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2021年11月7日日曜日

NASAが2040年までにらんだ次世代の環境にやさしい航空機構想に積極的に展開中。今後登場するXプレーン各機に期待。

 

NASAが2040年代以降を目指すコンセプト研究では単通路ターボエレクトリックと層界制御機能を搭載する機体を想定している。

Credit: NASA

 

NASAは将来のエアライナー用に実質で環境負荷ゼロをめざす新技術構想をうちだす。

Sustainability logo

2040年以降の路線就航(EIS)を視野に入れたターゲットコンセプトは形成段階で、業界向けに提案書を出す準備に取り掛かっており、超効率を誇るXプレーンとして持続可能なエアライナー技術の実証を2020年代後半に開始したいとする。

 

「業界とは話を始めており、情報開示を今年度末に行いたい」と高性能航空輸送技術(AATT)を取りまとめるNASAグレン研究センター(クリーヴランド)のジム・ハイドマンが述べている。「提案要求は2023年度の予定で、2040年代の機体の技術要素に何が必要か、ゼロカーボン排出なのかゼロ環境負荷なのかを見極めたい」としている。

 

長期構想では単なる持続可能飛行実証機(SFD)のXプレーン(初飛行を2026年に想定)をさらに進め、中核機体技術の成熟化を図り2035年までに就航する単通路機の実現をめざす。XプレーンはNASAの持続可能航空技術国家パートナーシップ(SFNP)構想として他省庁、業界、学界横断の亜音速輸送機研究を開始した2000年代中ごろの研究が源だ。

 

新構想研究ではNASAの亜音速固定翼(SFW)プロジェクトが2005年から2020年まで展開しており、この成果を利用する。N+と通称がつくコンセプトにより騒音、排気ガス、燃料消費で画期的な技術革新を並行して進めた。このうち登場時期を早期に想定したN+1研究は通常のチュープ+主翼形状のエアライナーに2015年時点ですぐ応用できる技術を採用するコンセプトとした。

 

N+2では目標を2020年代中の就航とし、GE90搭載のボーイング777を比較対象とした。騒音ではステージ4以下で-42 dBとし、離着陸時のNOx排出量はCAEP6上限から75%減にし、燃料消費は40%減にした。さらに大胆な目標を設定したのがN+3で2030年代中の路線就航を想定した高性能エアライナーだ。

 

AATTプロジェクトになったSFWは環境責任を果たす航空技術(ERA)から生まれたもので、2010年にN+2の路線就航に合わせ統合実証機能を想定した。ERAでは実力のある企業や研究者に厳しい要求の騒音、排出、燃料消費の目標を同時並行で与えるもので、これまでは最終排出目標を優先して他の要素を犠牲にした以前のプロジェクトと異なる。

N+4の実現がNASAの長期亜音速コンセプトの目標だ。ここにERAが2009年から15年にかけ加わっていた。写真は構想モデルのひとつ。Credit: NASA

 

「N+4は2040年以降のEISを想定したコンセプト研究事業です」「燃料消費を抑えるだけの目標ではなく、より大きな姿を想定しています」とハイドマンは述べており、新発想の機体、推進方法、システム構想として水素他の持続可能な航空燃料も想定する。「義務化されているわけではありませんが、さらに上を行く環境目標の実現で必要となります」

 

2040年以降の路線就航を想定するコンセプト研究では「全く別の動きの舞台を用意する」とハイドマンは述べており、SFW/AATTならびにERAの研究が最新のXプレーンに道を開いたと説明した。「さらにもう一度実施します。良好なモデルです」とした。

 

現時点で具体的な性能や排出量削減効果の目標は公開されていないが、ハイドマンによればNASAの戦略実施案(SIP)が亜音速輸送機の2040年時点の目標を設定しているという。例としてステージ4では騒音合計で52dBの削減、離着陸時のNOx排出はCAEP 6より80%以上の削減、巡航時のNOx排出は2005年時点の最優秀機材より80%以上削減し、燃料/エナジー消費も2005年標準の80%以上削減とする。

 

「これについて業界に必要とされる内容を求めていきたい。単純に要求内容に従うことはしたくない」とし、「2040年代に必要となる内容を吟味し、業界からニーズ対応の工程表に必要な情報をいただきたい。業界全体の対応方針が決まれば各社別の工程表ができます」とハイドマンは述べている。

