2021年9月11日土曜日

主張 航空旅行需要はいつ回復するのか。変異種の動き、ワクチン接種率を見るとコロナ共存の道を考えたほうが賢明だ。

airport terminal sign

Credit: Patrick T. Fallon/AFP/Getty Images

 

空旅行需要がCOVID以前の状態に戻るのはいつになるのか。

 

航空産業は同じ疑問をここ18ヶ月問い続けてきた。

2020年のAeroDynamic Advisory調査では、2023年末に平常に戻るとの評価が出た。この悲観的な見解に当時驚く向きもあったが、おおむねは消極的にこれを認めていた。筆者も再検討してみたが、楽観的過ぎたと考えるに至った。

 

デルタ変異種が世界各地で主流になって状況を一変させている。一人感染すれば5-9名にひろがるというのは、COVID-19当初の2-3名への感染力より強い。このため、集団免疫もワクチン接種率が90%にならないと実現しない。ちなみに当初のCOVID-19では70%だった。また世界各地の病院が新患で満員となり医療システム全体が危険となる。世界全体でワクチン接種は80億回必要となる。アジア、ラテンアメリカ、アフリカの大部分で深刻な状況が数年間も続きそうなのは、ワクチン接種が広まらないためだ。デルタ変異種の強力な感染力もあるが、新変異種がいつ現れないとも限らず、現行のワクチンが効果を出せなくなるかもしれない。

 

こうした背景から航空旅行の復活シナリオを考えてみよう。2019年の有償旅客キロ(RPK)は8.7兆でうち65%が国際線だったが、国際線需要は死んだままだ。

 

各国政府は航空業界向け支援策を講じ、ワクチン接種、検査、隔離など展開している。一部国は国際線利用そのものを止めており、渡航者にバブルを課す国もある。また渡航は認めても隔離措置を求める国もある。ワクチン接種履歴を渡航条件に採用している国は皆無に近い。世界各地のワクチン接種記録で標準化ができていないためだ。そのため各国で方策を各自組み合わせているのが現状だ。欧州連合では米国出発の渡航者への制限を加盟27か国に推奨し、米国内のデルタ変異種感染の高まりに警戒している。

 

このため国際旅行に面倒な要因がついてまわる。企業幹部は国別で異なるテスト要件を逐次満足する以外に隔離へ時間を取られるリスクに直面している。料金に敏感な観光客だが、数回にわたる検査料金が航空券価格に近づく上に隔離のリスクも覚悟しなければならない。

 

世界全体のRPKの残り35%を占める国内線利用でも影響が出ている。ワクチン接種率が高い中国でさえ、デルタ変異種の登場で減少が止まらない。8月初旬の座席提供数は32パーセント減となり、政府はCOVID-19撲滅をまず進めてから再開をねらうようだ。ロシアは50万人をすでに失っているが、ワクチン接種が進まず、7月の死亡数が記録を破ったという。

 

明るいニュースもある。今年に入り米国内需要が急上昇しており、需要の底堅さは確実だ。世界全体のワクチン製造規模は2022年に150億回分になる。うち三分の一が画期的なmRNA技術によるもので、ブースター接種で早く効果を発揮する、あるいは今後登場する変異種にも対応する期待がある。ワクチン接種義務化に動く国もある。またワクチン接種済み住民に死亡率や入院措置の必要度が非接種者より低いのが明らかになってきた。今後の各国政府はCOVID-19撲滅をめざすのではなく、共存の道を選択するはずで、英米両国がすでにこれを始めている。

 

では航空需要は2023年に回復するだろうか。可能ではあるが、世界規模のワクチン接種がどこまで広がるか、政府の渡航方針がどこまで改善されか、さらに変異種で運が良ければ、という条件が必要だ。航空業界で戦略を検討するなら悲観的なシナリオを使うほうがよいだろう。「パンデミックや伝染病には歴史を一変させる力があるが、生き残ったものには効果がすぐ見えない」とカナダの文化人類学者ウェイド・デイヴィスの言葉を贈りたい。■

 

Opinion: Why Air Travel's Recovery May Be Years Away

Kevin Michaels September 07, 2021

 

The views expressed are not necessarily those of Aviation Week.

 

Kevin Michaels

Contributing columnist Kevin Michaels is managing director of AeroDynamic Advisory in Ann Arbor, Michigan.

 

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