2021年8月30日月曜日

JALとGEエイビエーションが737用エンジンの整備支援契約が発効。MROビジネスはどこまで伸びるか。

  

 

 

 

日本航空(JAL)はCFM56-7Bエンジンのアフターサービス整備支援契約をGEエイビエーションと締結した。期間は5年で、対象エンジンはJALが運航するボーイング737-800で使われている。

TrueChoice Overhaul 契約ではJALはCFM56-7Bエンジン100基以上のオーバーホール作業と必要資材の提供を受ける。JALは737-800を48機運用中。

写真 JALがGEとの契約対象にしたCFM56-7Bエンジン。両者はこれと別に類似の整備契約を締結している。Credit: CFM International


「CFM56-7B向けTrueChoice Overhaul契約により新たな競争力がコスト節減、OEMならではの高い信頼性を通じて実現する」とJAL調達本部長中川由紀夫が述べている。

GEでは類似のアフターサービス契約をこれまでJALと結んでおり、GE90、GEnx-1B、CF34-8E、CF34-10E、CF6-80C2の各エンジンを対象にしている。「今回の契約により高品質のOEMサービスをJALのCFM-56-7B各エンジンに提供できます」とGEエイビエーションサービシズの社長兼CEOラッセル・ストロークスがコメントしている。

COVID19の流行前、JALは自社保有156機のMRO契約を別途取り交わしており、787部品ではコリンズエアロスペース、737、767、777の各エンジン部品の修理ではメギットが相手先となっている。■

 

Japan Airlines Pens CFM56-7B Services Agreement With GE

James Pozzi August 25, 2021

https://aviationweek.com/mro/japan-airlines-pens-cfm56-7b-services-agreement-ge


2021年8月28日土曜日

ジェットブルーの大西洋横断路線参入でどんな変化が生まれるのか。LCCの大西洋横断路線運航がこれまで挫折した中で同社は生き残れるのか。既存大手の対抗策は?コロナ禍だからこそ商機ありと判断する根拠とは。

 

 

ジェットブルーエアウェイズが念願の英国便開設を実現した。大幅な料金値下げをひっさげ世界有数の大西洋横断路線に旋風を巻きおこすのか。

 

007便となったジェットブルーのエアバスA321LRがロンドン・ヒースロー空港 (LHR) に8月12日午前到着し、同社が大西洋横断路線に就航した。第一便には同社CEOロビン・ヘイズが乗客となり、ジョン・F・ケネディ国際空港 (JFK) を8月11日夜遅くに離陸した。

 

JetBlue Airways aircraft ジェットブルーの大西洋横断初便がロンドン・ヒースロー空港に8月12日到着した。Credit: JetBlue Airways


 

8月はデイリー運航だが、9月は週四便に減らし、ロンドンのガトウィック空港 (LGW).に到着地を変更する。10月にデイリーに戻す。同社はボストン-ロンドン線を2022年に開設する。

 

同社は大西洋横断路線にあたり強固な自社ブランドイメージ、新世代A321LR、上級仕様のミントで24名にフルフラットシートをビジネスクラスに設定し、従来の低運賃キャリアが長距離路線で経験した挫折を回避できるとしている。直近ではノーウェイジャン・エアインターナショナルが赤字を脱却できず大西洋温暖路線から2019年撤退している。

 

ノーウェイジャン他の失敗の歴史を眺めると、ニューヨーク=ロンドン路線に参入したジェットブルーはどうなるのかという疑問が出てくる。業界では早速同社には有利に働く点があるとの指摘が出ている一方、障害となる要因がいくつかあるとの声もある。

 

Aircraft/Airline Projects Inc.社長のクレイグ・ジェンクスによればノーウェイジャンには真のビジネスクラスと呼べるものがなかったことが上級利用客獲得で障害となった。他方でジェットブルーは42インチピッチのシートを提供し、上級クラスがA321にある点を指摘する。

 

「ロンドン=ニューヨーク路線への新規参入事例を見ると参入後にすべてプレミアムクラスの必要性に気づいています。現行各社はビジネスクラスの販売収益でエコノミークラスの低料金を穴埋めしているのが現状です。単一クラス編成では成り立ちません」(ジェンクス)

