2021年8月20日金曜日

米中の冷たい関係はエアラインにも波及。座席数4割上限での運行を両国当局が指示。発端は上海到着後に陽性反応が出たユナイテッド便。

  

 

LAX

Credit: Joe Pries

 

米運輸省(DOT)は中国系エアラインの米国乗り入れ便の総座席提供量を規制する。これは同様の措置を先に行使してきた中国当局への報復だ。

 

今後四週間にわたり、米国へ乗り入れる中国エアライン四社定期便で座席数が4割上限に抑えられる便が出る。影響を受けるエアラインは中国国際中国東方中国南方厦門航空の四社だ。

 

中国政府は7月21日サンフランシスコ発のユナイテッドエアラインズ上海行便にCOVID-19陽性の乗客5名が乗っていたことを理由に制裁措置を行使していた。

 

中国民間航空局(CAAC)は「サーキットブレイカー」ルールでユナイテッドに選択肢三つを選ばせた。サンフランシスコ便三フライトを運航中止する、2便分を無乗客で運航すること、乗客数を4割上限にして4便運航する。ユナイテッドは三番目を選択し、8月11日から上限ルールを適用した。

 

ただし、DOTは米政府は「サーキットブレイカー」措置に反対の意向を繰り返し示しており、「不合理な責任をエアライン側に押し付ける」との理由だと説明している。

 

「各エアラインは中国の規制内容をすべて順守していたのに乗客が到着後に陽性と判明して罰則を科すのは不合理だ」というのがDOTの主張だ。

 

「各エアライン側には独自にテストを行う手段がなく、この点で中国当局の主張と異なる。さらに、該当乗客がいつどこでCOVID-19に感染したかは把握しようがない」

 

このため4割上限措置は中国国際の北京-ロサンジェルス(LAX)線、中国東方の上海ニューヨーク線、中国南方の広州LAX線、厦門エアラインズのアモイLAX線が対象に適用される。

 

OAGのSchedules Analyserを見ると、2021年8月16日の週で米中ノンストップ便の合計座席数は往復で4,100となっている。2019年の同月同週では210千だった。■

 

 

U.S. Imposes Capacity Limits On Four Chinese Carriers

David Casey August 19, 2021

https://aviationweek.com/air-transport/airlines-lessors/us-imposes-capacity-limits-four-chinese-carriers


2021年8月14日土曜日

UAP未確認宇宙現象の解明に民間科学者グループが動き始めた。軍の機密情報には頼らず、今後データを集めていくという。何らかの結果が出てくるのか期待したい。

   ターミナル1、ターミナル2共通記事です。

Oumuamua interstellar object

初めて見つかった星間物体オウムアムアの図。発見は2017年10月19日のことだった。Credit: M. Kornmesser/ESO

 

400年も前にイタリアの天文学者ガリレオ・ガリレイが一冊の本を著し、太陽系について別の見方を提示し、地球が中心ではなく太陽の周りを地球が回っていると主張した。

 

著書「天文対話」は物議を醸しだし、以後190年間出版禁止扱いとなった。懐疑派は天体望遠鏡を覗くことさえ拒否し、ガリレオの主張の裏付けとなる木星の月、土星の輪の観察を避けた。ガリレオは残りの人生を囚われたまま過ごした。

 

そのガリレオの名前を使い、地球外生命による人工物を探知しようという科学者の一派がある。

 

ガリレオプロジェクトは未確認宇宙現象(UAP)の公開データベース整備をめざす。「目標は現在理解されている物理学に基づいて透明度の高い分析を行うこと」とハーヴァード大宇宙物理学者エイヴィ・ローブが記者会見で7月26日に語った。

 

「科学界にはシステム的科学的かつ透明性ある形で地球外技術の証拠を追い求める必要がある」「地球外技術が発見された場合の科学、技術、さらに世界全体への影響はとてつもなく大きくなるだろう」

 

民間資金で発足したガリレオ・プロジェクトと並行し、ペンタゴンは6月25日の報道発表で軍と情報機関によるUAP目撃事例144件の一次調査結果を議会に伝えたとした。目撃事例の大部分は物理的な存在とし、光学あるいは大気状況による錯視ではない。ただし、詳細情報につながる精度が足りない。「最も保守的な組織である政府がこれを公表したこと自体が異例で、頭上の空に人知では理解できない物体があると述べた」(ローブ)

