2021年5月16日日曜日

再生可能航空燃料(SAF)の大幅増産が必要な理由。2050年に向け、今年から大きな動きが民間分野、政府間に出てきそう。

 Aviation Weekの長文記事ですが代替燃料の最新状況がわかります。

 

ネステの再生可能燃料精製工場はフィンランドにある。Credit: Neste

 

生可能代替航空燃料(SAF)の不足が深刻だ。米エアラインも英国他とならび実質ゼロカーボン排出を2050年までに達成することになり、代替燃料の必要性が航空業界で増している。

再生可能ソースからの航空燃料増産が航空業界の排出量削減に必須というのは各シナリオで共通している。燃料消費が優れる新型機へ更新しても変わりはない。同様に飛行空域を変え、新型推進技術が開発されたとしても同じだ。

だが増産規模は莫大だ。SAFの2020年生産量は6億ガロンに過ぎない。ジェット燃料全体の消費量2019年の960億ガロンと比べ微量だ。

2050年までの純ゼロ目標達成を発表した全米エアライン協会(A4A) は政府他関係機関と共同しエアライン向けSAFの20億ガロン提供を2030年に目指す。グローバル規模でみれば今後の課題の規模が明白に想像できる。

民間航空では炭素ガス排出を2005年水準で2050年までに半減させる目標が2009年以来示されており、各国が前倒しを模索している。ICAOの2022年目標は達成可能とはいえ、その実現のカギを握るのがSAFだ。

一部エアラインはもっと意欲的な目標を掲げている。貨物空輸専門のドイツ郵便DHLは2030年までに3割の燃料をSAFにする目標を掲げる。同社は2019年に4.8億ガロンを消費した。デルタエアラインズは2030年までにSAFを10%にすると2019年に目標設定した。ジェットブルーエアウェイズは2040年にネットゼロをめざしており、SAFの増産を求めている。

増産でSAF価格を下げる必要がある。現在はジェットA燃料の3-5倍の価格だ。IATAはSAFが価格で競争力を発揮できる生産量を2019年実績の2%つまり19億ガロン程度とみている。IATAはこの実現は2025年とするが、現在の30倍の増産が前提となる。

新型推進手段の出現でSAFの長期ニーズで議論が生まれている。EasyJetCEOヨハン・ランドゲンの意見は短距離路線運航会社はSAFよりカーボンオフセットに資金投入すべきとし、ゼロエミッション技術となる電気推進や水素の実用化が近づいているとする。

だが電気推進や水素動力の機体は当面飛行距離が500から1,000nm程度に限られ、現行の短中距離機材や長距離機材も長期的にはSAFが唯一の脱炭素化手段となりそうだ。

SAFがなぜ必要なのか

世界の民間航空のCO2排出量は10億トン規模にすぎない。技術や運用の改良により、さらにパンデミックによる影響を入れても2050年時点で20億トンまで増加する予測がある。

目標が2050年までに50%削減なのか、ネットゼロなのかは異なるが、燃料消費効率が優秀な機体、航空交通管制の改善、さらに新型電動や水素推進技術がこの達成に効果を上げるはずだ。それでもSAFやカーボンオフセットが必要となることに変わりない。

FuelKLMは今年2月、部分混合の持続可能合成ケロシンによる商用飛行を実施した。燃料はシェルが供給した。Credit: KLM

 

SAFは飛行中の排出を減らすものではない。温暖化効果ガス排出は炭素のライフサイクルで発生する。通常型ジェット燃料の燃焼により化石CO2が放出され、大気中の炭素量が増える。SAFを燃焼すると植物が吸収した炭素を大気に還元することになる、あるいは家庭ごみの燃焼や産業廃棄物が放出していたはずの炭素を放出することになる。

その結果、ライフサイクルCO2排出が「目覚ましく」純減する。SAFがバイオマスの使用済み調理油などから生産されるで効果は80%にも達する。大量削減効果は森林からも期待できる。CO2取り込みと再生可能電力で合成燃料を生産すれば化石航空燃料の大幅削減も可能となる。

一部の供給原料にはカーボンネガティブ効果が期待される。米国再生可能エナジー試験所の3月公開発表ではSAFを木質廃棄物から生産するとネットの炭素排出量を最大165%削減できるとある。これだけ大きな削減効果が期待できるのは従来は木質廃棄物を埋め立てて腐食すして発生するメタンが減る効果が大きい。メタンはCO2の20倍の温室ガス効果がある。