 

Cranky Flierブログで人気を博すブレット・スナイダーは飽和気味のニューヨーク=ロンドン線ではジェットブルーも苦戦するとみている。A321LRの運行経済性は確かに魅力だが、ワイドボディ機のシートコストが低く、これに対抗するのは「勝ち目がない」とする。

 

「シートを埋めコストを下げるエアラインが既存各社に対抗するという図式ではない。むしろ効率が優れることで知られる機材を使いながらワイドボディ機のシートコストには対抗できないエアラインになるのではないか」

 

COVID-19大流行の中で新サービスを展開するとは尋常ではないように見えるが、航空旅行需要が低迷しているからこそ好機といえるのであり、ただでさえ混雑しているLHRのスロットペアを確保する好機だ。通常ならスロットペア入手には30-50百万ドルが必要でジェットブルーはこれまでは支払い価値があるか懐疑的に見ていた。だがパンデミック中で通常なら手に入らないスロットが手に入る。

 

ロンドン第二の空港LGWは本来はジェットブルーが希望する就航先ではないはずだが、英国発の観光需要で大きなシェアを同空港が持っていることは知られている。そこでジェットブルーの米国内・カリブ海路線が訴求力を持つことになる。また運航コストも比較的安価でありながら路線連絡が便利な空港で鉄道路線で市中と結ばれアクセスも容易だ。

 

英米間のビジネス需要に食い込もうとジェットブルーは便数を増やす必要に迫られそうだ。COVID-19前は大手会社はニューヨーク=ロンドン線で毎日4便を運行していた。ただしジェットブルーはLHRでのスロット追加と同様に困難に直面しそうだ。

 

「ヒースロー=ニューヨークの便数が極めて重要ののはビジネス利用客が好きな時に移動できることを重視しているからで、時間帯はばらつくからだ」とジェンクスは述べ、「ジェットブルーは便数を増やす方針だろうが、どう実現するかが試される。来年1月にウィルス問題が終わっていれば、スロットの空きはなくなり、40-50百万ドルに戻っているだろう」

 

ジェットブルーが成功を収めるには英米双方の既存エアラインとの厳しい競争に勝ち残る必要がある。アメリカンエアラインズ=ブリティッシュエアウェイズデルタエアラインズヴァージンアトランティックの各共同事業体に加え、ユナイテッドエアラインズがある。こうした大手に比べジェットブルーの提供座席数はごくわずかだとはいえ、これまで米大陸横断路線で同社が既存の構図を破壊してきた実績から放置すれば同社が再び秩序を破壊する恐れもある。

 

大手各社はジェットブルーの脅威を深刻に受け止めている。ユナイテッドはボストン=ロンドン線を開設し、ジェットブルーの2022年運行開始に先手を打った。各社とも当面はジェットブルーと料金で対抗する。

 

上記のスナイダーはエコノミークラス料金は夏の旅行シーズン明けに「競争激化」するとみている。ビジネスクラス料金は「予測困難」とし、理由として大手がジェットブルーの料金水準にどこまで合わせるかが見えないためとする。パンデミックのためビジネスクラス料金が低く抑えられたままだが、スナイダーはジェットブルーの参入に対し大手は短期的にイールドを犠牲にする動きに出るとみる。

 

「大手各社は脅威と受け止めれば積極策に出るだろう。かなり大規模な対抗策が出てくるのではないか。提供座席数では大きな変化はないだろうが、料金収益の管理が大きく変わりそうだ」

 

これに対しジェットブルーには各種の対応策がある。強力な商品ぞろえ、機材の効率引き上げ、さらに経験豊かな経営陣がある。だが同社はロンドンの混雑した空港で便数を増やすことの難しさに直面するはずだ。

 

ジェットブルーが短期間で黒字化に成功すれば、新規参入の成功例となり、A321LRの性能で可能なその他ヨーロッパ乗り入れとしてアムステルダム、マドリード、パリやローマも視野に入るだろう。■


JetBlue Puts Transatlantic Ambitions To The Test

Ben Goldstein August 20, 2021

https://aviationweek.com/air-transport/airlines-lessors/jetblue-puts-transatlantic-ambitions-test


