2021年6月3日木曜日

注目のクロスオーバー機材は短距離、長距離双方でここまで柔軟に運用されている。A220、E-Jetなど。スペースジェットの失敗は本当に痛いです。

 


Right Places For Right-Sized Aircraft

Bernie Baldwin June 02, 2021

https://aviationweek.com/special-topics/crossover-narrowbody-jets/right-places-right-sized-aircraft

 

Swiss A220

 

クロスオーバー型のナローボディ機はエアラインに自由な選択肢を与える。適材適所の運用が魅力だ。

 

低ロードファクター路線では737やA320の投入を避けられる。需要が低迷中の今日には朗報だ。またクロスオーバー機は定時性を重視する利用客に魅力となる。

 

エアラインへの魅力はまだある。燃料消費が減る。機体重量が低いことで燃料消費が減り、同時に空の座席のまま飛ばさなくてもよい。さらに今後排出ガスが課徴対象になれば、支払額も低くできる。着陸料も機体重量が低いことで節約できる。また、客室乗務員も減らせるのは魅力だ。

 

デルタエアラインズはA220-100およびA220-300を運用中だ。A220-100はデトロイトから350カイリ未満の短距離路線に投入し、飛行時間は1時間20分程度だ。ただしこの範囲を超える路線としてデトロイト-オースティンは1,000カイリを超え、2時間40分になっている。

 

デルタではA220-100で1,200カイリのロサンジェルス国際空港-ヒューストン・ブッシュ空港線、およそ3時間20分、ならびにボストン-オースティン(3時間40分、1,480カイリ)も運航している。

 

デルタではA220-300も柔軟運航し、各路線で適切な運航能力を実現すべく、クロスオーバー機と大型機材を使い分けている。

 

北に目を転じると、エアカナダがA220-300を増強している。東部のハブ空港のトロント・ピアソン空港とモントリオールをそれぞれ拠点に短距離線中心に運用され、エンブラエル175と併用し適正規模の運行を続けている。

 

各種機材の混合運用路線にハリファックス-トロント線があり、A220-300は737 MAX 8、A320と合わせて投入される。モントリオール発着便ではダッシュ8-400、CRJ900、MAX 8、E175とともに運行されている。

 

エアカナダはA220-300をトロントから西部のカルガリー、デンヴァー、エドモントン、サンフランシスコ、シアトルまで運航している。モントリオールからはロサンジェルスやヴァンクーバーまで同機を投入している。

 

トロント、モントリオールともにサンフランシスコ線が最長でトロントからは4時間45分で1,966カイリを飛ぶ。モントリオールからは2,216カイリ、5時間20分とさらに長い。

 

エアカナダはカルガリー起点でA220-300をケロウナ、オタワ、ヴァンクーバー等へ飛ばしている。

 

ヨーロッパではスイスがA220両型式機材を運用している。ロンドン空港はグライドスロープが急なことが有名でA220-100運用が認証を受けている。同社はジュネーヴ、チューリッヒからロンドン線に投入している。ただし、まだパンデミック前の運行頻度に復帰していない。

 

スイス路線の一部はヘルべティックエアウェイズがエンブラエルE-Jetで運用しており、E190を6機、E190-E2が8機投入されている。ここでも空港アクセスが厳し伊フローレンス空港があり、クロスオーバー機が活躍している。

 

KLMは傘下のKLMシティホッパーでクロスオーバー機を運用している。E190と少数ながらE175を使っている。同社はE195-E2を35機調達する。各機は定員132名の規模だ。

 

KLM Cityhopper E195-E2

 

KLMはシティホッパーで適正規模機材を課kつ擁しており、737では大きすぎる路線や閑散期の需要に対応している。またE-Jetはロンドン・シティ空港線、フローレンス線にも投入し運行制限に対応している。

 

ウィデローはE2を2018年4月に初の定期運航に投入した会社だ。ここではクロスオーバー機が同社の業務拡大に大きく貢献しており、同社で最大の機種となっており、110席仕様でベルゲン線を運行している。

 

その一つベルゲン-トロンドヘイム線ではE190-E2はダッシュ8-400(78席)で需要がさばけない場合に投入されている。

 

アフリカではエアタンザニアがクロスオーバー機を別の使い方で運用しており、A220-300をダッシュ8-400と併用して低需要のリージョナル線で、二機あるボーイング787を高需要長距離線に投入している。

 

4月22日のAviation Week Network では同社は7月までにA220-300を2機追加導入すると報じている。大型ナローボディー機の運用を避ける同社の狙いがさらに強まる。

 