SAFの費用

2020年9月に業界団体Air Transport Action Group (ATAG)が発表したWaypoint 2050 報告書では航空業界が2050年までにCO2排出量を半減させる目標への選択肢を検討しているが、いずれの場合でもSAFが不可欠だと判明した。

SAFを最大限使用するシナリオでは年間1.160億から1,510億ガロン(4,400億-5,700億リットル)の生産が2050年に必要とある。電動、水素推進を最大限導入してもSAFは620-900億ガロン必要となる。

2050年までのCO2半減だけでこれだけの量が必要となる。パリ合意では世界の温度上昇は2C以下に抑えるとあり、ATAGは航空業界はより大胆な炭素排出削減を求められる年上昇幅が1.5Cになればなおさらだとする。

温度上昇を1.5Cに抑えるためには世界の航空業界は2050年までの純ゼロエミッションが必要になるとATAGは指摘し、SAF生産は年間380億ガロンの増産になる。

世界規模でSAF増産が迅速に実現すれば「2050年目標の先に向かうおそらく唯一かつ最大の機会」となるとWaypoint 2050は結論づけ、2050年までに1,500ないし1,700億ガロンが必要となると算出している。

ATAGは今後10年で業界としてこの目標達成が可能か判断する必要が生まれると分析している。SAF生産施設が何か所、どこに必要となるかを検討するのが課題だ。

各地にSAF工場が数百か所必要となる。各工場の建設には数億ドルが必要で、さらに増産が課題となる。英国だけで14か所での13億ガロン生産が2035年までに必要となる。そのひとつVelocysのゴミ燃料転換工場の建設費は7億ドルにのぼる。

SAFはどこまで使えるのか

増産が課題だが、消費増は別の問題だ。現在の航空機用SAFは通常型ジェット燃料と最大50%までの混合に限定されている。この制限はSAF混合燃料は通常型のジェットA燃料と混合され、既存の空港の燃料共有設備を改修せずに使うためだ。

混合比率に上限があるのは供給原料を燃料に転換し、合成パラフィンケロシンを製造するが、炭化水素の量が化石ジェット燃料の含有量に達しないためだ。炭化水素原子が不足すると燃料系統で問題が発生し、機体やエンジンに支障が生じる。

現在のSAFでは混合比率を一桁に抑えており、多分にこうした制限は学術的なのだが、エアライン側がSAF使用を増やす際にこの制限が足かせになる。このためエンジンメーカー企業はエアバスボーイング等機体メーカーとともに100%SAFで稼働するエンジンの実現を目指している。ボーイングでは100%SAFで稼働する機体の型式認証を2030年までに得る。

供給原料からのSAF生産方式は現在7通りあり、触媒加水熱分解ジェット燃料CHJでは芳香族を含有しており混合比上限が100%までとなるが、そのまま使える。その他方式には100%使用で承認待ちのものがある。だがSAFの大部分で混合比率の上限があり、燃料性状認証までにさらにテスト、改良が必要だ。

SAFの中で最初に民生使用が認められるのは水素処理エステル脂肪酸HEFAで、混合比は最大50%に制限される。これは芳香族が含まれないためだ。ただし、エンジンテストで100%HEFAをロールスロイスがテストしており、エアバスとボーイングは飛行テストを実施していることから今後の新型機はHEFA100%での運用が可能となり、エアライン側はライフサイクルCO2削減効果をフル享受できそうだ。

だがHEFAのみでは本質的に化石燃料と同質ではない。メーカーは100%HEFA使用を一部機材でのみ認めているが、他の代替燃料と異なる利用が必要としている。FAAは利用可能な機材は一部に留まるとしている。そのため100%HEFAはSAFだが「限定的」な存在で全機には導入できない。

SAFのメーカーは?