2021年8月24日火曜日

アフガン脱出ピッチを高めようと米軍が戦後三回目の民間機動員へ。民間予備航空機部隊CRAF制度とは。カブール空港の状況はどうなっているか。

 



USMC

イラク帰還の米海兵隊員がマーチ航空予備基地(カリフォーニア)に到着した。機体はチャーター機。2004年



軍がこれまで運用されることが少なかった民間エアライン・チャーター会社の機材利用に踏み出した。各社は機材を提供し、有事の作戦要求にこたえる。アフガニスタン脱出作戦が展開中である。20社程度が民間予備航空機部隊に加わり機材乗員を24時間程度提供するがハミド・カルザイ国際空港へ直行せず、中間地点まで運ばれた避難民を最終目的地へピストン輸送することなる。


ペンタゴン発表ではロイド・オースティン国防長官が米輸送軍団 (TRANSCOM)に命じ民間予備航空機部隊Civil Reserve Air Fleet (CRAF)の第一段階を発令する。動員されるのはアメリカンエアラインズデルタエアラインズアトラスエアオムニエアの各社で各社三機を提供する。さらにユナイテッドエアラインズが4機を提供するほか、ハワイアンエアラインズは2機を出す。米軍関係者は合計18機の型式について触れていない。


国防総省、商務省はCRAFを1951年発足させた。ベルリン空輸作戦の経験がその前にあり、民間機を臨時に活用する制度が生まれた。


エアライン、チャーター会社がCRAFに加入しており、TRANSCOMが契約相手となる。加入は完全自発的とされっるが、加盟会社は英字の米軍人員貨物輸送時に優先利用される。


各社機材は性能により国内専用あるいは国際輸送に割り振られる。「国際部門のCRAFに加わる会社は最低でもCRAF任務達成可能な機材が4割あることが条件」と空軍は述べている。CRAF加盟会社は各機に乗員チーム4組を準備する必要がある。米軍では加盟会社は点検整備や安全運航基準も満たす必要があるとする。


2021年8月時点で24社がCRAFに加わっており、提供機材は450機に上る。このうち413機は国際運行に耐える機材で、残る37機は国内専用となる。機数は毎月変動する。また加盟会社数も変動する。何もなければ機材は通常の民生輸送を続ける。


予備機を今回投入するが三段階に分かれる。第一段階が現在進行中で今回のアフガニスタン脱出支援のように地域内緊急事態に対応する。第二段階では投入機数が増え、大規模な戦闘や国家動員体制に備える。


「通告後に加盟会社がCRAF向け機材提供を24-72時間以内に実現することなっており、時間数は段階ごとに異なる」と空軍は説明している。TRANSCOMは空軍の航空機動軍団(AMC)を通じ提供CRAF機材の運用を統括するが、各エアラインがあくまでも自社機材の運用に責任を有する。


予備機材が投入されたのは過去2回しかない。初回投入は1990年の湾岸戦争時で二回目は2003年の米主導イラク作戦の際だった。だがCRAF機材は演習によく動員されている。


「CRAF動員により国防総省は民間航空機の機動性を利用でき米市民や関係人員の国外脱出を進める国務省を支援できる。特別移民査証を有するもののほかリスクが高い個人を脱出させる」とペンタゴンは公式声明を発表。「CRAF機材はハミド・カルザイ国際空港には乗り入れず、臨時安全地帯からの移動に投入される。CRAF動員により空輸能力は軍本来の能力を超える規模となり、軍用機はカブールでの運用に集中できる」


昨日の報道ではチャーター会社でCRAF加盟企業が「警告命令」を受け取り、機体提供が迫っていることを知らされたとある。チャーター便はすでに米軍のカブール空輸の大きな柱で、17千名(大部分が米国人以外)を週末にカブールから脱出させたという。


ただし、避難民処理の能力不足や補給面、手続き面で障害が発生しており、カタールのアルウデイド航空基地のハンガー内ではアフガン避難民多数がすし詰めになっている。避難民は足止めされ別地点に移送されることになっていた。アルウデイド基地での滞留は先週悪化し、ハミド・カルザイ国際空港の出発便が8時間にわたり停止となる措置が8月19日から20日にかけ発生したほどだ。