 

「国家安全保障にかかわる問題だ」とローブは評した。だが目撃例は「軍人や政治家が解釈できるものではない。観察訓練を受けておらず、そもそも科学者ではないからだ。科学界が解明するべきで、天文学者が物体の本質を解明するように進めるべきだ」

 

ペンタゴンのUAPタスクフォースの結論は説明がつかない目撃談多数は米国の極秘技術と無関係ながら、軍のパイロット他信頼のおける人員がこうした事例を目撃していることだ。「そこに大きな意味がある」と語るのはルイス・エリゾンドで、2007年に発足した米政府のUAP調査をねらった高度航空宇宙脅威識別事業の責任者だった。

 

「30年にわたり、超特別な技術へ注意を払ってこなかった。だが、この考え方は終わった」とエリゾンドはワシントンポスト取材にこう述べている。

 

「我々の技術から50年から1,000年先の技術が対象だ。こうした技術なら我々の現有装備より高い性能を発揮できる。要するにいったい何を対象にしているのかわからなくなる。オプションはすべて示すべきだ」

 

ガリレオプロジェクトは研究分野を3つ想定する。UAPの高解像度画像を同時に多数の装置で撮影すること。次に星間物質の探査で、2017年に見つかった葉巻状の星間移動体オウムアムア(ハワイ語で偵察者)の例がある。さらに地球周回中の地球外生命による衛星の存在を確認することだ。

 

「UAPの多くで説明がつくようになればよい。蜃気楼や電磁効果あるいは地学上の現象かもしれない」とプロジェクトの共同創設者フランク・ローキン(バッカーグループ社長兼CEO、科学器具メーカー、本社マサチューセッツ)が述べている。「あくまでも不可知論でとらえ、データは公開する」

 

ガリレオプロジェクトはこれまでの目撃例の評価はしない。「こうした事案は交差検証、証拠に基づく科学的説明につながらないためだ」とローキンは述べた。「霧を取り除き科学的解析をデータを積み重ねて進める。政府所有のセンサーで得たデータは使わない。大部分が機密扱いのためだ」

 

プロジェクトはこれまで1.81百万ドルを集めており、天文望遠鏡のデータを活用する。同グループではオウムアムアのような物体を近い地点から観察すべく宇宙機打ち上げも企画している。■

 

Scientists Launch Privately Funded Hunt For Unidentified Space Objects

Irene Klotz August 05, 2021

https://aviationweek.com/defense-space/space/scientists-launch-privately-funded-hunt-unidentified-space-objects


2021年8月9日月曜日

米空軍の資金投入で極超音速旅客機開発が一気に進む期待。設立3年の新興企業にも大胆な投資を行う姿勢が技術の進展を進める。

 A concept image of the Hermeus Quarterhorse hypersonic aircraft.

ハーミウスのクォーターホース極超音速機の想像図. HERMEUS

 

  • 今回はターミナル1 ターミナル2共通記事です

空軍はベンチャーキャピタルファンド数社と60百万ドルをジョージアの新興企業に投じ、極超音速旅客機の軍用版の実現を狙う。

 

空軍はハーミウス Hermeus に7月30日に60百万ドルの契約を交付した。空軍で民生技術の軍事利用を実現すべく設立したAFWERXが仲介する事業としては最大規模になった。

 

空軍の研究開発トップ、ヘザー・プリングル少将は「極超音速機の推進システムには画期的な意義があり、前世紀に自動車がもたらしたように移動形態が大きく変わる」と述べた。

 

ハーミウスが製造するのは再利用可能な極超音速機で、従来の極超音速試験機はすべて使い捨てだったため大きく異なる機体となる。

 

空軍との契約によりハーミウスは技術開発を加速化しマッハ5飛行可能な旅客型の実現をめざす。完成すればニューヨーク=ロンドン間を90分で移動可能となる。

 

「当社の技術開発に資金を投じることで空軍が実用に耐える装備の実現を目指していることは明らか」と同社CEOにして設立者AJ・ピプリカが発言している。

 