 

この方法により出力、燃料、維新系の技術を統合しコンセプト研究に盛り込む。「水素やその他技術で突破口となる要素が生まれるでしょう。バッテリーの大幅性能向上もそのひとつです」「そうなるとカーボン排出量や環境負荷の大幅な削減に向け利用可能な技術への対応準備が必要ですね」

 

ボーイングは持続可能機としてのXプレーン構想をTTBWとしてNASAに提案し、2026年までに飛行開始となるとしている。Credit: Boeing

 

水素燃料他電力系の技術は2040年代でも研究対象の想定だが、NASAはこの分野での研究アプローチを定めていない。「関心は特にヨーロッパで高いのですが、こちらはどの手段が有望なのか評価中というのが現状で、エアバスの各種コンセプトを参考にしています」「NASAでは宇宙分野で低温技術の利用を図っていますが、当方でも関心があり応用できそうな分野があります。水素では社会インフラの問題もありますね。今後こうした課題に取り組んでいきます」(ハイドマン)

 

研究では電動化やハイブリッドコンセプトの大型機応用もあり、SFDのXプレーン構想ではらせん状に進化する技術要素も対象にしている。ハイドマンは「とはいえ大型機は難易度が高いです」「現時点は単通路機に注力していますが、次は機体サイズについてオープンに検討しなおします」「大型機になるのか、小型機になるのか。市場動向が決めることです。そのため機体については柔軟な態度をとっています」とした。

 

次のN+4研究ではNASAの大学リーダシップ事業で研究資金を受けている米国内大学数校の研究者で専用研究チームを構成し、NASAの研究内容を補完する研究課題を設定する。

 

新規研究ではNASAで評価済みのさらに未来的な技術各種も再検討対象とする。NASAはボーイング他とSFWのN+3先端コンセプト研究を2008年にさかのぼり実施している。その一部として多機能軽量機体構造、電動高茎推進システム各種のほか高アスペクト比の遷音速トラスブレイスウィング(TTBW)コンセプトがあり、これはボーイングと共同研究した。ボーイングは同技術を応用した構想をXプレーン契約で提案するとみられる。

 

ボーイングはN+4技術の検討を2011年にNASA共同研究の遷音速超軽量グリーン航空機研究(SUGAR)として行った。その際の研究対象として2040年代のエアライナー設計に高度空気力学推進技術を取り入れるとしていた。さらに液化天然ガス、水素、燃料電池、バッテリー方式の電気ハイブリッド、低出力原子力、層面桐生制御、アンダクテッドファン他高性能プロペラ技術も含む。

 

SFD研究は2026年の初飛行のあと6カ月継続し、2027年に終了するとNASAは発表しており、SFDの地上テスト飛行テストのデータを活用し、採用事業者の性能水準をNASAが定めた中期性能目標に照らし合わせ評価する。これはNASAが2025-35年に登場する亜音速機の性能目標として定めたものだ。

 

それによれば技術登場レベルを5から6、つまり生産開発に移る準備ができた状態)として機体は騒音でステージ4より32から42dB下にするとある。その他NOx排出量、h燃料消費効率はSIP目標に準拠する。

 

NASAはボーイングの高効率TTBW構想の詳細検討を行う準備もできており、SFNPの目標に照らしあわせるとしているが、持続可能技術の実証機の仕様は業界からの提案書に左右されるとしている。SFNPではNASAも高出力ハイブリッド電気推進システムの大型輸送機応用を実証するとしており、複合材機体構造を現行より4-6倍早く製造し、小型コアのタービンエンジンに高温効率を盛り込む。Xプレーンがこうした技術の効果を実証する。

 

2040年以降の機体コンセプトと持続可能飛行実証機はともにNASAが新推進技術や超音速技術の飛行テスト実施を加速化する中で出てきた構想だ。持続可能Xプレーン構想とともにNASAは業界チームと電動パワートレイン飛行実証事業に取り組んでおり、2022年からX-59低ソニックブーム超音速飛行実証機ならびにX-57分散電動推進技術実証機の飛行を開始する。■

 

NASA Reveals Study Plan For 2040 Eco-Airliner

https://aviationweek.com/aerospace/emerging-technologies/nasa-reveals-study-plan-2040-eco-airliner

Guy Norris October 25, 2021

Guy Norris

Guy is a Senior Editor for Aviation Week, covering technology and propulsion. He is based in Colorado Springs.