エアバルティックはナローボディ機種を整理しA220-300のみに統一している。メインのハブをリガ(ラトヴィア)とし、リトアニア首都ヴィリニュス、エストニア首都タリンにも小規模ハブがあり、同機を活用する。

 

同社路線網は北西はレイキャビク、南西はテネリフェ島、東にモスクワ、南東にドバイまで広がっている。リガからの飛行時間はラトヴィア国内のリエパーヤまでの40分からドバイ線の6時間25分までと、明らかにA220-300の柔軟運航性能を活用して短距離、長距離両方で強みを発揮している。■


2021年6月2日水曜日

ベラルーシによる国家ハイジャックは世界の共通ルールを破るもので糾弾されるべきだが、世界の独裁国家が真似てゆくのではないか。

 

Belarus Hijacked a Plane and Set a Disturbing Precedent

 

Other Regimes Will Hijack Planes Too

If Belarus gets away with it, authoritarian dictators around the world will have a new tool of oppression.

BY ANNE APPLEBAUM

STAFF WRITER, THE ATLANTIC

MAY 30, 2021 08:00 AM ET

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  • ARTUR WIDAK / NURPHOTO / GETTY / MINDAUGAS KULBIS / AP

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価値観が衝突する場合でも、文明社会には共有すべきルールがある。その例が海洋法で、航空管制もそのひとつだ。パイロットがどこを飛ぶにせよ、地上管制の指示が政治的な意図のもと欺瞞にみちたものであってはならない。あるいは危険な着陸を指示してはならない。

 

ベラルーシの独裁者アレクサンダー・ルカシェンコがこの基本原則を破り、前例のない行動に出た。航空当局に指示し、ギリシャのアテネからリトアニアのヴィリニュスに向かう途中でベラルーシ上空を飛行中のライアンエア機をハイジャックした。ベラルーシ航空管制がパイロットに同機に爆弾が仕掛けられたとの虚偽の連絡を入れた。ベラルーシ国営メディアによれば同機はMiG戦闘機編隊の「護衛」がついてベラルーシ首都ミンスクに向かった。

 

実際には爆弾はなく、脅威もでっち上げで、ミンスクは一番近くの空港でもなかった。同機が着陸したが、乗客を安全誘導する係官は皆無だった。乗客のうち二名が連れ去られたことで、今回の事件の動機が明らかになった。そのひとり、ロマン・プロタセヴィッチはベラルーシの反体制派ブロッガーでありジャーナリストだ。もう一人がガールフレンドのソフヤ・サペガだ。プロタセヴィッチはミンスクで昨年夏に盛り上がった速報チャンネルNextaの編集者の一人だった。本人は2019年に同国を脱出し、亡命生活を送っていた。不在裁判でベラルーシは本人を「テロリスト」認定した。連行される際にプロタセヴィッチは別の乗客に「死刑になる」と伝えていた。ベラルーシではソ連方式の尋問、独居房、拷問が日常茶飯事だ。

 

詳細には不明な点も残る。ライアンエアはハイジャック事件後に数時間にわたり不可解な沈黙を守っていたが、機体整備が理由とする事務的な声明を発表した。事件翌日に同社CEOは「国家によるハイジャック」と呼んだが、実態は疑う余地がない。ベラルーシ政府は航行管制手順を悪用し、パイロットは本当に緊急事態が発生していると通告されたが、真意は批判分子の拉致だった。いいかえれば、ロシアが放射性物質、神経ガスをロンドンで使い政敵を倒した事件、サウジアラビアがイスタンブールの同国領事部内で自国民を抹殺した事件、オランダで自国民の批判勢力を暗殺したイラン、海外居住の自国民、自国出身の外国市民を拉致監禁した中国と同じだ。人権団体Freedom Houseはこうした手口を総じて「国境を変えた抑圧」と呼び、600件におよぶ類似事件があると指摘する。

 

こうした事件の根源はひとつだ。独裁体制の国家は反対勢力にパスポート発行せず、国境を超えることを許さず、外交慣例も無視してきたが、今や航空管制のルールも堂々と破るに至った。この新しい世界では独裁者は政敵を国籍に関係なく、外交法や行政手続きに束縛されず、いかなる場所でも抹殺できるようになった。独裁政権は他国へ圧力をかけ、狙う相手の保護を断念させる。ただし代償として制裁措置を受けたり、世界との関係が悪化するが、独裁者にはなんら痛くないようだ。

 

