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2021年6月2日水曜日

ベラルーシによる国家ハイジャックは世界の共通ルールを破るもので糾弾されるべきだが、世界の独裁国家が真似てゆくのではないか。

 

Belarus Hijacked a Plane and Set a Disturbing Precedent

 

Other Regimes Will Hijack Planes Too

If Belarus gets away with it, authoritarian dictators around the world will have a new tool of oppression.

BY ANNE APPLEBAUM

STAFF WRITER, THE ATLANTIC

MAY 30, 2021 08:00 AM ET

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  • ARTUR WIDAK / NURPHOTO / GETTY / MINDAUGAS KULBIS / AP

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価値観が衝突する場合でも、文明社会には共有すべきルールがある。その例が海洋法で、航空管制もそのひとつだ。パイロットがどこを飛ぶにせよ、地上管制の指示が政治的な意図のもと欺瞞にみちたものであってはならない。あるいは危険な着陸を指示してはならない。

 

ベラルーシの独裁者アレクサンダー・ルカシェンコがこの基本原則を破り、前例のない行動に出た。航空当局に指示し、ギリシャのアテネからリトアニアのヴィリニュスに向かう途中でベラルーシ上空を飛行中のライアンエア機をハイジャックした。ベラルーシ航空管制がパイロットに同機に爆弾が仕掛けられたとの虚偽の連絡を入れた。ベラルーシ国営メディアによれば同機はMiG戦闘機編隊の「護衛」がついてベラルーシ首都ミンスクに向かった。

 

実際には爆弾はなく、脅威もでっち上げで、ミンスクは一番近くの空港でもなかった。同機が着陸したが、乗客を安全誘導する係官は皆無だった。乗客のうち二名が連れ去られたことで、今回の事件の動機が明らかになった。そのひとり、ロマン・プロタセヴィッチはベラルーシの反体制派ブロッガーでありジャーナリストだ。もう一人がガールフレンドのソフヤ・サペガだ。プロタセヴィッチはミンスクで昨年夏に盛り上がった速報チャンネルNextaの編集者の一人だった。本人は2019年に同国を脱出し、亡命生活を送っていた。不在裁判でベラルーシは本人を「テロリスト」認定した。連行される際にプロタセヴィッチは別の乗客に「死刑になる」と伝えていた。ベラルーシではソ連方式の尋問、独居房、拷問が日常茶飯事だ。

 

詳細には不明な点も残る。ライアンエアはハイジャック事件後に数時間にわたり不可解な沈黙を守っていたが、機体整備が理由とする事務的な声明を発表した。事件翌日に同社CEOは「国家によるハイジャック」と呼んだが、実態は疑う余地がない。ベラルーシ政府は航行管制手順を悪用し、パイロットは本当に緊急事態が発生していると通告されたが、真意は批判分子の拉致だった。いいかえれば、ロシアが放射性物質、神経ガスをロンドンで使い政敵を倒した事件、サウジアラビアがイスタンブールの同国領事部内で自国民を抹殺した事件、オランダで自国民の批判勢力を暗殺したイラン、海外居住の自国民、自国出身の外国市民を拉致監禁した中国と同じだ。人権団体Freedom Houseはこうした手口を総じて「国境を変えた抑圧」と呼び、600件におよぶ類似事件があると指摘する。

 

こうした事件の根源はひとつだ。独裁体制の国家は反対勢力にパスポート発行せず、国境を超えることを許さず、外交慣例も無視してきたが、今や航空管制のルールも堂々と破るに至った。この新しい世界では独裁者は政敵を国籍に関係なく、外交法や行政手続きに束縛されず、いかなる場所でも抹殺できるようになった。独裁政権は他国へ圧力をかけ、狙う相手の保護を断念させる。ただし代償として制裁措置を受けたり、世界との関係が悪化するが、独裁者にはなんら痛くないようだ。

 

今回の事件がとくに関心を呼ぶのはサウジアラビア、ロシア、中国の首脳部と異なりルカシェンコには対外的な影響力が皆無に近いことだ。ベラルーシは貿易も大したことはなく、ニューヨークやロンドンに大きな投資案件を有しているわけでもないし、英サッカーチームのオーナーでもない。ルカシェンコは正当な理由なく身柄を拘束し、大部分ヨーロッパ市民を乗せたヨーロッパ登録の機体を危険に陥らせたのは、ヨーロッパとの関係を断絶する覚悟があってのことなのだろう。同時にロシアから経済支援、政治面の公認が得られると計算しているはずだ。ロシアの公認国際テレビチャンネルRTのトップが今回のハイジャック劇を見て「うらやましく」思うとツイートしている。それによれば、ルカシェンコは「見事に物事を動かした」とある。別のロシア高官はハイジャックを「必要かつ実施可能」だったと評している。だがらと言って驚くにはあたらない。独裁者は国際法を破る別の独裁者に支援の姿勢を示すことが当たり前になってきたのだ。

 