今回の戦略的な資金投入合意によりハーミウスが軍とのつながりがさらに深まった。同社へは昨年1.5百万ドル相当の契約が空軍から交付されており、政府高官を世界各地に運ぶ研究がはじまっている。

 

ハーミウスは2018年に元ジェネレーション・オービットの技術者4名が設立し、まず無人実証機クォータホースの完成をめざしている。

 

今回の空軍からの契約金で同社はクォーターホースの試験飛行を18カ月後に実現できる見通しがついた。契約で同社はテスト要員を20201年中に50名にまで増やすことになっており、テスト日程を約1年短縮させる。

 

「人員投入を増やし加速化させつつ垂直統合も進めていく」とピプリカは語り、「これで内製化が進み、日程管理、コスト管理等を強化できる。全体ロードマップを大きく加速できる」としている。

 

今回の空軍契約の交付でハーミウスに今後3年間の戦略的目標が定まり、そのひとつにクォーターホース3機を完成させテスト飛行を開始することがある。テスト飛行には目標がふたつある。マッハ5飛行および機体を繰り返し飛行させることだ。

 

同社設立者でCOOのスカイラー・シュフォードは「機体を完成させエンジン技術のテストを全飛行域で行うのが目標だ」とする。

 

クォーターホースにはジェネラルエレクトリックJ85エンジン一基を搭載する。これはT-38練習機と同じエンジンでさらに高速域用のエンジンをハーミウスが開発中だ。

 

「エンジンと機体の一体化が社内でできることでシステム統合が迅速に進められる」と同社の内情に詳しい筋が開設する。

 

クォーターホースは「今後登場する機体へのつなぎの役目」とシュフォードは述べており、同社は「より大型の旅客機」の実現をめざしている。■

 


US Air Force, Venture Firms Make $60 Million Bet on Hypersonic Aircraft Startup

BY MARCUS WEISGERBER

GLOBAL BUSINESS EDITOR

AUGUST 5, 2021

 

参考:ハーミウスのウェブサイトhttps://www.hermeus.com/

 


2021年8月7日土曜日

良い前兆が見えても不確定さが消えない民生航空業界。ボーイングが新型機開発の決断に踏み切れない理由とは...エアバスとの差がさらに広がるのか。

  

ボーイング737-10は6月に初飛行し、2023年路線就航の予定だ。Credit: Boeing

 

間航空宇宙分野に生気が戻りつつある。エアラインの発注が増え、利益が復活し、航空機メーカー、サプライヤー各社で増産が再び話題となっている。だがよい兆候の前にふさがるのが長期展望での不確実さだ。

 

次世代機やエンジンがいつ登場するか、またその形状についてはむしろCOVID-19危機前より今のほうがはっきりしないほどだ。

 

ボーイング社長兼CEOのデイヴィッド・カルホーンは737-10および777Xの型式証明取得に焦点をあてつつ、777X貨物型が次の新事業になると述べている。

 

だがボーイングではR&D資金の減少を隠しようもない。2020年の25億ドル程度は2019年の2割減で、減少は2021年も続き、上半期は9.96億ドルにとどまっている。うち民生機用のR&Dは5.24億ドルにすぎない。

 

ボーイングの次の事業では資金減が課題だが、根本的な疑問が残る。エアバスが単通路機増産に向かう中でボーイングは新型機開発に乗り出さなくていいのか。このままではエアバスが数年のうちにマーケットシェアを6割まで増やしボーイングは守りとおせなくなる。

 

もう一つがジェネラルエレクトリックサフランの合弁事業CFMがRISEオープンファン推進方式の実証機開発を決定したことだ。ボーイングも次世代機の開発決定をするのかしないのか迫られる。カルホーンも新型推進技術の重要性をここにきて強調しはじめた。

 

GEエイビエーションは新型エンジンをRISEの技術研究開発をもとに開発しても姿をあらわすのは2035年以降としており、RISEの技術要素が現行のLeapエンジンに代わる新型エンジンに応用され新型ボーイング機に採用されるのは2020年代末まで待たされることになりそうだ。

 