2020年時点でSAFの大手供給企業は二社しかなかった。カリフォーニアのWorld EnergyとフィンランドのNesteである。ただ今後数カ月でこの構図が大きく変わりそうだ。生産施設の稼働が続き、原材料の搬入が増える。これは長年かけての投資活動の成果である。

Fuelフルクラム・バイオエナジーのレノ工場(ネヴァダ)は市内の固形ごみをSAFに転換する。Credit: Fulcrum BioEnergy

 

この二社が増産を続けるが、SAF工場の核となる専用工場が今年から2024年にかけ操業を開始する。2021年はフルクラムバイオエナジー Fulcrum BioEnergyが年産10.5百万ガロンの生産工場をネヴァダ州レノに完成させ、市内固形ごみ(MSW)からSAFを生産する。レッドロックバイオフュエルRed Rock Biofuelsの年産16百万ガロン工場はオレゴン州レイクヴューにあり、今年中に操業開始し、木質バイオマスから燃料を生産する。

2022年にはランザジェットLanzaJetのエタノール処理燃料工場がジョージア州ソパートンで操業開始の予定で、年間10百万ガロンの生産能力の9割をSAF生産にあてる。同社は2025年までに工場を4か所に増やし、1億ガロンのSAFを生産する大胆な計画を進める。

スカイNRGSkyNRGはKLMが共同出資して2010年生まれた会社で持続可能航空燃料のサプライチェーン開発にあたり、ヨーロッパ初の専用SAF工場を2033年に完成させる予定だ。オランダ・デルフセイルにあるDSL-01の施設はHEFA方式のSAF等を年間36百万ガロン生産する能力を有し、廃油から再増する。

また2023年にはWorld Energyがカリフォーニア州パラマウントのHEFA工場を拡張し、年間150百万ガロンの生産能力を実現する。NesteはHEFA480百万ガロンをフィンランド、シンガポール、オランダで生産するのを目標とする。。

FAAが進める民間航空代替燃料事業(CAAFI)では2023-24年に年間600百万ガロンのSAF生産能力が追加されるとしている。この一部としてジーヴォGevoが非食用とうもろこしを燃料転換する初の工場をミネソタ州ラヴァーンで操業開始する。

SAF増産は世界規模で広がる。石油精製業トタル Total (フランス)とプリーム Preem(スウェーデン)は初のHEFA工場を2024年に操業開始し、パラグアイのオメガグリーンOmega Greenは年産300百万ガロンの生産施設でHEFAのSAFとグリーンディーゼルの生産を2024年までに開始する。

原料は確保できるのか

今後のSAF増産では廃棄物利用として供給原料の投入が主流となる。再生可能燃料生産の初期にヤシ油のような原料を使ったことで批判を浴びていた。ヤシ油のため土地利用方法が変わり食料生産に影響が出るという批判だった。

SAFの商業生産の初期では廃棄植物油や動物脂肪さらに調理油を主に使っていた。生産方法が広がり、生産施設建設が始まると利用可能な供給原料の幅も広がっている。

航空業界では廃棄物利用への流れが望ましいとし、食料生産との競合を避けたいとする。供給源はひろがっており、都市部の固形ごみは従来は埋め立てや焼却で処理され、工業プロセスで生まれるガスや農林産業で生じる残さいも利用できる。

PtL合成燃料への関心も高まっている。これはe燃料とも呼ばれ、大気中のCO2と再生可能電力から生成する。ヨーロッパが先行しており、限定規模ながらバイオマスを原料に持続可能燃料を製造する。PtL技術はまだ未成熟で高価格だが、大規模な増産が必要となるだろう。

KLMは今年二月にシェルがCO2、水、再選可能エナジーから生産した合成PtLケロシンを少量混合し初の営業運行を実施した。オランダではe燃料で別の事業二件の発表があった。ロッテルダムのゼニドZenid、アムステルダムのシンケロSynkeroだ。その他e燃料生産事業がデンマーク、ドイツ、ノルウェーにある。

SAF生産の潜在性を分析した世界経済フォーラム(WEF) では各種原料を使えばATAGの最も大胆なシナリオとするSAF利用の2050年目標を実現する生産能力は十分存在するとしている。分析では380億ガロンの追加生産能力がMSWから、農林業残滓から570億ガロン、廃ガスから150億ガロンの生産が可能だという。

WEF分析では石油、セルロースは食品生産と競合せず、土地利用変更も起こさず2050年までに620億ガロンのSAF生産を実現できるとする。これは航空業界の需要に対応できる規模だ。PtL燃料は理論的には無限の生産量が実現するものの、利用層は他にもあり競合が生じる。

SAFは買うのはだれか

SAFの利用拡大に大きな役割を演じているのはこれまでごく一部のエアラインや燃料供給会社だった。その一つがユナイテッドエアラインズで、World Energyと長期間オフセットSAF契約を結び、2016年からHEFA燃料供給を受けロサンジェルス国際空港を拠点に運行する定期便に使用している。