2021年8月5日木曜日

DHLは輸送機を全機電動タイプにするビジョンで、支線用に電動リージョナル機アリスを導入、ローンチカスタマーになる。

 日本が遅れているのか、欧米では電動航空機が急速に存在感を増しているようです。しかもその主役は誰も聞いたことのない新興企業ということで、航空業界に大きなチャンスがやってくるのでしょうか。

 

DHL

Credit: Eviation


 

界規模で活動を展開するDHLエキスプレスイーヴィエーションEviationのアリス電動リージョナル機の貨物型のローンチカスタマーとなり、2024年から路線投入する。

 

12機発注はワシントン州アーリントンに本社を置くイーヴィエーションに大きな突破口となる。同社はバッテリー推進式アリスの大幅設計変更を6月に発表し、前方と後方にアクセスドアをつけた貨物スペースは450 ft.3のでペイロードは2,600-lb.、最大440カイリを巡航速度220ノットで飛ぶ。

 

パイロット一人の操縦で飛行時間当たり30分未満の充電が必要となるアリスは支線に投入される。DHLエキスプレスのグローバルネットワーク運行・航空貨物輸送担当の執行副社長トラビス・コッブは一号機を「米南東部や西海岸での運行を想定」と述べており、着陸後に貨物を積み下ろしする間に充電する想定だ。

 

「実際の路線はこれから検討するが、アリスのペイロードと航続距離から支線投入がふさわしい」とDHLエキスプレスのグローバル航空機材管理部門長ジェフ・ケールがAviation Weekに伝えてきた。「つまり800マイル未満でアリスの貨物搭載量にふさわしい需要がある路線となろう」

 

親会社のドイツ郵便DHLグループは70億ユーロ(83億ドル)を2030年までに投じCO2排出を削減すると2021年初頭に発表した。機材の電動化やサステナブル航空燃料、さらに温暖化を招かないビル建築に資金を投じる。

 

DHLが固定翼機を全て電動式に置き換えようとしているが、その他の貨物輸送大手にはUPSのように電動垂直離着陸(eVTOL) の導入を企画するむきもある。4月にUPSフライトフォーワードがベータテクノロジーズBeta Technologiesのエイリアス10機を発注し、支線運用に投入するとした。さらにオプションで上限150機を設定した。

 

ケールは「当社はイーヴィエーションで第一歩を踏み出し、2024年からの運用実績を見て電動機あるいはハイブリッド電動機など別の手段で2050年までにゼロエミッションをめざします」

 

「アリスの貨物機型は内装以外はコミューター機と同様です」とイーヴィエーションCEOオマー・バーヨハイがAviaiton Weekに語っている。「アリスは貨物を短時間で積み下ろしできる設計で、キャビン内にハードポイントを各所に設け貨物ネットで小型貨物の荷崩れを防ぎます。温度管理コンパートメントで温度に敏感な貨物も安全に移動できます」

 

アリスの設計変更は今年末に予定される初飛行につながる。三点式降着装置で当初より荷物積み下ろしが楽になった。当初はV字尾翼だったが新設計でT字になり、胴体上部に推進用プロペラを付けたナセルを乗せる。推進用に640-kW マグニ650電動推進ユニット二基を使う。関係会社のマグニXMagniXが開発したものだ。

 

最大機体重量は14,700 lbと当初の14,000 lb. から増え、アスペクト比が大きい主翼は59.1フィートに延長された。バッテリー重量は8,200 lb.のまま容量は820 kWhに下がるが、リチウム-ニッケル-マンガン-コバルト酸化物セルで構成する。■

 

DHL Launches All-Electric Alice Cargo Version

Guy Norris August 03, 2021


2021年5月16日日曜日

再生可能航空燃料(SAF)の大幅増産が必要な理由。2050年に向け、今年から大きな動きが民間分野、政府間に出てきそう。

 Aviation Weekの長文記事ですが代替燃料の最新状況がわかります。

 

ネステの再生可能燃料精製工場はフィンランドにある。Credit: Neste

 

生可能代替航空燃料(SAF)の不足が深刻だ。米エアラインも英国他とならび実質ゼロカーボン排出を2050年までに達成することになり、代替燃料の必要性が航空業界で増している。