ナローボディー機分野でエアバスが優位だが同社の状況も複雑だ。同社は2023年に月産64機に移行するが、パンデミック前の生産計画を下回る水準の生産が三年続き、ここ18カ月はいかなる犠牲を払っても発注取り消しを回避しつつ、納入先送りへの柔軟対応に専念してきた。このため数百機相当の生産予定が発注エアラインやリース会社の合意をもとに後年度に変更となっている。月産64機になっても受注残は8年分となり、しかも増産の実現は2年先のことだ。

 

エアバスで問題となるのは生産スロットの空きが2026年まで非常に少ないことだ。A320neoを追加生産したいが、スロットがない。そのため、早く機体が欲しい顧客はリース会社あるいはボーイングに向かうことになる。どちらもエアバスには朗報とならない。

 

そこでエアバスは予定通りの拡大を実現すべく、サプライチェーン各社に増産に向け設備投資しても安全だと納得させる必要に迫られている。ボーイングも同様に財務状況が大きく改善し、ナローボディ機増産に目を向け始めた。ただし、同社の増産規模はそこまで大きくない。

 

ボーイングは納入を停止して積みあがっていた787完成機100機近くの引き渡しを急ぐ。ワイドボディ機全体への需要は国際渡航制限とともに低迷しており、ボーイングはこの機会に787事業の立て直しを期待している。■

 

Why Is Boeing Slowing Down All New Aircraft Plans?

August 04, 2021

https://aviationweek.com/mro/why-boeing-slowing-down-all-new-aircraft-plans

 by Sean Broderick, Michael Bruno, Guy Norris, Jens Flottau


2021年8月5日木曜日

DHLは輸送機を全機電動タイプにするビジョンで、支線用に電動リージョナル機アリスを導入、ローンチカスタマーになる。

 日本が遅れているのか、欧米では電動航空機が急速に存在感を増しているようです。しかもその主役は誰も聞いたことのない新興企業ということで、航空業界に大きなチャンスがやってくるのでしょうか。

 

DHL

Credit: Eviation


 

界規模で活動を展開するDHLエキスプレスイーヴィエーションEviationのアリス電動リージョナル機の貨物型のローンチカスタマーとなり、2024年から路線投入する。

 

12機発注はワシントン州アーリントンに本社を置くイーヴィエーションに大きな突破口となる。同社はバッテリー推進式アリスの大幅設計変更を6月に発表し、前方と後方にアクセスドアをつけた貨物スペースは450 ft.3のでペイロードは2,600-lb.、最大440カイリを巡航速度220ノットで飛ぶ。

 

パイロット一人の操縦で飛行時間当たり30分未満の充電が必要となるアリスは支線に投入される。DHLエキスプレスのグローバルネットワーク運行・航空貨物輸送担当の執行副社長トラビス・コッブは一号機を「米南東部や西海岸での運行を想定」と述べており、着陸後に貨物を積み下ろしする間に充電する想定だ。

 

「実際の路線はこれから検討するが、アリスのペイロードと航続距離から支線投入がふさわしい」とDHLエキスプレスのグローバル航空機材管理部門長ジェフ・ケールがAviation Weekに伝えてきた。「つまり800マイル未満でアリスの貨物搭載量にふさわしい需要がある路線となろう」

 

親会社のドイツ郵便DHLグループは70億ユーロ(83億ドル)を2030年までに投じCO2排出を削減すると2021年初頭に発表した。機材の電動化やサステナブル航空燃料、さらに温暖化を招かないビル建築に資金を投じる。

 

DHLが固定翼機を全て電動式に置き換えようとしているが、その他の貨物輸送大手にはUPSのように電動垂直離着陸(eVTOL) の導入を企画するむきもある。4月にUPSフライトフォーワードがベータテクノロジーズBeta Technologiesのエイリアス10機を発注し、支線運用に投入するとした。さらにオプションで上限150機を設定した。

 

ケールは「当社はイーヴィエーションで第一歩を踏み出し、2024年からの運用実績を見て電動機あるいはハイブリッド電動機など別の手段で2050年までにゼロエミッションをめざします」

 

「アリスの貨物機型は内装以外はコミューター機と同様です」とイーヴィエーションCEOオマー・バーヨハイがAviaiton Weekに語っている。「アリスは貨物を短時間で積み下ろしできる設計で、キャビン内にハードポイントを各所に設け貨物ネットで小型貨物の荷崩れを防ぎます。温度管理コンパートメントで温度に敏感な貨物も安全に移動できます」