その他エアラインも利用を開始している。フルクラムのレノ工場はユナイテッド、キャセイパシフィックエアウェイズ、航空燃料メーカーのWorld Fuel Servicesと契約している。レッドロックのレイクヴュー工場はフェデックス・エキスプレスサウスウェストエアラインズシェルに供給している。

増産が続く中で初期からのメーカーのNesteはHEFA方式SAFの利用客を数多く確保しており、全日空フィンエアKLMのほか、サンフランシスコ国際空港を本拠地に運行する米系各社、航空燃料供給会社の Air bpAvfuel、シェルが含まれる。

ICAOが進めるCORISA国際線向けカーボンオフセット事業ならびにSAFを利用してエア林のオフセット義務を軽減する方策として、利用契約は増える一方だ。デルタは2019年に年間10百万ガロン供給契約をジーヴォと結んでおり、2023年から納品が始まる。デルタはノースウェスト・アドバンスト・バイオフュエルNorthwest Advanced Bio-Fuelsと条件付きオフテイク契約も結んでおり、木質廃棄物を燃料に転換する工場をワシントン州に建設する。

MSWを原料にSAF生産する工場をロンドンに建設する案は資金不足でとん挫したが、ブリティッシュエアウェイズ(BA)はVelocysとアルタルトプロジェクトと組み年産13百万ガロンのMSWからSAFを生産する工場を円グランドのイミンガムに建設し、2025年から生産開始する。

BAはアルタルト施設の所有オプション契約を3月に延長したが、同社はランザジェットのソパートン工場にANAと共同出資し、燃料オフテイク契約とともにアルコール原料のジェット燃料工場が英国内に建設できないか検討する。

業界ではオフテイク投資契約が徐々にだが着実に増えている。ジーヴォはSAFをスカンディナヴィアンエアラインズ(SAS)へ販売し、ユナイテッドには 1PointFiveへの大型投資をする。同社は大気中のCO2回収を専門とする新興企業だ。ユナイテッドCEOのスコット・カービーは炭素隔離技術が究極の排出ガスのオフセット手段となるとみており、航空機の排出ガスからCO2を除去できるとする。

今後必要な措置は

SAF増産の必要性が強まる中で、エアライン各社他航空業界関係筋は各国政府に対し、政策奨励策を実行に移し、原材料並びに燃料の生産ぞきょうを実現すべきとの声が高まっており、エアライン他業者は長期間にわたる関与、投資を続けるべきだ。

米国ではA4Aがガロン2ドルをSAFブレンド業者の税額控除として生産活動の奨励策とするよう求めている。SAF生産工場では同時にグリーンディーゼルの生産も可能で、こちらは要求水準が低いため利益率が高いことが理由だ。このため生産能力は利益率の高い陸上輸送用の燃料に向けられがちで、奨励策が必要との主張でSAF生産に役立つという。

ヨーロッパではReFuelEU Aviation法制がSAF利用促進のため混合方式で提言を出す予測がある。スカンジナヴィアでは導入済みだが、SAF混合比率を高め利用促進を狙う。

欧州連合(EU)が提案する義務内容は2025年に2%、2035年に20%、2040年に32%、2050年に63%と順次増やすとみられる。ヨーロッパで人気があるPtL方式のe燃料では2030年の0.7%を2050年までに25%増やすとの観測がある。

政府へのSAF増産支援では政府にともに働きかける航空業界だが、義務化は業界を二分する可能性がある。米国ではA4Aは混合比の義務化は時期尚早と主張し、SAF生産がまだ少量なことを理由とする。これに対しEUではLCC各社がSAF使用枠の適用を長距離国際線や短距離欧州内路線に求めている。

古代の船乗りは「見る限りの水だが一滴も飲めない」と嘆いたものだが、航空業界に見える持続可能燃料の供給はじれったいほど少ない。だが、状況が変われば今年中にもエアライン、政府、その他関係先が一気に活性化された状況を作り出せそうだ。■

Why Increasing Sustainable Jet Fuel Production Is Critical

Graham Warwick April 30, 2021

 


2021年5月14日金曜日

4月のボーイング実績。引き渡しは全17機、正味受注は8機増にとどまる。787が気を吐いても737 MAX引き渡しが停止中なのが痛い。


 

aircraft

Credit: Boeing

 

ーイング民生機部門は4月に17機を納入し、737は4機と低調だったが、787が増加した。

 