再生可能ソースからの航空燃料増産が航空業界の排出量削減に必須というのは各シナリオで共通している。燃料消費が優れる新型機へ更新しても変わりはない。同様に飛行空域を変え、新型推進技術が開発されたとしても同じだ。

だが増産規模は莫大だ。SAFの2020年生産量は6億ガロンに過ぎない。ジェット燃料全体の消費量2019年の960億ガロンと比べ微量だ。

2050年までの純ゼロ目標達成を発表した全米エアライン協会(A4A) は政府他関係機関と共同しエアライン向けSAFの20億ガロン提供を2030年に目指す。グローバル規模でみれば今後の課題の規模が明白に想像できる。

民間航空では炭素ガス排出を2005年水準で2050年までに半減させる目標が2009年以来示されており、各国が前倒しを模索している。ICAOの2022年目標は達成可能とはいえ、その実現のカギを握るのがSAFだ。

一部エアラインはもっと意欲的な目標を掲げている。貨物空輸専門のドイツ郵便DHLは2030年までに3割の燃料をSAFにする目標を掲げる。同社は2019年に4.8億ガロンを消費した。デルタエアラインズは2030年までにSAFを10%にすると2019年に目標設定した。ジェットブルーエアウェイズは2040年にネットゼロをめざしており、SAFの増産を求めている。

増産でSAF価格を下げる必要がある。現在はジェットA燃料の3-5倍の価格だ。IATAはSAFが価格で競争力を発揮できる生産量を2019年実績の2%つまり19億ガロン程度とみている。IATAはこの実現は2025年とするが、現在の30倍の増産が前提となる。

新型推進手段の出現でSAFの長期ニーズで議論が生まれている。EasyJetCEOヨハン・ランドゲンの意見は短距離路線運航会社はSAFよりカーボンオフセットに資金投入すべきとし、ゼロエミッション技術となる電気推進や水素の実用化が近づいているとする。

だが電気推進や水素動力の機体は当面飛行距離が500から1,000nm程度に限られ、現行の短中距離機材や長距離機材も長期的にはSAFが唯一の脱炭素化手段となりそうだ。

SAFがなぜ必要なのか

世界の民間航空のCO2排出量は10億トン規模にすぎない。技術や運用の改良により、さらにパンデミックによる影響を入れても2050年時点で20億トンまで増加する予測がある。

目標が2050年までに50%削減なのか、ネットゼロなのかは異なるが、燃料消費効率が優秀な機体、航空交通管制の改善、さらに新型電動や水素推進技術がこの達成に効果を上げるはずだ。それでもSAFやカーボンオフセットが必要となることに変わりない。

FuelKLMは今年2月、部分混合の持続可能合成ケロシンによる商用飛行を実施した。燃料はシェルが供給した。Credit: KLM

 

SAFは飛行中の排出を減らすものではない。温暖化効果ガス排出は炭素のライフサイクルで発生する。通常型ジェット燃料の燃焼により化石CO2が放出され、大気中の炭素量が増える。SAFを燃焼すると植物が吸収した炭素を大気に還元することになる、あるいは家庭ごみの燃焼や産業廃棄物が放出していたはずの炭素を放出することになる。

その結果、ライフサイクルCO2排出が「目覚ましく」純減する。SAFがバイオマスの使用済み調理油などから生産されるで効果は80%にも達する。大量削減効果は森林からも期待できる。CO2取り込みと再生可能電力で合成燃料を生産すれば化石航空燃料の大幅削減も可能となる。

一部の供給原料にはカーボンネガティブ効果が期待される。米国再生可能エナジー試験所の3月公開発表ではSAFを木質廃棄物から生産するとネットの炭素排出量を最大165%削減できるとある。これだけ大きな削減効果が期待できるのは従来は木質廃棄物を埋め立てて腐食すして発生するメタンが減る効果が大きい。メタンはCO2の20倍の温室ガス効果がある。

SAFの費用

2020年9月に業界団体Air Transport Action Group (ATAG)が発表したWaypoint 2050 報告書では航空業界が2050年までにCO2排出量を半減させる目標への選択肢を検討しているが、いずれの場合でもSAFが不可欠だと判明した。