 

アリスの設計変更は今年末に予定される初飛行につながる。三点式降着装置で当初より荷物積み下ろしが楽になった。当初はV字尾翼だったが新設計でT字になり、胴体上部に推進用プロペラを付けたナセルを乗せる。推進用に640-kW マグニ650電動推進ユニット二基を使う。関係会社のマグニXMagniXが開発したものだ。

 

最大機体重量は14,700 lbと当初の14,000 lb. から増え、アスペクト比が大きい主翼は59.1フィートに延長された。バッテリー重量は8,200 lb.のまま容量は820 kWhに下がるが、リチウム-ニッケル-マンガン-コバルト酸化物セルで構成する。■

 

DHL Launches All-Electric Alice Cargo Version

Guy Norris August 03, 2021


C919は無事開発・型式証明を完了できるのか。Comacが予定通りに進めれば、西側大手メーカー並みの実力を短期間で習得することになるのだが....





Comac’s C919

Credit: AFP/Getty Images

 

新型航空機の開発では技術課題や設計不備のため型式証明取得が遅れるのが通例だ。路線就航や低率生産開始も課題となる。中国商用航空機(Comac)C919ナローボディ機も例外ではない。

ComacはC919開発を2011年に発表し、2015年後半に試作機1号機を完成させ、2017年には2号機を製造した。Comacは試験用に6機を完成させ、今年の珠海航空ショーで低率生産段階に入ると公表した。比較すると、長年にわたる航空機生産の経験を有するボーイングでは787の路線就航開始から量産開始まで9年かかっている。

C919開発開始から10年経過したが、話題の中心は果たして同機が中国以外で買い手が見つかるかだった。さらに二つの疑問が生まれている。ComacはC919量産ができるのか、いつ量産段階に移行できるのか、という点だ。

C919はまもなく生産前審査と製品ライフサイクル検討を受ける。ここでC919の生産体制、仕様設定やサプライチェーンの課題が検討される。フライトテストを行い中国民生航空局が型式証明を出すのが次の段階で、その後路線就航が始まり低率生産の準備が整う。

機体を移動しながら生産するため各所に生産治工具の設置が必要となる。これまでのC919は固定位置で生産されたようだ。今後の増産を見越し、生産ラインを複数設置する、あるいは移動式生産ラインが必要となるはずだ。増産には生産サイクル時間の短縮が必須だ。そこで生産治工具をあらたに設計し調達ししかるべき位置に設置する必要がある。

さらに生産仕様を管理しつつ変化点制御を行うシステムの確立が必要だ。Comacは同機生産ラインの管理で多様な仕様の管理をこなす実力が求められる。サプライチェーンで発生した品質問題を追跡し、管理しつつ解決する能力が必要だ。また設計面の不備や製造性の問題が浮上すれば生産に支障が発生する。航空機生産は多様な素材を使用し、サプライヤー各社のリードタイムが長くなる傾向があり、製造にはパーツ全点数が正しい仕様で必要な時にそろう管理体制が必要となる。実効性を上げるには堅固な管理体制を整える必要がある。

さらに、C919の初期生産ではComac社内外のサプライチェーンが課題となる。C919の主要サプライヤー82社のうち6割が米国、3割が欧州、1割が中国と外資の合弁事業となっている。サプライヤー各社の位置が重要で、C919用部品の9割を国外から搬入するため、増産に移す際に障害になりかねない。

初期開発・型式証明取得段階でComacは部品を単純に調達したのみだった。生産段階では各種部品の数量が増え、サプライヤーとの取引契約は再交渉の必要がある。部品の約60パーセントが米国関連サプライヤーからの供給となるため輸出コンプライアンスで米政府による規制への対応が必要となる。C919試作機製造中には現状のような厳しい規制はなかった。こうしたサプライチェーン関連の課題により、計画の精度が不十分だったり、在庫やリードタイムを考慮しなければ、生産が遅延する可能性は十分ある。

C919が低率生産段階に入るのは時間の問題といえるが、通例の生産上の難関に加え、対外貿易上の課題に直面しそうだ。Comacにはボーイングやエアバスに匹敵する年間150機量産の実施経験が欠如している。だが、生産計画を念入りに行えば、Comacにも生産のこつを急速に習得する可能性があり、業界を驚かすような成果が生まれてもおかしくない。■

Opinion: Can Comac’s C919 Ever Reach Full-Rate Production?