737 MAXの納入がボーイングが目指すバランスシート改善のカギを握る。1-3月に58機を納入し、4月第一週で4機を引き渡したものの、電気系統で問題が見つかり新規納入が止まり、約90機が納入できないままになっている。ボーイングは就航中機体とあわせ駐機中およそ300機でこの問題の解決を急いでおり、製造中機材にも対応する。作業が完了しFAAが承認するまで、737MAXの納入は停止する。

 

ボーイング、FAAともに今後の見通しについてコメントしていない。

 

4月に787が9機納入されたのは同社には朗報だった。同機でボーイングが1-3月に2機を引き渡したのは3月末のことだった。引き渡しが低調になったのは2020年10月初めからで、製造後点検で見つかった生産工程での問題の修正作業のためだった。

 

4月引き渡し機材にはその他777Fが2機、767-300CF1機、KC-46が1機ある。

 

新規受注は25機で737 MAXが20機を占める。だが発注取り消しが17機で正味受注は8機になった。2021年の受注は累計307機で、取り消し他顧客の発注調整分を入れると77機の純増だ。■

April’s Boeing 787 Boost Not Enough To Offset 737 Delivery Halt

https://aviationweek.com/mro/aircraft-propulsion/aprils-boeing-787-boost-not-enough-offset-737-delivery-halt


Sean Broderick May 11, 2021

2021年5月10日月曜日

クロスオーバー・ナローボディー機の注目、エンブラエルのE195の受注状況ならびに同社の2021年Q1業績が明らかになりました。

 


 

ンブラエルの今年第2四半期は好調に展開しており、E195-E2で30機を非公表顧客一社から受注し、2021年は新規発注をさらに確保するとしている。

 

30機のうち、2022年にまず12機を引き渡す。第1四半期(Q1)末の民生機確定受注が272機142億ドル相当で2020年の同期は159億ドルだった。

 

「別地域ですが発注に前向きな数社があり、受注が好調な業績の年になるとみています」と同社CFOアントニオ・ガルシアが述べている。

 

Credit: Yuriko Nakao/Getty Images


 

エンブラエルはE175-E2の就役開始を2023年から2024年に先送りする決定をした。「米国でのスコープクローズで早期の変更は期待できない」とガルシアは説明し、「そのためキャッシュ投資を最適化し、市場動向を見守りたい」とした。

 

エンブラエルはQ1で9機を引き渡しており、前年同期は4機だった。同社の民生部門は同社純収益807百万ドルで34パーセントを占め、2020年の同期は634百万ドル、第四四半期は18億ドルだった。

 

Q1の調整済み純損失を96百万ドルと発表し、前年同期の104百万ドル赤字より縮小した。■

 

Embraer Scores New Order For 30 E2s; Pushes E175-E2 Entry To 2024


Lori Ranson April 29, 2021

 


2021年5月4日火曜日

電動推進式旅客機の実現の課題とは。商用化可能なまでの技術が登場すれば、航空業界にも大きな地殻変動を巻き起こす。

  

 

NASA hybrid electric aircraft concept

Credit: NASA

 

民間航空への電気推進方式導入の課題とは何だろうか。

Aviation Weekの技術担当編集者グラハム・ウォーウィックとフランス支局長ティエリ・デュボアの見解を聞こう。

 

民間航空部門で電動推進方式を応用するとバッテリー、モーター、配線、冷却まで多様な課題に直面する。しかし、自動車で技術革新が実現しており、電動推進の航空機への応用が現実になりつつある。

 

最大の課題はバッテリーのエナジー密度の低さだ。ジェット燃料は12,000 Wh/kg だが民生用リチウムイオンバッテリーは250 Wh/kg程度しかない。

 

これだけ差が大きいと克服不可能に見えるが、電気推進の先進企業では小型短距離機に特化し、現在利用可能なバッテリーを採用している。小型とは19席までを指し、短距離とは250マイルまででリージョナル路線としては十分だという。

 

開発陣もバッテリー問題を無視しているわけではない。電動モーターの効率を最大限し、内燃機関に近づける努力をしている。

 

バッテリー効率は毎年5-8パーセントの率で向上している。NASAの控えめな予測でも2030年にバッテリーのエナジー密度は350-Wh/kgで商用利用可能となり、全電動短距離30席機が実現するとある。商用利用とはバッテリーサイズが大きくなり、充電時間、サイクル回数が改良されることを意味する。

 