今回の事件がとくに関心を呼ぶのはサウジアラビア、ロシア、中国の首脳部と異なりルカシェンコには対外的な影響力が皆無に近いことだ。ベラルーシは貿易も大したことはなく、ニューヨークやロンドンに大きな投資案件を有しているわけでもないし、英サッカーチームのオーナーでもない。ルカシェンコは正当な理由なく身柄を拘束し、大部分ヨーロッパ市民を乗せたヨーロッパ登録の機体を危険に陥らせたのは、ヨーロッパとの関係を断絶する覚悟があってのことなのだろう。同時にロシアから経済支援、政治面の公認が得られると計算しているはずだ。ロシアの公認国際テレビチャンネルRTのトップが今回のハイジャック劇を見て「うらやましく」思うとツイートしている。それによれば、ルカシェンコは「見事に物事を動かした」とある。別のロシア高官はハイジャックを「必要かつ実施可能」だったと評している。だがらと言って驚くにはあたらない。独裁者は国際法を破る別の独裁者に支援の姿勢を示すことが当たり前になってきたのだ。

 

事件を受け西側指導者多数がソーシャルメディアに意見を投稿している。NATO事務総長、EC大統領、米国務長官もその中でハイジャックを非難した。リトアニア首相は定刻を大きく遅れ着陸した同機を迎えにヴィリニュス空港に出向いた。ラトヴィアはベラルーシ大使を国外退去させた。英国はベラルーシ登録機材の乗り入れを禁止した。今後数日でさらに多くの措置が現れ、ベラルーシ向けの新たな経済制裁措置も検討されるはずだ。同国向け航空機定期便の運行も停止されるだろう。本日また別の不思議な事態が発生し、ヨーロッパ各国はあらためてベラルーシが無法かつ危険な国となっており、しかもEUの境界線沿いに存在している事実を思い知らされた。ルフトハンザ機がミンスクからフランクフルトに向かうはずのところ、遅延となったのはまたしても爆弾が持ち込まれているとの理由からだった。一部には乗客が人質になるとの危惧もあった。ロシアがウクライナへ侵攻し各種人権侵害事件が発生したように、ベラルーシの人権蹂躙の影響はゆくゆくヨーロッパにも及ぶはずだ。

 

事はヨーロッパに限らない。世界中の独裁国家の首都で独裁者たちは西側諸国の反応を注視している。ルカシェンコがこのまま逃げとおすのか、そうなりそうだが、今回初めて投入された手法を自分たちも使えるのか。他国でこれをまねる動きが出るのは必至だし、自国内の反抗分子に安全な場所はどこにもないと伝えられる。民主国家に生活していても、政治亡命していても、一般の民間機で空中を移動中でもお前たちの身柄を拘束できるぞ、というメッセージになる。■


2021年5月30日日曜日

コロナ回復を見込み、エアバスが積極的な増産体制に乗り出した。ただし、A320neoが中心でA220も早期の利益確保を目指す。ボーイング増産案を横目に見ての動きか。

  

 

Credit: Airbus

 

アバスがA320neoファミリーの月産を2025年までに75機に引き上げる案を検討しており、同時にA220では三倍増の14機まで増産する。

 

このまま実現すれば、同社は2020年代半ばにナローボディ機を毎月90機引き渡すことになり、現在の二倍近くとなり、生産記録を更新することになりそうだ。

 

これに対しワイドボディ機には大きな変化はなく、A330/A330neoは現行の月間2機のままで、A350は2022年秋までに月間5機を6機に増やす。

 

「航空機分野でCOVID-19からの回復が始まるところだ」とエアバスCEOギョーム・フォーリは発言している。同社は回復の主動力は単通路機であり、長距離線の弱含みが足を引っ張ると見ている。

 

5月27日発表ではエアバス向けサプライヤー各社に対する今後の生産企画を伝える意義があり、正式決定ではないものの生産機数を上記のように増やすとある。

 

ただし、エアバスは増産方針を正式な形でも表明している。まず、同社は当初A320ファミリー引渡しを現在の40機から2021年第四四半期までに45機とする。これを2023年第二四半期に64機に増やす。同社からサプライヤー各社へは2024年第一四半期には70機を前提に準備開始を求めている。

 

A220では2022年早々に現行の月産5機を6機に増やす。同社は今後数年以内に14機にする予定で、早期に損益分岐点を上回らせるとする。A320neoファミリーがエアバスの商品構成で唯一利益が出ている事業だ。

 

フォーリCEOは「当社のサプライヤー各社へは必要となる供給能力を確保し、市場環境が整えば対応できるよう準備をお願いしています」

 

ロイター記事ではボーイングが737 MAXで月産31機を2022年早々に、さらに2023年秋に42機に増産するとある。

 