Alex Krutz July 30, 2021

https://aviationweek.com/aerospace/manufacturing-supply-chain/opinion-can-comacs-c919-ever-reach-full-rate-production

Alex Krutz is the managing director at Patriot Industrial Partners, an aerospace and defense advisory firm that focuses on manufacturing strategy and supply chain optimization.

The views expressed are not necessarily those of Aviation Week


 

2021年8月1日日曜日

エアバスが月産70機超に向け強気の生産体制整備へ。現在は月産40機なのだが、このまま順調に推移するのか見ものだ。原動力はA321neoファミリーの好調な受注状況。

 Aviation Week記事からのご紹介です。

 

エアバスは顧客企業の需要増加傾向、サプライチェーンからの調達増から、増産への環境が整ってきたと判断している。

 

「一部パートナー企業が増産に抵抗を示しているのは残念」とエアバスCEOジローム・フォーリはアナリスト向け2021年上半期プレゼンテーションで7月29日発言した。「受注残は6千機ある」「月間40機だと15年分の生産になる。60機なら10年分だ。顧客企業側は長く待てない。60機体制に引き上げる必要がある」

 

フォーリは顧客企業側が引渡し前支払い(PDPs)を予定通り履行していることから機材引き渡しへの高い期待がわかるとした。

 

エアバスはナローボディ機生産を2021年当初の月産40機を同年第4四半期に45機に増やし、2023年第2四半期に64機にするべく準備を進めている。サプライヤー各社へは2024年第1四半期の70機想定で準備を求めており、さらに2025年の75機体制の調査を始めている。

 

「当社としてはサプライチェーンには早期増産を期待したい」とフォーリは発言し、パンデミックによる減産以前に生産設備投資を終えていおり、実施は可能と見ている。


A321XLRエアバスはA321XLRの引き渡しを2023年に開始する。

Credit: Airbus / S. Verger

 

増産への自信を高めているのがA321neoの好調さで、現在3千機の受注残となっている。エアバスはA321neo生産の比率を「50%超」に引き上げ、好調な需要に応え、さらに60%近くにするのも「間違いとは言えない」とフォーリは含みを持たせた。A321neo各型に加え、A321XLRの引き渡しが2023年から始まる。同社はA321neo用の最終組み立てラインをツールーズに建設中で増産に備える。

 

エアバスが単通路機生産増加を急ぐ背景には2021年上半期に完成機引き渡しが好調で結果として利益が高まっていることがある。エアバスは昨年同期の196機に対し、今年上半期に297機を引き渡した。商用機の収益は42%増の178億ユーロ(210億ドル)になった。また営業利益は24億ユーロと昨年同期の赤字18億ドルから好転した。

 

エアバスは今年の通年業績も上方修正した。600機の引き渡しを目指し、以前の予測を34機上乗せする。そのため営業利益は40億ユーロと以前の予測の二倍としている。また20億ユーロのフリーキャッシュフローを想定しているが、以前は収支トントンとの予測だった。

 

上半期の財務上の業績が強含みだが下半期もそのまま推移するとは思えない。同社CFOドミニク・アサムは直近の実績は「完璧な状態」と表現している。機体引き渡しのペースは増加しているが、エアバスは費用負担を可能な限り先送りしており、下半期中のどこかで処理を迫られる。

 

また同社は顧客企業が引き渡しを先送りしてもPDPsをそのまま計上している。相当数の引き渡しが近づく中で、相当部分の支払いが終わっているため、今後の収益が減少することに覚悟が必要だ。単通路機の増産体制構築が進むと財務上の負担が下半期に現れる。エアバスは2025年就航をめざすA350貨物型開発にも予算が必要だ。■


As Profits Recover, Airbus Argues For Fast Narrowbody Ramp-Up

Jens Flottau July 29, 2021


お知らせ

 2022年以降こちらでは新しい投稿はしておりません。引越し先は 「航空宇宙ビジネス短信T1(新)」です。 こちらへお越しください。 https://aviationspacebusiness-civilaviation.blogspot.com/ お待ちしております。