実用レベルではエナジー密度400-500 Wh/kgが今後の最適解でハイブリッド電動機に採用されれば50席のリージョナル機材から150席単通路機まで応用範囲が広がる。NASAは400超Wh/kg級バッテリーの実用化を2035年とみているが、400 Wh/kgの実現には新技術が必要だ。

 

エナジー貯蔵の別方法に水素がある。液体水素として超低温の-253C (-423F)で貯蔵すれば水素は現行のジェットA-1燃料よりエナジー単位上は軽量となる。燃料電池で電力に転換する方法は確立済みだ。

 

では水素はバッテリーよりエナジー貯蔵で優れた方法なのだろうか。審判は下っていないが、課題は残る。液体水素はジェット燃料よりエナジー密度が低く貯蔵タンクは大型となる。また燃料電池をメガワット級に大型化する技術は未確立だ。

 

NASA concept of hybrid-electric aircraft Credit: NASA

 

航空分野での水素技術で先を行くエアバスはハイブリッド仕様を想定している。水素の一部をガスタービンで燃焼させ(水素利用として効率は犠牲にする)、残りは燃料電池で発電に使う。

 

最大出力が必要となる離陸上昇時にはタービンと電動モーターを併用しプロペラあるいはファンを回転させる。巡航時にはタービンだけでプロペラ/ファンを回転させる。この方法で電動部分が全体効率の最適化に貢献する。

 

エナジー貯蔵以外にも出力密度と効率をモーターや制御回路で高めるべきで、要求水準は自動車を上回る。高密度になればモーターが小型でき、効率が高まれば排熱が減り、冷却系統の重量も減る。

 

電動推進方式では高電圧化で配電系統の重量サイズを小型化できる。高電圧にすることで電流量を減らし、機内の配電系統も小さくできる。

 

航空機では28ヴォルトを使用してきたが、新型機は270Vになっている。全電動機で500Vを採用する例があるが、メガワット級の単通路機では3.000Vになるというのが開発陣の見解だ。

 

ここまでの高電圧で気圧が低い巡航高度に上昇すると部分放電と呼ぶ危険現象が発生しかねない。そのため配線絶縁の方法を新開発し放電現象のを回避する必要がある。

 

長期的に見れば、超電導技術に期待が集まり、エアバスもまさしくここを研究している。超伝導体は冷却しても電気抵抗が発生せず、効率が高まるので小型化が実現する。

 

超電導モーター、配線で出力密度が高まり、排熱が減れば、全電動航空機やハイブリッド電動航空機で複雑な構造の冷凍機が必要となる。水素燃料を使う機体では液体水素の超低温を使いシステムの冷却が可能だ。

 

総合すると電動推進方式を商用機に応用するには課題が多いが、自動車で技術進展は迅速に進んでいる。

 

電動推進方式が短距離飛行に限定される状況が変わらないと、中距離長距離に合成燃料など別手段が必要となるが、いずれにせよ航空輸送業界が抜本的に変わる可能性がある。■

 

What Are The Electric-Propulsion Challenges In Commercial Aviation?

Graham Warwick Thierry Dubois April 30, 2021

https://aviationweek.com/special-topics/sustainability/what-are-electric-propulsion-challenges-commercial-aviation


2021年5月3日月曜日

クロスオーバー・ナローボディ機のA220やE-JetがLCCのビジネスモデルを変える。

  

 

JetBlue のA220-300

 

「なんにでも向き不向きがある」との言い方がある。一定の用途に適したもの、そうでないものがあるが、用途を細かく決めすぎると柔軟性が足りなくなる。

 

クロスオーバー型のナローボディー機エンブラエルE-JetやエアバスA220ファミリーが柔軟性の実現に効果を発揮している。現在はリージョナル路線やレガシー航空会社で運行されているが、今後はLCCで活躍が期待され、単一機種運行モデルにこだわるLCCも方向転換しそうだ。

 

AVITAS上級副社長ダグ・ケリーは両機種とも100-150座席の需要専用に生まれた機体で「737-700やA319に対し座席あたり空虚重量が低いこと、燃料消費が少なく運行コスト面でかなり優位」と指摘する。

 

「座席当たり重量はE-Jetが一番低く、運行コストも低いが、A220-100および-300は航続距離で利点がある。E190-E2 (97 席)は 2,850カイリだがA220-100(110席)は3,450 nmだ。E195-E2 (120席) の2,600 nmに対しA220-300 (130 席) は3,400 nm飛べる。短距離路線ならE-Jetが有利で、A220には737-700やA319並みの航続距離で柔軟に運用できます」