米国はドイツのラムステイン航空基地へ避難民を搬送しており、さらにカタール、クウェイトが到着地点に加わった。ラムステイン行のフライトでは妊婦が産気づき米空軍第86救命隊が機内で出産を助けた。C-17Aはアフガニスタン国外脱出のイメージと結びついた。


米政府は各国と協議中で避難民受け入れを一時的にせよ求めている。すでに承諾した国もある。ただし、肝心のフライトがまだ実現していない。


CRAF機材の投入で補給面のストレスが減るかもしれない。米軍機はもっと危険なカブールでの運用に集中できそうだ。またハミド・カルザイ国際空港の混雑度も緩和されよう。ランプが不足し一本しかない滑走路を活用せざるを得ず、機体多数が地上待機を迫られている。


これとは別にハミド・カルザイ国際空港へたどり着くのは難問だ。空港を一歩出ると状況は混とんとしており、死の影もあり、保安上の懸念は日一日と増えている。昨日も米国務省から米国民に不特定の保安上の脅威のため空港へ近寄らないよう通達があり、米政府から連絡がある場合に限り空港へ移動してよいとある。その後の報道でISISの一派がアフガニスタンにおり、避難作戦を標的とするテロ攻撃を準備中とある。


こうした状況でフランス・英国の部隊はカブール市内で外国人および高リスクのアフガニスタン国民を空港へ誘導している。ドイツ軍もヘリコプターで同様の支援を提供すると発表した。米軍もカブールで同様の作戦を一例実施した。ペンタゴンは引き続き部隊増派の予定はないとしている。


こうしてみると予定した撤収作戦を米軍が実施可能となるのはまだ数週間先のようだ。とはいえ、この段階でCRAFの投入のみを決めた理由が理解できない。カブールが陥落すれば米政府のため働いていたアフガン国民数千名がタリバンの報復の対象となり、国外脱出が必要となることは以前から想定できていた。8月31日のデッドラインで撤収を完了させる必要があり、CRAF動員が遅れたことは理解に苦しむ。


同時に各国国民をハミド・カルザイ国際空港から妨害なく脱出させられるかはタリバン次第だ。タリバンは権力掌握をねらっているが、国内に武装抵抗の動きも出てきた。米軍は反タリバン勢力を空爆で支援するか明言を避けている。

 

今回のCRAF機材動員はアフガニスタン脱出を迅速かつ円滑に進めるための選択であることは明らかだが、今なぜこれを必要なのかは今後説明が必要だろう。■

 

What The Civil Reserve Air Fleet Is And Why It's Been Activated For The Third Time In 70 Years

 

The fleet can dramatically bolster the Pentagon's own air transport capabilities and that is what it will do for the evacuation of Afghanistan.

BY JOSEPH TREVITHICK AUGUST 22, 2021

 

 

Contact the author: joe@thedrive.com



2021年8月21日土曜日

アフガニスタンからの脱出を急ぎ、各国で民間航空にも動き。ロシアが民間機提供を提示。一方で、空域閉鎖でヨーロッパ発アジア行路線に影響が出ている。

 


ロシア政府のツボレフTu-214がロシア政府関係者をアフガニスタンから脱出させた。ロシアから第三国への亡命を希望するアフガン国民にも自国航空機の利用が提示されている。 (Photo: Vladimir Karnozov)

リバンから逃れ国外脱出を求めるアフガン国民向けにロシアが「民間航空サービス」提供に乗り出す。ロシア外務省報道官マリヤ・ザカローバが8月19日に発表した。ウラジミール・プーチン大統領がタジキスタン、イラン、ウズベキスタン、フランス、イタリアの各国首脳と電話会談をした成果だという。

「カブール国際空港の状況が悪化しており、また西側諸国が自国部隊や関係者の国外脱出にもてこずる状況では各国に協力したアフガン国民の移動もままならない状態だ。アフガニスタン国内の人道状況をこれ以上悪化させないためにも、ロシアは民間航空機によりアフガン市民多数を受け入れを受諾する各国に移送する準備がある」と同報道官は外務省の通常報道記者会見で述べた。