SAFを最大限使用するシナリオでは年間1.160億から1,510億ガロン(4,400億-5,700億リットル)の生産が2050年に必要とある。電動、水素推進を最大限導入してもSAFは620-900億ガロン必要となる。

2050年までのCO2半減だけでこれだけの量が必要となる。パリ合意では世界の温度上昇は2C以下に抑えるとあり、ATAGは航空業界はより大胆な炭素排出削減を求められる年上昇幅が1.5Cになればなおさらだとする。

温度上昇を1.5Cに抑えるためには世界の航空業界は2050年までの純ゼロエミッションが必要になるとATAGは指摘し、SAF生産は年間380億ガロンの増産になる。

世界規模でSAF増産が迅速に実現すれば「2050年目標の先に向かうおそらく唯一かつ最大の機会」となるとWaypoint 2050は結論づけ、2050年までに1,500ないし1,700億ガロンが必要となると算出している。

ATAGは今後10年で業界としてこの目標達成が可能か判断する必要が生まれると分析している。SAF生産施設が何か所、どこに必要となるかを検討するのが課題だ。

各地にSAF工場が数百か所必要となる。各工場の建設には数億ドルが必要で、さらに増産が課題となる。英国だけで14か所での13億ガロン生産が2035年までに必要となる。そのひとつVelocysのゴミ燃料転換工場の建設費は7億ドルにのぼる。

SAFはどこまで使えるのか

増産が課題だが、消費増は別の問題だ。現在の航空機用SAFは通常型ジェット燃料と最大50%までの混合に限定されている。この制限はSAF混合燃料は通常型のジェットA燃料と混合され、既存の空港の燃料共有設備を改修せずに使うためだ。

混合比率に上限があるのは供給原料を燃料に転換し、合成パラフィンケロシンを製造するが、炭化水素の量が化石ジェット燃料の含有量に達しないためだ。炭化水素原子が不足すると燃料系統で問題が発生し、機体やエンジンに支障が生じる。

現在のSAFでは混合比率を一桁に抑えており、多分にこうした制限は学術的なのだが、エアライン側がSAF使用を増やす際にこの制限が足かせになる。このためエンジンメーカー企業はエアバスボーイング等機体メーカーとともに100%SAFで稼働するエンジンの実現を目指している。ボーイングでは100%SAFで稼働する機体の型式認証を2030年までに得る。

供給原料からのSAF生産方式は現在7通りあり、触媒加水熱分解ジェット燃料CHJでは芳香族を含有しており混合比上限が100%までとなるが、そのまま使える。その他方式には100%使用で承認待ちのものがある。だがSAFの大部分で混合比率の上限があり、燃料性状認証までにさらにテスト、改良が必要だ。

SAFの中で最初に民生使用が認められるのは水素処理エステル脂肪酸HEFAで、混合比は最大50%に制限される。これは芳香族が含まれないためだ。ただし、エンジンテストで100%HEFAをロールスロイスがテストしており、エアバスとボーイングは飛行テストを実施していることから今後の新型機はHEFA100%での運用が可能となり、エアライン側はライフサイクルCO2削減効果をフル享受できそうだ。

だがHEFAのみでは本質的に化石燃料と同質ではない。メーカーは100%HEFA使用を一部機材でのみ認めているが、他の代替燃料と異なる利用が必要としている。FAAは利用可能な機材は一部に留まるとしている。そのため100%HEFAはSAFだが「限定的」な存在で全機には導入できない。

SAFのメーカーは?

2020年時点でSAFの大手供給企業は二社しかなかった。カリフォーニアのWorld EnergyとフィンランドのNesteである。ただ今後数カ月でこの構図が大きく変わりそうだ。生産施設の稼働が続き、原材料の搬入が増える。これは長年かけての投資活動の成果である。

Fuelフルクラム・バイオエナジーのレノ工場(ネヴァダ)は市内の固形ごみをSAFに転換する。Credit: Fulcrum BioEnergy

 

この二社が増産を続けるが、SAF工場の核となる専用工場が今年から2024年にかけ操業を開始する。2021年はフルクラムバイオエナジー Fulcrum BioEnergyが年産10.5百万ガロンの生産工場をネヴァダ州レノに完成させ、市内固形ごみ(MSW)からSAFを生産する。レッドロックバイオフュエルRed Rock Biofuelsの年産16百万ガロン工場はオレゴン州レイクヴューにあり、今年中に操業開始し、木質バイオマスから燃料を生産する。