エアバスの増産計画は航空輸送需要が回復するとの楽観的な見方が根底にある。「長期的に見れば実はそんなに悪くない」とIATAチーフエコノミストのブライアン・ピアースは述べている。経済全般はV字回復になるとし、「旅行需要に回復が見られ、これまでの貯蓄分が消費に回ってくる」という。

 

IATAでは2021年下半期には中国、米国、ブラジルの大型国内市場で大きな変化が生まれ、実質的な回復が見られるはずとする。「回復が強含みなる」とピアースは述べている。

 

世界規模では旅行客は2022年に2019年実績の88パーセントに、さらに2023年にはCOVID前実績の105パーセントに回復する予測がある。有償旅客キロ(RPK)の増加ぶりが緩やかになるのは運航路線の平均距離が短くなっているためだ。IATA予測では旅客数はRPKで2030年まで年率3.9パーセント増とあり、このとおりならCOVID-19パンデミックの与えた悪影響で2年が犠牲となる。

 

エアバスは前例ない水準の月産数に向け準備を進めている。ハンブルグに第四番目のナローボディ機組み立てラインを2018年に稼働させており、A321neoの受注急増に備える。ツールーズではA320/321neoラインがもう一本2022年末までに完成し、旧式化した現行ラインと交代する。エアバスのナローボディー機はハンブルグ、ツールーズ、アラバマ州モービル、中国天津で製造しており、A220組立てラインはモービルとカナダのミラベルにある。

 

エアバスでは生産システムの追加整備を進めており、2025年までの完成を目指し、組織面技術面での変更を想定している。宇宙分野事業の再構築として2021年までに関連会社プレミアムエアロテックステリアエアロスペースを拡充する一方で、社内手続きを簡略化しメイン事業への集中度を高める。次に、自動化率を高め、最終組み立て部門以外に機体製造部門にも広げる。エアバスではデジタルデザイン・製造・サービス(DDMS)も段階的に取り入れ、生産のみならず機体運用のライフサイクル全般に可能な場面で採用する。■

 

Airbus Anticipates 89 Single-Aisle Deliveries Per Month In 2025

Jens Flottau May 27, 2021

https://aviationweek.com/air-transport/aircraft-propulsion/airbus-anticipates-89-single-aisle-deliveries-month-2025

 


2021年5月24日月曜日

超音速ビジネスジェットの製造を目指すアエリオンが資金不足で業務停止に。112億ドルもの受注があるのだが....資金集めがうまくいくか注目。

 



Aerion AS2

AS2超音速ビジネスジェットには112億ドルもの受注があるが、アエリオン社は同機の生産段階開始に必要な資金を調達できていない。このため、同社の業務は2021年5月21日に停止された。 (Photo: Aerion Corp)


エリオン社 Aerion Corp. が業務を停止した。超音速機ファミリーの実現に必要な資金が底をついたためだという。同社の発表によれば、第一弾となるマッハ1.2のビジネスジェットAS2で112億ドルの受注が生まれたが、「昨今の財務環境ではAS2の生産開始に必要な大量資金を予定通り確保するのが困難となった。この状況を鑑みて、アエリオン社は現状の財務状態にふさわしい行動をとることとした」


今回の動きの半年ほど前に同社は3億ドルの新本社をフロリダのオーランド・メルボーン国際空港に完工したばかりだった。またAS2をめぐりサプライヤー関係を強化しており、ハネウェルコリンズ・エアロスペーススピリット・エアロシステムズがエンジンメーカーのGEエイビエーションに加わった。


同社には相当の受注や購入合意書が入っており、発注者にはフレックスジェットFlexjet ネットジェッツNetJetsも含まれる。「フレックスジェットはAS2を2015年にアエリオン・スーパーソニック時代に発注し、それ以来同社の事業を支援してきた」と同社の親会社ディレクショナル・エイビエーションDirectional Aviationのケン・リッチが述べている。「特に最近行われた設計変更および画期的な技術に好印象を持っており、アエリオン会長社長兼CEOのトム・ヴァイス、その配下のチームの手腕を評価している。同社が業務停止になったのは残念だが、これだけの事業には相当の投資が必要だし、実現までには当然ながらリスクもあることは理解できる」


アエリオンは当初2023年に生産開始の予定で初飛行を2020年代中ごろと想定していた。一方で3月にはより大型でごく超音速に近づくAS3旅客機構想を打ち出しており、NASAとも技術開発で協力を模索していた。