事件を受け西側指導者多数がソーシャルメディアに意見を投稿している。NATO事務総長、EC大統領、米国務長官もその中でハイジャックを非難した。リトアニア首相は定刻を大きく遅れ着陸した同機を迎えにヴィリニュス空港に出向いた。ラトヴィアはベラルーシ大使を国外退去させた。英国はベラルーシ登録機材の乗り入れを禁止した。今後数日でさらに多くの措置が現れ、ベラルーシ向けの新たな経済制裁措置も検討されるはずだ。同国向け航空機定期便の運行も停止されるだろう。本日また別の不思議な事態が発生し、ヨーロッパ各国はあらためてベラルーシが無法かつ危険な国となっており、しかもEUの境界線沿いに存在している事実を思い知らされた。ルフトハンザ機がミンスクからフランクフルトに向かうはずのところ、遅延となったのはまたしても爆弾が持ち込まれているとの理由からだった。一部には乗客が人質になるとの危惧もあった。ロシアがウクライナへ侵攻し各種人権侵害事件が発生したように、ベラルーシの人権蹂躙の影響はゆくゆくヨーロッパにも及ぶはずだ。

 

事はヨーロッパに限らない。世界中の独裁国家の首都で独裁者たちは西側諸国の反応を注視している。ルカシェンコがこのまま逃げとおすのか、そうなりそうだが、今回初めて投入された手法を自分たちも使えるのか。他国でこれをまねる動きが出るのは必至だし、自国内の反抗分子に安全な場所はどこにもないと伝えられる。民主国家に生活していても、政治亡命していても、一般の民間機で空中を移動中でもお前たちの身柄を拘束できるぞ、というメッセージになる。■


2019年3月24日日曜日

主張 フライトデータのライブストリーミングを実施すべきだ

Aviation Week & Space Technology

Opinion: The Time Is Ripe For Live Flight Data Streaming

主張 フライトデータのストリーミング実施の機が熟した


Mar 22, 2019Aviation Week & Space Technology

ーイング737-8で5ヶ月に痛ましい事故二件が発生し、完全な原因究明に至っていないが事態は深刻になりそうだ。737 MAXで進行中の飛行制御系の改修策は昨年10月のライオン・エアJT610便事故で必要が痛感されている。型式証明も絡む。規制当局からメーカー各社への信頼はゆらぐのか。規制当局は海外製部品が現地仕様に合っているか自ら確かめずに他の政府機関の技術解析結果を受け入れるだろうか。
端的に言って各方面がより確実な内容を求めている。
MAX各機の飛行停止措置は以前のエアライン事故事例と一線を画している。エチオピアエアラインズET302便事故発生後米FAAや各国当局は結論を急がなかったが短期間に二件の重大事故が発生し規制当局やエアライン側が運航停止した。ET302便事故後のデータが皆無に近く先のJT610便とのつながりも不明だったが、アクションを先に取ってから検証する今回の動きの意味は大きい。ET302便のフライトデータレコーダー(FDR)から情報を回収した時点で全機はすでに二日間も地上待機になっていた。
飛行停止措置へ社会の支持は圧倒的で業界でも多数が支持しており、労働組合員から一部エアラインまで先に行動を選択したことを評価している。FAAが結果として運行停止措置の発表で一番遅れ、対応の遅さが目立つ形になった。報道では技術専門家ではなくホワイトハウスが決断したという。
これは困った話だ。
安全策をとろうというのは理解できるが航空運輸業界が着実に事故率が下げてきたのは先手を打ったためではない。データに裏付けられた形でリスクを慎重に分析してきた結果だ。この作業には時間がかかるが社会も即席対策は受け入れがたくなっている。もう一機墜落しても社会は慎重な態度のままでいられるだろうか。

737 jet


その必要はないようだ。安全問題専門家もデータの裏付け重視の姿勢を変える必要はない。
その中間に至る方策が広まりつつあり、その根源にマレーシアエアラインズ370便(2014年)、エールフランス447便(2009年)がともに行方不明となった事件がある。この二件から国際民間航空機関ICAOが機体追跡の新基準を制定し、ICAO別表6の改正40となった。だが改正40に有益な究極の解決方法が含まれている。フライトデータに迅速にアクセスすることだ。
エアライン各社は2021年から適用となるICAO基準を守るべくFDRデータを飛行中にストリーミングすればよい。必要なハードウェア、ソフトウェア、通信の専門企業が共同してフライトデータの迅速な利用を実現しようとしている。例としてボーイングのEcoDemonsotror実証ではFedEx保有の777Fを使い、機体状況のライブ映像とともに急な高度変更のようないわゆるトリッガーイベントの前後20分のデータをバファリングしてともにストリーミングした。
データストリーミングから機体の様子を描写する映像もフライドデッキ計器つきで作成され、地上で状況が理解できた。テストではインマルサット、イリジウム両衛星ネットワークを利用し、専用マイクロフォンでコックピット内の音も拾った。
このフライトデータ中継には解決すべき課題もある。たとえばどんな事態でシステムを起動するのか。どこまでをストリーミングするのか。データをどこに移動させるのか。アクセス管理をどうするのか。さらに重要なのは情報をいかに保全するのか。ただし全て答えが見つかる問題だ。
FAA以下規制当局がET302便データにアクセスできていれば、飛行禁止措置に至る過程は今と違っていただろう。ET302便、JT610便の事故原因がよく似ているのなら(どうもそのようだ)MAXはただちに地上待機としその根拠となるデータが手に入るだろう。社会は懸念しつつも規制当局の措置を合理的かつ妥当と受け入れるだろう。

飛行禁止措置をFDRデータの検討で決めるのは理想的な解決ではない。だがデータなしで措置を決定するよりはるかに妥当な結果を生む。■

ご案内:この記事は航空宇宙ビジネス短信ターミナル1(旧)https://wind.ap.teacup.com/aviationbusiness/にも3月中は同時掲載しています。4月からはこちらの(新)ターミナルのみに配信します


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