合わせてロシア自身もロシアとつながりを有するアフガニスタン国民等を受け入れる。アフガニスタン国内にはロシア人約100名がおり、ロシア大使館に登録しており、多くが現地人と結婚したロシア人あるいはソ連ロシアで教育を受けたアフガン人であり、ロシアへの移動を希望している。「大使館領事部はこうした申請の処理に集中している」(ザカローバ報道官)ロシア入国当局は8月22日期限でアフガニスタン退去にむけた準備を済ませるよう通告している。

「アフガン当局から新たにロシア側へ連絡が入り、ロシア民間航空機による空港利用に異議はないと伝ええてきた。乗員乗客の安全は保障するとも伝えてきた」(ザカローバ報道官)

同報道官はロシア外務省が現地エアライン、アリアナアフガンエアラインズを利用してきたとも述べている。「この選択肢が機能しなくなり特別チャーター便でロシア国民を移動させる」とする。

タリバンがカブール空港への各国着陸申請を拒否する例が増えており、あくまでもケースバイケースであるとし、米空軍には例外的に8月30日までの期限としているが、9月に入って10日程度の延長となりそうだ。

現在カブール空港に出入りしている民間機としてはターキッシュエアラインズのボーイング777があり、同機はイスタンブールに移動している。ただし同社は8月16日のフライトの詳細を明らかにしていない。

8月18日にはロシアのUTAir運航のボーイング767一機がモスクワからカブールに到着した。国営TASS通信によれば国連アフガニスタン援助ミッションのチャーターで通常の人員移動を行っているとある。

アフガニスタンを脱出した避難民の到着地に各国が機体を送っており、ルフトハンザはウズベキスタン首都のタシケントにA340一機を送り、避難民130名をドイツ政府によるエアブリッジの一環で輸送している。

アフガニスタン上空の空域ほぼ全域は民間飛行に閉鎖されており、エアライン各社が大幅な回り道を強いられている。影響はヨーロッパアジア間を結ぶ路線で顕著で、例としてブリティッシュエアウェイズ3599便がロンドンからバンコクに向かうため通常より南を飛ぶ航路に変更した。定刻より二時間余分にかかり、燃料消費も15トン追加となった。

ICAOでは緊急事態調整チームを今週発足させ、アフガニスタンに出入りする航空輸送の調整に乗り出しあ。IATAも会員企業と調整に入る。

IATAはカブール空港の運用業務を軍が担当している事実を認め、近隣諸国の航空管制当局と増加交通量の処理で合意しているという。■

Russia Offers To Fly Afghans Out of Kabul with Airliners

by Vladimir Karnozov and Charles Alcock

 - August 19, 2021, 1:21 PM


2021年8月20日金曜日

米中の冷たい関係はエアラインにも波及。座席数4割上限での運行を両国当局が指示。発端は上海到着後に陽性反応が出たユナイテッド便。

  

 

LAX

Credit: Joe Pries

 

米運輸省(DOT)は中国系エアラインの米国乗り入れ便の総座席提供量を規制する。これは同様の措置を先に行使してきた中国当局への報復だ。

 

今後四週間にわたり、米国へ乗り入れる中国エアライン四社定期便で座席数が4割上限に抑えられる便が出る。影響を受けるエアラインは中国国際中国東方中国南方厦門航空の四社だ。

 

中国政府は7月21日サンフランシスコ発のユナイテッドエアラインズ上海行便にCOVID-19陽性の乗客5名が乗っていたことを理由に制裁措置を行使していた。

 

中国民間航空局(CAAC)は「サーキットブレイカー」ルールでユナイテッドに選択肢三つを選ばせた。サンフランシスコ便三フライトを運航中止する、2便分を無乗客で運航すること、乗客数を4割上限にして4便運航する。ユナイテッドは三番目を選択し、8月11日から上限ルールを適用した。

 

ただし、DOTは米政府は「サーキットブレイカー」措置に反対の意向を繰り返し示しており、「不合理な責任をエアライン側に押し付ける」との理由だと説明している。

 

「各エアラインは中国の規制内容をすべて順守していたのに乗客が到着後に陽性と判明して罰則を科すのは不合理だ」というのがDOTの主張だ。

 