同上についてアエリオンは今後どう展開するかを詳しく説明していない。「アエリオン社は世界有数の社員、パートナーを集め、全員の努力で超音速飛行を持続させる画期的な空の旅という夢を実現する」と同社は声明を発表。「当社の立ち上げ以後、画期的な技術革新にくわえ最先端の技術、知的財産が生まれている」とした。■


Supersonic Bizjet Developer Aerion Halts Operations

by Kerry Lynch

 - May 21, 2021, 7:45 PM

https://www.ainonline.com/aviation-news/business-aviation/2021-05-21/supersonic-bizjet-developer-aerion-halts-operations


2021年5月23日日曜日

シアトル空港が保安検査場の混雑解消とチェックインのタッチレス化でデジタル技術を試行中

 空港の保安検査の混雑にストレスを感じ、タッチパッドに指をあてたくない旅行客のニーズにこたえようという試みです。日本にも早晩同じ流れが来るでしょう。デジタル行列というのはよくわからないのですが。


Credit: Photo credit: SEA


アトル-タコマ国際空港(SEA)が実証事業二点を試行中で、保安検査場の混雑解消とタッチレスのチェックイン・荷物預入を目指している。


運輸保安庁(TSA)の保安検査現場で「SEAスポットセイバー」と呼ぶテストで待ち時間と混雑を解消しながら適正な物理的間隔を維持できるかをデジタル行列で試行している。


SEAスポットセイバーにはふたつの方法がある。ひとつはアラスカエアラインズ利用客向けのTSA検査ポイント5で保安警備企業Pangiamが行う。もう一つはデルタエアラインズ他の利用客向けの検査ポイント2でVHT社の技術を試す。


実証は今年8月31日まで上記検査場で毎日行われ、午前4時から正午までのSEAで利用客が一番多い時間帯を対象とする。


SEAによれば旅行繁忙期には「点検場に午前11時までに一日の4割から5割の利用者が集中する。保安検査場が一番混雑し、常に密な状況になっている」という。


今年夏に実証が終了すると、SEAは利用客、業者の反応をまとめ、効果を評価する。「成功と判定されれば、全体に適用し、保安検査手続きの効率化を推し進めたい」とSEAが発表している。


happyhoverPhoto credit: Changi Airport Group


さらにSEAはタッチレス技術でHappymeterの「happyhover」技術の評価を続けている。これは電子スクリーン上の指の動きを探知するもので、エアカナダフロンティアJetBlueエアウェイズ大韓航空スピリットエアラインズヴォラリス(メキシコ)の専用カウンターで先行採用されている。


Happyhoverを使うタッチレス・チェックインカウンターはシンガポールのチャンギ空港が2020年7月に世界で初めて採用した。


SEAでは検証用のハードウェアを設置し、赤外線を応用する。空中で光線を遮ることでタッチスクリーン操作を再現する。これにより利用客はチェックイン時のタッチスクリーンに不必要に触る必要がなくなる。


シアトル港管理組合長のサム・チョーSam Choは「タッチレス技術により旅行者のストレス軽減が実現します。空港は安全かつ効率を今後向上できます。利用客、エアライン双方のご協力で実証を進め、ともにメリットが生まれるのを確認します」と述べている。■


Seattle Airport Trials Digital Queuing, Touchless Kiosks

Linda Blachly May 05, 2021

https://aviationweek.com/air-transport/airports-routes/seattle-airport-trials-digital-queuing-touchless-kiosks


2021年5月22日土曜日

COVID-19の影響がまだ続く中を商機ととらえ、新たなLCCとなるブリーズは「いいね」エアラインとして利用客の高評価を狙う。

 



規低運賃エアラインのブリーズエアウェイズ Breeze Airways が運航を開始する。数々の航空事業を立ち上げてきたデイヴィッド・ニールマンDavid Neelemanが率い、7月には米東部16都市をつなぐ39路線のネットワークとなる。


ニールマンのエアライン事業で五番目となる同社は5月27日タンパ=

チャールストン(サウスカロライナ州)線から運行開始する。


当面、同社は以下の四空港を中心の運行となる。タンパ、チャールストン、ニューオーリンズ、ノーフォーク(ヴァージニア州)。


Embraer

Source: Cean W Orrett/Cean One Studio

ブリーズは5月27日運行開始する。


ソルトレイクシティーに本社を置くブリーズは二機のエンブラエル190で運行開始する。同機は108席単一クラス仕様とする。機材は13機増やし、E190を10機、E195は3機を夏までにそろえる。


「16機体制はブリーズの第一段階に過ぎない」とニールマンは語った。「Covid-19パンデミックの影響が全国の航空運輸に出ており、ローカル線や小規模空港で大幅な運航便削減が続いている。直行便を必要とする都市ペアが多い。現在100もの就航先を検討中だ」


