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2021年5月4日火曜日

電動推進式旅客機の実現の課題とは。商用化可能なまでの技術が登場すれば、航空業界にも大きな地殻変動を巻き起こす。

  

 

NASA hybrid electric aircraft concept

Credit: NASA

 

民間航空への電気推進方式導入の課題とは何だろうか。

Aviation Weekの技術担当編集者グラハム・ウォーウィックとフランス支局長ティエリ・デュボアの見解を聞こう。

 

民間航空部門で電動推進方式を応用するとバッテリー、モーター、配線、冷却まで多様な課題に直面する。しかし、自動車で技術革新が実現しており、電動推進の航空機への応用が現実になりつつある。

 

最大の課題はバッテリーのエナジー密度の低さだ。ジェット燃料は12,000 Wh/kg だが民生用リチウムイオンバッテリーは250 Wh/kg程度しかない。

 

これだけ差が大きいと克服不可能に見えるが、電気推進の先進企業では小型短距離機に特化し、現在利用可能なバッテリーを採用している。小型とは19席までを指し、短距離とは250マイルまででリージョナル路線としては十分だという。

 

開発陣もバッテリー問題を無視しているわけではない。電動モーターの効率を最大限し、内燃機関に近づける努力をしている。

 

バッテリー効率は毎年5-8パーセントの率で向上している。NASAの控えめな予測でも2030年にバッテリーのエナジー密度は350-Wh/kgで商用利用可能となり、全電動短距離30席機が実現するとある。商用利用とはバッテリーサイズが大きくなり、充電時間、サイクル回数が改良されることを意味する。

 

実用レベルではエナジー密度400-500 Wh/kgが今後の最適解でハイブリッド電動機に採用されれば50席のリージョナル機材から150席単通路機まで応用範囲が広がる。NASAは400超Wh/kg級バッテリーの実用化を2035年とみているが、400 Wh/kgの実現には新技術が必要だ。

 

エナジー貯蔵の別方法に水素がある。液体水素として超低温の-253C (-423F)で貯蔵すれば水素は現行のジェットA-1燃料よりエナジー単位上は軽量となる。燃料電池で電力に転換する方法は確立済みだ。

 

では水素はバッテリーよりエナジー貯蔵で優れた方法なのだろうか。審判は下っていないが、課題は残る。液体水素はジェット燃料よりエナジー密度が低く貯蔵タンクは大型となる。また燃料電池をメガワット級に大型化する技術は未確立だ。

 

NASA concept of hybrid-electric aircraft Credit: NASA

 

航空分野での水素技術で先を行くエアバスはハイブリッド仕様を想定している。水素の一部をガスタービンで燃焼させ(水素利用として効率は犠牲にする)、残りは燃料電池で発電に使う。

 

最大出力が必要となる離陸上昇時にはタービンと電動モーターを併用しプロペラあるいはファンを回転させる。巡航時にはタービンだけでプロペラ/ファンを回転させる。この方法で電動部分が全体効率の最適化に貢献する。

 

エナジー貯蔵以外にも出力密度と効率をモーターや制御回路で高めるべきで、要求水準は自動車を上回る。高密度になればモーターが小型でき、効率が高まれば排熱が減り、冷却系統の重量も減る。

 

電動推進方式では高電圧化で配電系統の重量サイズを小型化できる。高電圧にすることで電流量を減らし、機内の配電系統も小さくできる。

 

航空機では28ヴォルトを使用してきたが、新型機は270Vになっている。全電動機で500Vを採用する例があるが、メガワット級の単通路機では3.000Vになるというのが開発陣の見解だ。

 

ここまでの高電圧で気圧が低い巡航高度に上昇すると部分放電と呼ぶ危険現象が発生しかねない。そのため配線絶縁の方法を新開発し放電現象のを回避する必要がある。

 

長期的に見れば、超電導技術に期待が集まり、エアバスもまさしくここを研究している。超伝導体は冷却しても電気抵抗が発生せず、効率が高まるので小型化が実現する。

 

超電導モーター、配線で出力密度が高まり、排熱が減れば、全電動航空機やハイブリッド電動航空機で複雑な構造の冷凍機が必要となる。水素燃料を使う機体では液体水素の超低温を使いシステムの冷却が可能だ。

 

総合すると電動推進方式を商用機に応用するには課題が多いが、自動車で技術進展は迅速に進んでいる。

 

電動推進方式が短距離飛行に限定される状況が変わらないと、中距離長距離に合成燃料など別手段が必要となるが、いずれにせよ航空輸送業界が抜本的に変わる可能性がある。■

 

What Are The Electric-Propulsion Challenges In Commercial Aviation?

Graham Warwick Thierry Dubois April 30, 2021

https://aviationweek.com/special-topics/sustainability/what-are-electric-propulsion-challenges-commercial-aviation


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