2022年にはランザジェットLanzaJetのエタノール処理燃料工場がジョージア州ソパートンで操業開始の予定で、年間10百万ガロンの生産能力の9割をSAF生産にあてる。同社は2025年までに工場を4か所に増やし、1億ガロンのSAFを生産する大胆な計画を進める。

スカイNRGSkyNRGはKLMが共同出資して2010年生まれた会社で持続可能航空燃料のサプライチェーン開発にあたり、ヨーロッパ初の専用SAF工場を2033年に完成させる予定だ。オランダ・デルフセイルにあるDSL-01の施設はHEFA方式のSAF等を年間36百万ガロン生産する能力を有し、廃油から再増する。

また2023年にはWorld Energyがカリフォーニア州パラマウントのHEFA工場を拡張し、年間150百万ガロンの生産能力を実現する。NesteはHEFA480百万ガロンをフィンランド、シンガポール、オランダで生産するのを目標とする。。

FAAが進める民間航空代替燃料事業(CAAFI)では2023-24年に年間600百万ガロンのSAF生産能力が追加されるとしている。この一部としてジーヴォGevoが非食用とうもろこしを燃料転換する初の工場をミネソタ州ラヴァーンで操業開始する。

SAF増産は世界規模で広がる。石油精製業トタル Total (フランス)とプリーム Preem(スウェーデン)は初のHEFA工場を2024年に操業開始し、パラグアイのオメガグリーンOmega Greenは年産300百万ガロンの生産施設でHEFAのSAFとグリーンディーゼルの生産を2024年までに開始する。

原料は確保できるのか

今後のSAF増産では廃棄物利用として供給原料の投入が主流となる。再生可能燃料生産の初期にヤシ油のような原料を使ったことで批判を浴びていた。ヤシ油のため土地利用方法が変わり食料生産に影響が出るという批判だった。

SAFの商業生産の初期では廃棄植物油や動物脂肪さらに調理油を主に使っていた。生産方法が広がり、生産施設建設が始まると利用可能な供給原料の幅も広がっている。

航空業界では廃棄物利用への流れが望ましいとし、食料生産との競合を避けたいとする。供給源はひろがっており、都市部の固形ごみは従来は埋め立てや焼却で処理され、工業プロセスで生まれるガスや農林産業で生じる残さいも利用できる。

PtL合成燃料への関心も高まっている。これはe燃料とも呼ばれ、大気中のCO2と再生可能電力から生成する。ヨーロッパが先行しており、限定規模ながらバイオマスを原料に持続可能燃料を製造する。PtL技術はまだ未成熟で高価格だが、大規模な増産が必要となるだろう。

KLMは今年二月にシェルがCO2、水、再選可能エナジーから生産した合成PtLケロシンを少量混合し初の営業運行を実施した。オランダではe燃料で別の事業二件の発表があった。ロッテルダムのゼニドZenid、アムステルダムのシンケロSynkeroだ。その他e燃料生産事業がデンマーク、ドイツ、ノルウェーにある。

SAF生産の潜在性を分析した世界経済フォーラム(WEF) では各種原料を使えばATAGの最も大胆なシナリオとするSAF利用の2050年目標を実現する生産能力は十分存在するとしている。分析では380億ガロンの追加生産能力がMSWから、農林業残滓から570億ガロン、廃ガスから150億ガロンの生産が可能だという。

WEF分析では石油、セルロースは食品生産と競合せず、土地利用変更も起こさず2050年までに620億ガロンのSAF生産を実現できるとする。これは航空業界の需要に対応できる規模だ。PtL燃料は理論的には無限の生産量が実現するものの、利用層は他にもあり競合が生じる。

SAFは買うのはだれか

SAFの利用拡大に大きな役割を演じているのはこれまでごく一部のエアラインや燃料供給会社だった。その一つがユナイテッドエアラインズで、World Energyと長期間オフセットSAF契約を結び、2016年からHEFA燃料供給を受けロサンジェルス国際空港を拠点に運行する定期便に使用している。

その他エアラインも利用を開始している。フルクラムのレノ工場はユナイテッド、キャセイパシフィックエアウェイズ、航空燃料メーカーのWorld Fuel Servicesと契約している。レッドロックのレイクヴュー工場はフェデックス・エキスプレスサウスウェストエアラインズシェルに供給している。