ブリーズによれば当初の路線では95パーセントは直行便開設の必要はないという。ニールマンはFlighGlobalに今年3月に同社は「ラストベルト・サンベルト」の中小都市をつなぐ路線開設を検討中と述べていた。


「いいね」料金


ニールマンは新会社を「世界でもっともいいねと言ってもらえるエアライン」にしようと図っている。同じ構想でJetBlueを立ち上げたのはかれこれ20年前のことで、利用客がサービス条件での違いに気づき、その他のLCCと比較してくれると期待する。


同社は片道航空券を39ドルから販売し、「いいね」料金と「もっといいね」料金を選択できる。「いいね」料金は基本料金で無駄を省き手荷物機内持ち込みができない。20ドルで荷物三点まで運べる。通路側座席は10ドルからで、家族でまとまって座席を取るのは無料だが、ペットの機内持ち込みは75ドル徴収する。


「もっといいね」料金では座席指定ができ、手荷物一点の預入ができ、スナックを提供し、シートは足元が広くなり、優先搭乗できる。


三番目に「最高にすてき」料金があり、ビジネスクラス並みのシートとなる。これはエアバスA220-300が機材に加わる今年後半に登場する。ブリーズは同型機を60機発注している。ニールマンはさらに60機をオプションとしているとFlightGlobalに明らかにしている。


エンブラエル機材には飛行中ワイヤレス接続がついていない。飛行時間が短いためと同社は説明するが、夏までに飛行中エンタテインメント(IFE)がつくという。A220にはIFE、wi-fiが最初からついてくる。


フライト出発時間の15分前までなら予約キャンセル・変更は無料で可能と同社は説明。予約変更やキャンセルで発生した未使用分料金は「ブリーズポイント」として24カ月間利用できる。


就航都市


ブリーズの当初路線は大部分が二時間以内フライトとなる。北はロードアイランドのプロビデンス、南西はテキサス州のサンアントニオまでカバーする。


その他の就航都市にルイビル(ケンタッキー)、アクロン/カントン(オハイオ)、コロンバス(オハイオ)、ピッツバーグ、ハンツビル(アラバマ)、リッチモンド(ヴァージニア)、ベントンヴィル/ふファイエットヴィル(アーカンソー)、タルサ、オクラホマシティがある。

Breeze Launch Route Map

Source: Breeze Airways

ブリーズエアウェイズの当初の路線地図

路線網は7月22日までに完成すると同社は発表。



ブリーズは4月中旬に運行開始予定だったがFAA認可がおりず、5週間延期された。5月14日に認可を得て、有償旅客運行が可能となった。


以前ニールマンはモリスエアを創設し、同社はサウスウェストエアラインズに吸収された。そのほか、カナダのWestJetJetBlue、ブラジルのAzulも立ち上げてきた。本人はブリーズの国際線開設にも意欲を見せている。A220は増設燃料タンクでハワイ、南米、欧州までの路線運航が可能とニールマンは述べている。


ブリーズ以外にも新規エアラインアヴェロエアラインズAvelo Airlinesはアレジアントエアユナイテッドエアラインズで役員だったアンドリュー・レヴィが立ち上げ、ロサンジェルス地区ハリウッド-バーバンク空港から西部11都市を結び、4月28日運行開始した。■


Neeleman’s Breeze Airways to be airborne from 27 May

By Pilar Wolfsteller21 May 2021

https://www.flightglobal.com/strategy/neelemans-breeze-airways-to-be-airborne-from-27-may/143846.article


2021年5月16日日曜日

再生可能航空燃料(SAF)の大幅増産が必要な理由。2050年に向け、今年から大きな動きが民間分野、政府間に出てきそう。

 Aviation Weekの長文記事ですが代替燃料の最新状況がわかります。

 

ネステの再生可能燃料精製工場はフィンランドにある。Credit: Neste

 

生可能代替航空燃料(SAF)の不足が深刻だ。米エアラインも英国他とならび実質ゼロカーボン排出を2050年までに達成することになり、代替燃料の必要性が航空業界で増している。

再生可能ソースからの航空燃料増産が航空業界の排出量削減に必須というのは各シナリオで共通している。燃料消費が優れる新型機へ更新しても変わりはない。同様に飛行空域を変え、新型推進技術が開発されたとしても同じだ。

だが増産規模は莫大だ。SAFの2020年生産量は6億ガロンに過ぎない。ジェット燃料全体の消費量2019年の960億ガロンと比べ微量だ。

2050年までの純ゼロ目標達成を発表した全米エアライン協会(A4A) は政府他関係機関と共同しエアライン向けSAFの20億ガロン提供を2030年に目指す。グローバル規模でみれば今後の課題の規模が明白に想像できる。