「各エアライン側には独自にテストを行う手段がなく、この点で中国当局の主張と異なる。さらに、該当乗客がいつどこでCOVID-19に感染したかは把握しようがない」

 

このため4割上限措置は中国国際の北京-ロサンジェルス(LAX)線、中国東方の上海ニューヨーク線、中国南方の広州LAX線、厦門エアラインズのアモイLAX線が対象に適用される。

 

OAGのSchedules Analyserを見ると、2021年8月16日の週で米中ノンストップ便の合計座席数は往復で4,100となっている。2019年の同月同週では210千だった。■

 

 

U.S. Imposes Capacity Limits On Four Chinese Carriers

David Casey August 19, 2021

https://aviationweek.com/air-transport/airlines-lessors/us-imposes-capacity-limits-four-chinese-carriers


2021年8月14日土曜日

UAP未確認宇宙現象の解明に民間科学者グループが動き始めた。軍の機密情報には頼らず、今後データを集めていくという。何らかの結果が出てくるのか期待したい。

   ターミナル1、ターミナル2共通記事です。

Oumuamua interstellar object

初めて見つかった星間物体オウムアムアの図。発見は2017年10月19日のことだった。Credit: M. Kornmesser/ESO

 

400年も前にイタリアの天文学者ガリレオ・ガリレイが一冊の本を著し、太陽系について別の見方を提示し、地球が中心ではなく太陽の周りを地球が回っていると主張した。

 

著書「天文対話」は物議を醸しだし、以後190年間出版禁止扱いとなった。懐疑派は天体望遠鏡を覗くことさえ拒否し、ガリレオの主張の裏付けとなる木星の月、土星の輪の観察を避けた。ガリレオは残りの人生を囚われたまま過ごした。

 

そのガリレオの名前を使い、地球外生命による人工物を探知しようという科学者の一派がある。

 

ガリレオプロジェクトは未確認宇宙現象(UAP)の公開データベース整備をめざす。「目標は現在理解されている物理学に基づいて透明度の高い分析を行うこと」とハーヴァード大宇宙物理学者エイヴィ・ローブが記者会見で7月26日に語った。

 

「科学界にはシステム的科学的かつ透明性ある形で地球外技術の証拠を追い求める必要がある」「地球外技術が発見された場合の科学、技術、さらに世界全体への影響はとてつもなく大きくなるだろう」

 

民間資金で発足したガリレオ・プロジェクトと並行し、ペンタゴンは6月25日の報道発表で軍と情報機関によるUAP目撃事例144件の一次調査結果を議会に伝えたとした。目撃事例の大部分は物理的な存在とし、光学あるいは大気状況による錯視ではない。ただし、詳細情報につながる精度が足りない。「最も保守的な組織である政府がこれを公表したこと自体が異例で、頭上の空に人知では理解できない物体があると述べた」(ローブ)

 

「国家安全保障にかかわる問題だ」とローブは評した。だが目撃例は「軍人や政治家が解釈できるものではない。観察訓練を受けておらず、そもそも科学者ではないからだ。科学界が解明するべきで、天文学者が物体の本質を解明するように進めるべきだ」

 

ペンタゴンのUAPタスクフォースの結論は説明がつかない目撃談多数は米国の極秘技術と無関係ながら、軍のパイロット他信頼のおける人員がこうした事例を目撃していることだ。「そこに大きな意味がある」と語るのはルイス・エリゾンドで、2007年に発足した米政府のUAP調査をねらった高度航空宇宙脅威識別事業の責任者だった。

 

「30年にわたり、超特別な技術へ注意を払ってこなかった。だが、この考え方は終わった」とエリゾンドはワシントンポスト取材にこう述べている。

 

「我々の技術から50年から1,000年先の技術が対象だ。こうした技術なら我々の現有装備より高い性能を発揮できる。要するにいったい何を対象にしているのかわからなくなる。オプションはすべて示すべきだ」

 

ガリレオプロジェクトは研究分野を3つ想定する。UAPの高解像度画像を同時に多数の装置で撮影すること。次に星間物質の探査で、2017年に見つかった葉巻状の星間移動体オウムアムア(ハワイ語で偵察者)の例がある。さらに地球周回中の地球外生命による衛星の存在を確認することだ。