増産が続く中で初期からのメーカーのNesteはHEFA方式SAFの利用客を数多く確保しており、全日空フィンエアKLMのほか、サンフランシスコ国際空港を本拠地に運行する米系各社、航空燃料供給会社の Air bpAvfuel、シェルが含まれる。

ICAOが進めるCORISA国際線向けカーボンオフセット事業ならびにSAFを利用してエア林のオフセット義務を軽減する方策として、利用契約は増える一方だ。デルタは2019年に年間10百万ガロン供給契約をジーヴォと結んでおり、2023年から納品が始まる。デルタはノースウェスト・アドバンスト・バイオフュエルNorthwest Advanced Bio-Fuelsと条件付きオフテイク契約も結んでおり、木質廃棄物を燃料に転換する工場をワシントン州に建設する。

MSWを原料にSAF生産する工場をロンドンに建設する案は資金不足でとん挫したが、ブリティッシュエアウェイズ(BA)はVelocysとアルタルトプロジェクトと組み年産13百万ガロンのMSWからSAFを生産する工場を円グランドのイミンガムに建設し、2025年から生産開始する。

BAはアルタルト施設の所有オプション契約を3月に延長したが、同社はランザジェットのソパートン工場にANAと共同出資し、燃料オフテイク契約とともにアルコール原料のジェット燃料工場が英国内に建設できないか検討する。

業界ではオフテイク投資契約が徐々にだが着実に増えている。ジーヴォはSAFをスカンディナヴィアンエアラインズ(SAS)へ販売し、ユナイテッドには 1PointFiveへの大型投資をする。同社は大気中のCO2回収を専門とする新興企業だ。ユナイテッドCEOのスコット・カービーは炭素隔離技術が究極の排出ガスのオフセット手段となるとみており、航空機の排出ガスからCO2を除去できるとする。

今後必要な措置は

SAF増産の必要性が強まる中で、エアライン各社他航空業界関係筋は各国政府に対し、政策奨励策を実行に移し、原材料並びに燃料の生産ぞきょうを実現すべきとの声が高まっており、エアライン他業者は長期間にわたる関与、投資を続けるべきだ。

米国ではA4Aがガロン2ドルをSAFブレンド業者の税額控除として生産活動の奨励策とするよう求めている。SAF生産工場では同時にグリーンディーゼルの生産も可能で、こちらは要求水準が低いため利益率が高いことが理由だ。このため生産能力は利益率の高い陸上輸送用の燃料に向けられがちで、奨励策が必要との主張でSAF生産に役立つという。

ヨーロッパではReFuelEU Aviation法制がSAF利用促進のため混合方式で提言を出す予測がある。スカンジナヴィアでは導入済みだが、SAF混合比率を高め利用促進を狙う。

欧州連合(EU)が提案する義務内容は2025年に2%、2035年に20%、2040年に32%、2050年に63%と順次増やすとみられる。ヨーロッパで人気があるPtL方式のe燃料では2030年の0.7%を2050年までに25%増やすとの観測がある。

政府へのSAF増産支援では政府にともに働きかける航空業界だが、義務化は業界を二分する可能性がある。米国ではA4Aは混合比の義務化は時期尚早と主張し、SAF生産がまだ少量なことを理由とする。これに対しEUではLCC各社がSAF使用枠の適用を長距離国際線や短距離欧州内路線に求めている。

古代の船乗りは「見る限りの水だが一滴も飲めない」と嘆いたものだが、航空業界に見える持続可能燃料の供給はじれったいほど少ない。だが、状況が変われば今年中にもエアライン、政府、その他関係先が一気に活性化された状況を作り出せそうだ。■

Why Increasing Sustainable Jet Fuel Production Is Critical

Graham Warwick April 30, 2021

 


2021年5月4日火曜日

電動推進式旅客機の実現の課題とは。商用化可能なまでの技術が登場すれば、航空業界にも大きな地殻変動を巻き起こす。

  

 

NASA hybrid electric aircraft concept

Credit: NASA

 

民間航空への電気推進方式導入の課題とは何だろうか。

Aviation Weekの技術担当編集者グラハム・ウォーウィックとフランス支局長ティエリ・デュボアの見解を聞こう。

 