 

「単一機種運行での柔軟性やコスト優位性を覆すのは困難です。機種がひとつなら乗務員や整備員を減らし、社員教育を簡単にできます。節約効果は莫大になります」「エアライン側は性能、運行面、経済効果をはかりにかけ、機種追加の合理性を検討するはず」という。

 

AVITAS

Weight advantage per seat of the E-Jets・A220ファミリーと737NG/ A320

ファミリーの座席当たり重量の優位性を示した図表

 

リージョナル機材専用のリース会社TrueNoord Regional Aircraft Leasingのアンガス・フォン・シェーンバーグによれば、ナローボディー機でも最大サイズの機材が不要のLCCもあるという。「例えばサウスウェストボーイング737-700の大手ユーザーですが、easyJetはA319で機体を統一しています。クロスオーバー機だとこうした機材に近い座席数が実現します」

 

「E2やA220の運行コストは A319/737-700以下で座席マイルコストはわずかに低くなります。座席で比べれば737 MAX 8 やA320neoに対抗できます。エアエイジアがA220(当時はボンバルディアCシリーズ)導入を検討し、JetBlueBreeze AirlinesはA220を運行中です」「A220-500ストレッチ型が実現すれば、ファミリー全体で幅が広がるのがLCCには魅力となり、E-Jetは客室断面積の問題で拡張性は劣ります」

 

Altair Advisoryのパトリック・エドモンドは低運賃会社は座席当たりコストにこだわる傾向があると説明。「低コストは低CASKで実現するとみているのです。ここからストレッチ型を求める傾向が生まれています。高需要マーケットやレガシー会社だけとの競争ならロードファクターが高くなります。いわば理想的な状況で、路線開設すれば客が来る、という状況になります」

 

「ただ世界が変わってきました。COVID-19も要因のひとつです。レガシー会社の運行停止路線はLCCにチャンスとなりますが、同時に需要全体がここ数年は低迷するはずです。LCC多数で主要空港やビジネス需要の高い路線への参入が続いていますが、ビジネス客にあわせるためには運行回数を増やすことになり、LCCで多用される737-800やA320では機体が大きすぎることになります」

 

「LCCは座席当たりコストが高い小型機運用には手が出せなかったのですが、最近登場したクロスオーバー・ナローボディー機がこの構図を変えました」「大型機同様のCASKになれば、複数機種運用への抵抗が消えます。もう一つの議論が機体共通化ですが、これは完全に諸刀の剣です」

 

「JetBlueは二機種運用体制をずっと守っていますが、今度はエンブラエル190をA220に変更しようとしています。JetBlueは2018年にE2とA220を比較検討した結果は『接戦』としながら、エンブラエルが失敗したのはE2とA220で違う効果があることを示しているのです」

 

LCCに別機種の採用を求める外的要因としてダグ・ケリーがあげる理由にはエドモンドも同意している。「エアラインには単一機種構成にして大丈夫なのか、エンジン問題はないのかという懸念があります。737 MAXの運行停止やその他問題で一部エアラインは単一メーカー依存の危険性を認識するようになっています。もう一つ機種があれば、一方で問題が発生しても機材手当が可能となります。また、メーカー二社に競争させて機体価格で好条件を引き出す狙いもあります」

 

「環境問題も重要で別機種導入に作用します。COVID対策の公的支援の条件で環境対応を求める国が多数あります。E-JetやA220の追加導入、あるいは旧型機と差し替えれは、二酸化炭素排出を最大25パーセント削減できます」(ケリー)

 

TrueNoordのシェーンバーグも同じ意見だ。「環境問題の圧力を考えれば、A220やE2は現時点で最小の環境負荷を実現できる機材です。LCCでも環境義務にこたえるべく機種構成の検討が必要です」「しかし、LCCであれULCCであれビジネスモデルは単一機種構成の考えは今後も重要で、機種構成を変えるぐらいなら路線網を再構築する動きに出かねない」

 

新しいクロスオーバー機材では適正規模が必要となる。「LCCの優位性は機種統一と投入労働時間にあるのであり、機材数ではない。規模の経済の効果を得るべく、LCCであろうと大手でも同じルールで動きます。保有機数が25機を超えるとスケールメリットが生まれます」とフォン・シェーンバーグは述べている。

 

エドモンドも似た数字を使い、機種追加の意義を主張する。「二番目の機材型式が効果を上げるには最低20機程度が必要です。C点検や予備部品の確保を考えると、20機を超えると機体当たりのコストが大きく平準化してくるはずです」