 

「UAPの多くで説明がつくようになればよい。蜃気楼や電磁効果あるいは地学上の現象かもしれない」とプロジェクトの共同創設者フランク・ローキン(バッカーグループ社長兼CEO、科学器具メーカー、本社マサチューセッツ)が述べている。「あくまでも不可知論でとらえ、データは公開する」

 

ガリレオプロジェクトはこれまでの目撃例の評価はしない。「こうした事案は交差検証、証拠に基づく科学的説明につながらないためだ」とローキンは述べた。「霧を取り除き科学的解析をデータを積み重ねて進める。政府所有のセンサーで得たデータは使わない。大部分が機密扱いのためだ」

 

プロジェクトはこれまで1.81百万ドルを集めており、天文望遠鏡のデータを活用する。同グループではオウムアムアのような物体を近い地点から観察すべく宇宙機打ち上げも企画している。■

 

Scientists Launch Privately Funded Hunt For Unidentified Space Objects

Irene Klotz August 05, 2021

https://aviationweek.com/defense-space/space/scientists-launch-privately-funded-hunt-unidentified-space-objects


2021年8月9日月曜日

米空軍の資金投入で極超音速旅客機開発が一気に進む期待。設立3年の新興企業にも大胆な投資を行う姿勢が技術の進展を進める。

 A concept image of the Hermeus Quarterhorse hypersonic aircraft.

ハーミウスのクォーターホース極超音速機の想像図. HERMEUS

 

  • 今回はターミナル1 ターミナル2共通記事です

空軍はベンチャーキャピタルファンド数社と60百万ドルをジョージアの新興企業に投じ、極超音速旅客機の軍用版の実現を狙う。

 

空軍はハーミウス Hermeus に7月30日に60百万ドルの契約を交付した。空軍で民生技術の軍事利用を実現すべく設立したAFWERXが仲介する事業としては最大規模になった。

 

空軍の研究開発トップ、ヘザー・プリングル少将は「極超音速機の推進システムには画期的な意義があり、前世紀に自動車がもたらしたように移動形態が大きく変わる」と述べた。

 

ハーミウスが製造するのは再利用可能な極超音速機で、従来の極超音速試験機はすべて使い捨てだったため大きく異なる機体となる。

 

空軍との契約によりハーミウスは技術開発を加速化しマッハ5飛行可能な旅客型の実現をめざす。完成すればニューヨーク=ロンドン間を90分で移動可能となる。

 

「当社の技術開発に資金を投じることで空軍が実用に耐える装備の実現を目指していることは明らか」と同社CEOにして設立者AJ・ピプリカが発言している。

 

今回の戦略的な資金投入合意によりハーミウスが軍とのつながりがさらに深まった。同社へは昨年1.5百万ドル相当の契約が空軍から交付されており、政府高官を世界各地に運ぶ研究がはじまっている。

 

ハーミウスは2018年に元ジェネレーション・オービットの技術者4名が設立し、まず無人実証機クォータホースの完成をめざしている。

 

今回の空軍からの契約金で同社はクォーターホースの試験飛行を18カ月後に実現できる見通しがついた。契約で同社はテスト要員を20201年中に50名にまで増やすことになっており、テスト日程を約1年短縮させる。

 

「人員投入を増やし加速化させつつ垂直統合も進めていく」とピプリカは語り、「これで内製化が進み、日程管理、コスト管理等を強化できる。全体ロードマップを大きく加速できる」としている。

 

今回の空軍契約の交付でハーミウスに今後3年間の戦略的目標が定まり、そのひとつにクォーターホース3機を完成させテスト飛行を開始することがある。テスト飛行には目標がふたつある。マッハ5飛行および機体を繰り返し飛行させることだ。

 

同社設立者でCOOのスカイラー・シュフォードは「機体を完成させエンジン技術のテストを全飛行域で行うのが目標だ」とする。

 

クォーターホースにはジェネラルエレクトリックJ85エンジン一基を搭載する。これはT-38練習機と同じエンジンでさらに高速域用のエンジンをハーミウスが開発中だ。

 

