は昨日になりやっとこれを発表した。

 

同社システムでは真空容器を使い、内部に回転部分があり、対象を超高速に加速し、抗力を打ち消す。その後「1ミリ秒以内に」扉を解放し空中に放出する。バランスを取るため錘が反対方向に回転する。真空密閉は打ち上げ対象が発射管上部の膜を破るまで維持する。

 

SPINLAUNCH.

準周回軌道を目指す発射体が加速器から飛び出した瞬間を捉えた写真

 

 

コンセプトは至極簡単に聞こえるが、作動させるためには課題が多く、しかも連続して作動させるのが最大の難関だったという。

 

「画期的な加速方法で発射体や打ち上げ機を超音速に加速させるため地上システムを作った」とSpinLaunchのCEOジョナサン・イエニーJonathan YaneyがCNBCに述べている。

 

ヤンリーは同社を2014年に創業したが、これまで同社は目立たない存在で同CEOによればこれが効果を上げて

「大胆かつ尋常でない」宇宙打ち上げ方式の開発に功を奏したという。

 

 

準周回軌道を目指す加速器がSpinLaunchの初回テストで使われたが、最終的なハードウェアは全高300フィートとなる見込みでこの3分の1の縮小版だとイエニーは述べた。

 

初回テストに使った準周回軌道用の発射体は全長10フィートで「時速数千マイル」まで加速されたが、加速器の能力の約20%を使っただけだという。

 

同社によれば10月のテストは基本コンセプトの正しさを証明することが主眼で航空力学と放出機構を確認したという。まだテストとしては開始段階のため、発射体は「数万フィート」に放出されたに過ぎない。

 

SPINLAUNCH

加速器の全体像

 

 

発射体はその後回収されたといわれる。再利用可能な構造がSpinLaunch社のコンセプトの重要部分だ。だが、発射シークエンスでは発射体をどうやって回収するのか明らかにしていない。とくに打ち上げ時の解説ビデオでは発射体が2つに分離する様子が見られる。回収システムを加えれば重量がかさみ機構が複雑になるが、超高速かつ摩擦熱に耐える素材の価格を考えると回収する価値があるのだろう。

 

同社の今後の予定ではロケットモーターを発射体につけて軌道飛行を実現するとある。その場合はロケットブースターが発射体と打ち上げ体の分離直後に点火する。以前の報道では発射体は無動力で約1分間移動してからロケットが点火で高度200,000フィートに到達するとあった。

 

ロケットは軌道に乗せるため不可欠ではないと同社は説明している。「運動エナジーで打ち上げた衛星は大ロケットなしで気圏脱出が可能で、SpinLaunchは衛星多数ほか宇宙ペイロードを排出ガスゼロで大気圏に悪影響を与えずに打ち上げる」

 

同社の説明によればこうした飛行は今すぐにも実行可能で、今後六カ月から八カ月で合計30回程度の準周回軌道テスト飛行を行う。その後、同社は軌道打ち上げに挑む。

 

現時点で同社によれば実寸大システムのリスク低減策を90%まで実施済みで最終設計に向かっているという。

 

同社の構想はたしかに「大胆かつ尋常でない」が、成熟化すれば従来の宇宙打ち上げ方法を一変させる可能性を秘めている。今日のロケットによるペイロード運搬では大量の燃料が必要でペイロードのサイズを小さくしている。

 

これに対しSpinLaunchでははるかに小型ロケットを使い、燃料搭載量が少なくなるものの比較上は大きなペイロードを運搬できる。同社はペイロード400ポンド程度までの打ち上げが将来実現すると見ている。

 

SPINLAUNCH

加速器につながる発射管を上から見たところ。高さは300フィートに達する。

 

 

軌道打ち上げ体が完成すれば宇宙港アメリカを離れ、海岸沿いに打ち上げ施設を確保し、「一日数十回」の打ち上げを可能にするとイエニーは述べている。大型で複雑なロケットが不要のためここまで迅速に打ち上げが実施できれば、打ち上げ費用の低下が実現する。加速器で実現する速度により軌道打ち上げ用燃料は四分の一、コストは十分の一に下がるという。

 