 

ケリーは大手LCCのサウスウェスト、ライアンエアやeasyJetでは二番目の機種として最低規模は50機前後だという。「これが大きくなる期待がある」とし、「ただ、中小エアラインでは少数の型式に変えることは可能だろう。airBalticは当初A220-300を20機発注していた。2016年のことです。今は65機になっています」

 

ケリーの発言から疑問も生まれる。airBalticは単一機種運行のLCCで機体はクロスオーバー型ナローボディ機だが他社も追随できるのだろうか。「airBaltic方式に倣う会社が30-40社ありそうですが、完全にそこまで実行できるのは数社でしょうね」「各種機材を運用中のエアラインでトラフィックがそこまで多くない機材の場合はA320/A321 や737-800/900ERが候補になるでしょう。クロスオーバー型に切り替える別の理由として旧型で生産終了機材のMD-80、717、BAe146やF100を運行中の場合があります」

 

フォン・シェーンバーグはJetBlueを例に挙げ、E190のかわりにA220を増やして柔軟運航を目指す同社の姿勢に触れる。

 

「airBaltic モデルは先見の明がありますが、A220の性能とコスト競争力があって実現したものです」とエドモンドは述べ、「今後も同じ方向に向かう会社が増えるのではないでしょうか」■

 

 

Crossover Jets Offer Potential For A New Low-Cost Model

Bernie Baldwin March 09, 2021

https://aviationweek.com/special-topics/crossover-narrowbody-jets/crossover-jets-offer-potential-new-low-cost-model


2021年5月1日土曜日

ルフトハンザは今年の利用率を40%と予測。ワクチン接種の広がりでパンデミック影響は徐々に減り、夏季旅行シーズンに期待するが、旅行制限の緩和を注視している模様。

Lufthansa Airbus A321neo wing

Source: Lufthansa


フトハンザグループは今年の業績をコロナウィルス危機前実績の40パーセント程度と見ており、調整済みEBIT(利息及び税金控除前利益)は11億ユーロ(13億ドル)の赤字と予測する。第1四半期もパンデミックで低利用率に終始した。


利用率40パーセントとの予測はルフトハンザが発表していた40-50パーセントの予測幅の下位に相当し、渡航制限解除が予想より遅れていることを反映している。グループ全体の収益は1-3月で前年同時期より60パーセント減となった。調整済みEBIT損失は1億ユーロの改善し、前年同四半期は12億ユーロ赤字だった。


ルフトハンザグループCEOカーステン・シュポアは「一貫してコスト削減を行った結果、前年を上回る実績となった。グループ全体で実行中の変革が効果を現してきた。今の動きを緩めることなくルフトハンザグループを更新し、無駄をはぶき、効率を高め、世界をリードするエアライン各社の一画を占めていきたい」と語った。


グループのキャッシュバーンレートは3億ユーロ予想を下回る平均2.35億ユーロになった。同社は原因を運送部門、MRO部門の成果が予想を上回ったためとする。月間の平均キャッシュドレインは2億ユーロに縮小する予想が第2四半期にある。


ルフトハンザグループの利用率は1-3月はコロナウィルス危機前の21パーセントで3百万人を運んだが、2019年実績の10パーセントにすぎず、ロードファクターは三分の一減り、45%になった。


同社は第2四半期も引き続き需要回復のペースは遅くなるとみており、移動制限が引き続き実施されているためとするものの、下半期に回復に転じるとみている。


「危機が長く続けば、それだけ旅行熱が高まる」とシュポアは述べた。「規制が弱まり旅行が可能となれば予約が増える。ワクチン接種率が大きく伸びて夏季から需要が急増するとみている。EU委員会からワクチン接種済みなら米国からヨーロッパ旅行を認めると発表があったが、元気づけられるニュースだ」


同グループ傘下のキャリア各社は観光路線で需要が回復すると見て提供座席数を増やしている。ルフトハンザはコロナウィルス危機前の7割程度までの座席数を提供できるとする。■


Lufthansa to operate 40% capacity this year

after posting €1.1bn Q1 loss


By Graham Dunn29 April 2021




お知らせ

 2022年以降こちらでは新しい投稿はしておりません。引越し先は 「航空宇宙ビジネス短信T1(新)」です。 こちらへお越しください。 https://aviationspacebusiness-civilaviation.blogspot.com/ お待ちしております。