民間航空部門で電動推進方式を応用するとバッテリー、モーター、配線、冷却まで多様な課題に直面する。しかし、自動車で技術革新が実現しており、電動推進の航空機への応用が現実になりつつある。

 

最大の課題はバッテリーのエナジー密度の低さだ。ジェット燃料は12,000 Wh/kg だが民生用リチウムイオンバッテリーは250 Wh/kg程度しかない。

 

これだけ差が大きいと克服不可能に見えるが、電気推進の先進企業では小型短距離機に特化し、現在利用可能なバッテリーを採用している。小型とは19席までを指し、短距離とは250マイルまででリージョナル路線としては十分だという。

 

開発陣もバッテリー問題を無視しているわけではない。電動モーターの効率を最大限し、内燃機関に近づける努力をしている。

 

バッテリー効率は毎年5-8パーセントの率で向上している。NASAの控えめな予測でも2030年にバッテリーのエナジー密度は350-Wh/kgで商用利用可能となり、全電動短距離30席機が実現するとある。商用利用とはバッテリーサイズが大きくなり、充電時間、サイクル回数が改良されることを意味する。

 

実用レベルではエナジー密度400-500 Wh/kgが今後の最適解でハイブリッド電動機に採用されれば50席のリージョナル機材から150席単通路機まで応用範囲が広がる。NASAは400超Wh/kg級バッテリーの実用化を2035年とみているが、400 Wh/kgの実現には新技術が必要だ。

 

エナジー貯蔵の別方法に水素がある。液体水素として超低温の-253C (-423F)で貯蔵すれば水素は現行のジェットA-1燃料よりエナジー単位上は軽量となる。燃料電池で電力に転換する方法は確立済みだ。

 

では水素はバッテリーよりエナジー貯蔵で優れた方法なのだろうか。審判は下っていないが、課題は残る。液体水素はジェット燃料よりエナジー密度が低く貯蔵タンクは大型となる。また燃料電池をメガワット級に大型化する技術は未確立だ。

 

NASA concept of hybrid-electric aircraft Credit: NASA

 

航空分野での水素技術で先を行くエアバスはハイブリッド仕様を想定している。水素の一部をガスタービンで燃焼させ(水素利用として効率は犠牲にする)、残りは燃料電池で発電に使う。

 

最大出力が必要となる離陸上昇時にはタービンと電動モーターを併用しプロペラあるいはファンを回転させる。巡航時にはタービンだけでプロペラ/ファンを回転させる。この方法で電動部分が全体効率の最適化に貢献する。

 

エナジー貯蔵以外にも出力密度と効率をモーターや制御回路で高めるべきで、要求水準は自動車を上回る。高密度になればモーターが小型でき、効率が高まれば排熱が減り、冷却系統の重量も減る。

 

電動推進方式では高電圧化で配電系統の重量サイズを小型化できる。高電圧にすることで電流量を減らし、機内の配電系統も小さくできる。

 

航空機では28ヴォルトを使用してきたが、新型機は270Vになっている。全電動機で500Vを採用する例があるが、メガワット級の単通路機では3.000Vになるというのが開発陣の見解だ。

 

ここまでの高電圧で気圧が低い巡航高度に上昇すると部分放電と呼ぶ危険現象が発生しかねない。そのため配線絶縁の方法を新開発し放電現象のを回避する必要がある。

 

長期的に見れば、超電導技術に期待が集まり、エアバスもまさしくここを研究している。超伝導体は冷却しても電気抵抗が発生せず、効率が高まるので小型化が実現する。

 

超電導モーター、配線で出力密度が高まり、排熱が減れば、全電動航空機やハイブリッド電動航空機で複雑な構造の冷凍機が必要となる。水素燃料を使う機体では液体水素の超低温を使いシステムの冷却が可能だ。

 

総合すると電動推進方式を商用機に応用するには課題が多いが、自動車で技術進展は迅速に進んでいる。

 

電動推進方式が短距離飛行に限定される状況が変わらないと、中距離長距離に合成燃料など別手段が必要となるが、いずれにせよ航空輸送業界が抜本的に変わる可能性がある。■

 

What Are The Electric-Propulsion Challenges In Commercial Aviation?

Graham Warwick Thierry Dubois April 30, 2021

https://aviationweek.com/special-topics/sustainability/what-are-electric-propulsion-challenges-commercial-aviation


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