これと同じ発想の打ち上げ方法がGreen Launch 社の構想で、地上に「インパルス打ち上げ機」を置き、従来のロケット一段目の代わりとする別のアプローチを採用している。今夏に同社は米陸軍のユマ試験場(アリゾナ)で1960年代の高高度研究プロジェクト(HARP)の残り物も使い、実証実験を行った。

 

SpinLaunchはこれまで110百万ドルを投資機関から集めており、商用運航を目指しているが、技術が本当に成熟化すれば軍用にも使えそうだ。すでにペンタゴンが同社に関心を寄せており、国防イノベーション部が2019年に同社と契約を結んでいる。

 

SPINLAUNCH

.SpinLaunchは沿岸部に施設を確保し、軌道打ち上げを恒常的に行なう

とする

 

 

同システムで運用可能な重量に制限があることからSpinLaunchは大型ペイロードの打ち上げには限度がある。従来型のロケット打ち上げがトン単位の打ち上げを可能にしている。にもかかわらずSpinLaunchは米空軍の要望に多く答えられそうだし、宇宙軍やミサイル防衛庁も同様で、従来より小型化した衛星の宇宙打ち上げがここにきて必要になっているからだ。

 

加えて、短時間に多くの打ち上げが可能となれば軍にとって魅力的となる。大型衛星が各種脅威にさらされ脆弱になっているためで、超大国同士の武力衝突となればSpinLaunchの構想は小型でそこまで複雑でない衛星を迅速に軌道打ち上げするのに理想的な選択肢となる。供用中の衛星多数が機能不全になったり破壊される事態が想定されている。また数千機もの小型衛星で地球全体を網の目のように覆うのがDoDの考えるこれからの衛星運用の姿に合致する。同じことは民生用の宇宙利用にもあてはまる。

 

DIA

国防情報局の公開資料で衛星が一回の運動エナジー攻撃で使用不能あるいは破壊される各種場合が示されている

 

また同社コンセプトには別の軍用用途が考えられる。超長距離砲撃や攻撃任務で遠距離から短時間で標的に命中させる必要が米軍の優先事項トップになっている。この実現に同社技術が利用できることは容易に想像できる。弾頭部分を長距離移動させることだ。SpinLaunchがこの用途をそのまま構想しているかは定かではないが、武器に転用できることは非常に魅力的に映るはずだ。

 

国防総省内関心が高まり軍事装備を軌道へ送り込む画期的な方法として可能性を検分しているが、SpinLaunch意外にも新規企業が存在する。たとえばエーヴァムがオンラインでロールアウト式典を行ったレイヴンX自律打ち上げ機がある。これは再利用可能無人機で衛星など小型ペイロードを軌道上に運ぶ構想だ。

 

だがS;inLaunch、エーヴァム両社のコンセプトはともに簡易、安価かつ柔軟度において従来型ロケット打ち上げより優れると両社は主張している。あきらかに両社は空中打ち上げ方式のノースロップ・グラマンのスターゲイザーやヴァージンオービットのローンチャーワンよりも打ち上げ費用が安くなる。空中発射式では改装旅客機が母機で小型衛星の打ち上げを目指す。ペンタゴンはスターゲイザーをすでに利用しており、実験用あるいは極秘のペイロードを打ち上げている。もちろんSpinLaunchでは打ち上げ施設が地上にある点で、従来型の打ち上げ施設と変わらないが、空中発射式の機動性や柔軟度にはかなわない。SppinLaunchによれば初の顧客向け発射実施を2024年末に行うとある。

 

突然出現し、あたかもSFの世界のような技術コンセプトを持ちだしたSpinLaunchの実行力には疑念も残るが、同社は画期的コンセプトを用いて小型衛星を低コストで軌道に乗せようとしている。

 

果たして同社の巨大な円盤状施設がこれからの宇宙移動手段の中心になるのか近くわかりそうだ。■

 

Space Launch Start-Up Just Used A Giant Centrifuge To Fling A Projectile Into The Upper Atmosphere

BY THOMAS NEWDICK AND TYLER ROGOWAY NOVEMBER 10, 2021

  • THE WAR ZONE

  • この記事はターミナル2で先に公開しました。


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