「エンジンと機体の一体化が社内でできることでシステム統合が迅速に進められる」と同社の内情に詳しい筋が開設する。

 

クォーターホースは「今後登場する機体へのつなぎの役目」とシュフォードは述べており、同社は「より大型の旅客機」の実現をめざしている。■

 


US Air Force, Venture Firms Make $60 Million Bet on Hypersonic Aircraft Startup

BY MARCUS WEISGERBER

GLOBAL BUSINESS EDITOR

AUGUST 5, 2021

 

参考:ハーミウスのウェブサイトhttps://www.hermeus.com/

 


2021年8月7日土曜日

良い前兆が見えても不確定さが消えない民生航空業界。ボーイングが新型機開発の決断に踏み切れない理由とは...エアバスとの差がさらに広がるのか。

  

ボーイング737-10は6月に初飛行し、2023年路線就航の予定だ。Credit: Boeing

 

間航空宇宙分野に生気が戻りつつある。エアラインの発注が増え、利益が復活し、航空機メーカー、サプライヤー各社で増産が再び話題となっている。だがよい兆候の前にふさがるのが長期展望での不確実さだ。

 

次世代機やエンジンがいつ登場するか、またその形状についてはむしろCOVID-19危機前より今のほうがはっきりしないほどだ。

 

ボーイング社長兼CEOのデイヴィッド・カルホーンは737-10および777Xの型式証明取得に焦点をあてつつ、777X貨物型が次の新事業になると述べている。

 

だがボーイングではR&D資金の減少を隠しようもない。2020年の25億ドル程度は2019年の2割減で、減少は2021年も続き、上半期は9.96億ドルにとどまっている。うち民生機用のR&Dは5.24億ドルにすぎない。

 

ボーイングの次の事業では資金減が課題だが、根本的な疑問が残る。エアバスが単通路機増産に向かう中でボーイングは新型機開発に乗り出さなくていいのか。このままではエアバスが数年のうちにマーケットシェアを6割まで増やしボーイングは守りとおせなくなる。

 

もう一つがジェネラルエレクトリックサフランの合弁事業CFMがRISEオープンファン推進方式の実証機開発を決定したことだ。ボーイングも次世代機の開発決定をするのかしないのか迫られる。カルホーンも新型推進技術の重要性をここにきて強調しはじめた。

 

GEエイビエーションは新型エンジンをRISEの技術研究開発をもとに開発しても姿をあらわすのは2035年以降としており、RISEの技術要素が現行のLeapエンジンに代わる新型エンジンに応用され新型ボーイング機に採用されるのは2020年代末まで待たされることになりそうだ。

 

ナローボディー機分野でエアバスが優位だが同社の状況も複雑だ。同社は2023年に月産64機に移行するが、パンデミック前の生産計画を下回る水準の生産が三年続き、ここ18カ月はいかなる犠牲を払っても発注取り消しを回避しつつ、納入先送りへの柔軟対応に専念してきた。このため数百機相当の生産予定が発注エアラインやリース会社の合意をもとに後年度に変更となっている。月産64機になっても受注残は8年分となり、しかも増産の実現は2年先のことだ。

 

エアバスで問題となるのは生産スロットの空きが2026年まで非常に少ないことだ。A320neoを追加生産したいが、スロットがない。そのため、早く機体が欲しい顧客はリース会社あるいはボーイングに向かうことになる。どちらもエアバスには朗報とならない。

 

そこでエアバスは予定通りの拡大を実現すべく、サプライチェーン各社に増産に向け設備投資しても安全だと納得させる必要に迫られている。ボーイングも同様に財務状況が大きく改善し、ナローボディ機増産に目を向け始めた。ただし、同社の増産規模はそこまで大きくない。

 

ボーイングは納入を停止して積みあがっていた787完成機100機近くの引き渡しを急ぐ。ワイドボディ機全体への需要は国際渡航制限とともに低迷しており、ボーイングはこの機会に787事業の立て直しを期待している。■

 

Why Is Boeing Slowing Down All New Aircraft Plans?

August 04, 2021

https://aviationweek.com/mro/why-boeing-slowing-down-all-new-aircraft-plans

 by Sean Broderick, Michael Bruno, Guy Norris, Jens Flottau


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