民間航空では炭素ガス排出を2005年水準で2050年までに半減させる目標が2009年以来示されており、各国が前倒しを模索している。ICAOの2022年目標は達成可能とはいえ、その実現のカギを握るのがSAFだ。

一部エアラインはもっと意欲的な目標を掲げている。貨物空輸専門のドイツ郵便DHLは2030年までに3割の燃料をSAFにする目標を掲げる。同社は2019年に4.8億ガロンを消費した。デルタエアラインズは2030年までにSAFを10%にすると2019年に目標設定した。ジェットブルーエアウェイズは2040年にネットゼロをめざしており、SAFの増産を求めている。

増産でSAF価格を下げる必要がある。現在はジェットA燃料の3-5倍の価格だ。IATAはSAFが価格で競争力を発揮できる生産量を2019年実績の2%つまり19億ガロン程度とみている。IATAはこの実現は2025年とするが、現在の30倍の増産が前提となる。

新型推進手段の出現でSAFの長期ニーズで議論が生まれている。EasyJetCEOヨハン・ランドゲンの意見は短距離路線運航会社はSAFよりカーボンオフセットに資金投入すべきとし、ゼロエミッション技術となる電気推進や水素の実用化が近づいているとする。

だが電気推進や水素動力の機体は当面飛行距離が500から1,000nm程度に限られ、現行の短中距離機材や長距離機材も長期的にはSAFが唯一の脱炭素化手段となりそうだ。

SAFがなぜ必要なのか

世界の民間航空のCO2排出量は10億トン規模にすぎない。技術や運用の改良により、さらにパンデミックによる影響を入れても2050年時点で20億トンまで増加する予測がある。

目標が2050年までに50%削減なのか、ネットゼロなのかは異なるが、燃料消費効率が優秀な機体、航空交通管制の改善、さらに新型電動や水素推進技術がこの達成に効果を上げるはずだ。それでもSAFやカーボンオフセットが必要となることに変わりない。

FuelKLMは今年2月、部分混合の持続可能合成ケロシンによる商用飛行を実施した。燃料はシェルが供給した。Credit: KLM

 

SAFは飛行中の排出を減らすものではない。温暖化効果ガス排出は炭素のライフサイクルで発生する。通常型ジェット燃料の燃焼により化石CO2が放出され、大気中の炭素量が増える。SAFを燃焼すると植物が吸収した炭素を大気に還元することになる、あるいは家庭ごみの燃焼や産業廃棄物が放出していたはずの炭素を放出することになる。

その結果、ライフサイクルCO2排出が「目覚ましく」純減する。SAFがバイオマスの使用済み調理油などから生産されるで効果は80%にも達する。大量削減効果は森林からも期待できる。CO2取り込みと再生可能電力で合成燃料を生産すれば化石航空燃料の大幅削減も可能となる。

一部の供給原料にはカーボンネガティブ効果が期待される。米国再生可能エナジー試験所の3月公開発表ではSAFを木質廃棄物から生産するとネットの炭素排出量を最大165%削減できるとある。これだけ大きな削減効果が期待できるのは従来は木質廃棄物を埋め立てて腐食すして発生するメタンが減る効果が大きい。メタンはCO2の20倍の温室ガス効果がある。

SAFの費用

2020年9月に業界団体Air Transport Action Group (ATAG)が発表したWaypoint 2050 報告書では航空業界が2050年までにCO2排出量を半減させる目標への選択肢を検討しているが、いずれの場合でもSAFが不可欠だと判明した。

SAFを最大限使用するシナリオでは年間1.160億から1,510億ガロン(4,400億-5,700億リットル)の生産が2050年に必要とある。電動、水素推進を最大限導入してもSAFは620-900億ガロン必要となる。

2050年までのCO2半減だけでこれだけの量が必要となる。パリ合意では世界の温度上昇は2C以下に抑えるとあり、ATAGは航空業界はより大胆な炭素排出削減を求められる年上昇幅が1.5Cになればなおさらだとする。

温度上昇を1.5Cに抑えるためには世界の航空業界は2050年までの純ゼロエミッションが必要になるとATAGは指摘し、SAF生産は年間380億ガロンの増産になる。

世界規模でSAF増産が迅速に実現すれば「2050年目標の先に向かうおそらく唯一かつ最大の機会」となるとWaypoint 2050は結論づけ、2050年までに1,500ないし1,700億ガロンが必要となると算出している。

ATAGは今後10年で業界としてこの目標達成が可能か判断する必要が生まれると分析している。SAF生産施設が何か所、どこに必要となるかを検討するのが課題だ。

各地にSAF工場が数百か所必要となる。各工場の建設には数億ドルが必要で、さらに増産が課題となる。英国だけで14か所での13億ガロン生産が2035年までに必要となる。そのひとつVelocysのゴミ燃料転換工場の建設費は7億ドルにのぼる。

SAFはどこまで使えるのか

増産が課題だが、消費増は別の問題だ。現在の航空機用SAFは通常型ジェット燃料と最大50%までの混合に限定されている。この制限はSAF混合燃料は通常型のジェットA燃料と混合され、既存の空港の燃料共有設備を改修せずに使うためだ。

混合比率に上限があるのは供給原料を燃料に転換し、合成パラフィンケロシンを製造するが、炭化水素の量が化石ジェット燃料の含有量に達しないためだ。炭化水素原子が不足すると燃料系統で問題が発生し、機体やエンジンに支障が生じる。

現在のSAFでは混合比率を一桁に抑えており、多分にこうした制限は学術的なのだが、エアライン側がSAF使用を増やす際にこの制限が足かせになる。このためエンジンメーカー企業はエアバスボーイング等機体メーカーとともに100%SAFで稼働するエンジンの実現を目指している。ボーイングでは100%SAFで稼働する機体の型式認証を2030年までに得る。

供給原料からのSAF生産方式は現在7通りあり、触媒加水熱分解ジェット燃料CHJでは芳香族を含有しており混合比上限が100%までとなるが、そのまま使える。その他方式には100%使用で承認待ちのものがある。だがSAFの大部分で混合比率の上限があり、燃料性状認証までにさらにテスト、改良が必要だ。

SAFの中で最初に民生使用が認められるのは水素処理エステル脂肪酸HEFAで、混合比は最大50%に制限される。これは芳香族が含まれないためだ。ただし、エンジンテストで100%HEFAをロールスロイスがテストしており、エアバスとボーイングは飛行テストを実施していることから今後の新型機はHEFA100%での運用が可能となり、エアライン側はライフサイクルCO2削減効果をフル享受できそうだ。

だがHEFAのみでは本質的に化石燃料と同質ではない。メーカーは100%HEFA使用を一部機材でのみ認めているが、他の代替燃料と異なる利用が必要としている。FAAは利用可能な機材は一部に留まるとしている。そのため100%HEFAはSAFだが「限定的」な存在で全機には導入できない。

SAFのメーカーは?

2020年時点でSAFの大手供給企業は二社しかなかった。カリフォーニアのWorld EnergyとフィンランドのNesteである。ただ今後数カ月でこの構図が大きく変わりそうだ。生産施設の稼働が続き、原材料の搬入が増える。これは長年かけての投資活動の成果である。

Fuelフルクラム・バイオエナジーのレノ工場(ネヴァダ)は市内の固形ごみをSAFに転換する。Credit: Fulcrum BioEnergy

 

この二社が増産を続けるが、SAF工場の核となる専用工場が今年から2024年にかけ操業を開始する。2021年はフルクラムバイオエナジー Fulcrum BioEnergyが年産10.5百万ガロンの生産工場をネヴァダ州レノに完成させ、市内固形ごみ(MSW)からSAFを生産する。レッドロックバイオフュエルRed Rock Biofuelsの年産16百万ガロン工場はオレゴン州レイクヴューにあり、今年中に操業開始し、木質バイオマスから燃料を生産する。

2022年にはランザジェットLanzaJetのエタノール処理燃料工場がジョージア州ソパートンで操業開始の予定で、年間10百万ガロンの生産能力の9割をSAF生産にあてる。同社は2025年までに工場を4か所に増やし、1億ガロンのSAFを生産する大胆な計画を進める。

スカイNRGSkyNRGはKLMが共同出資して2010年生まれた会社で持続可能航空燃料のサプライチェーン開発にあたり、ヨーロッパ初の専用SAF工場を2033年に完成させる予定だ。オランダ・デルフセイルにあるDSL-01の施設はHEFA方式のSAF等を年間36百万ガロン生産する能力を有し、廃油から再増する。

また2023年にはWorld Energyがカリフォーニア州パラマウントのHEFA工場を拡張し、年間150百万ガロンの生産能力を実現する。NesteはHEFA480百万ガロンをフィンランド、シンガポール、オランダで生産するのを目標とする。。

FAAが進める民間航空代替燃料事業(CAAFI)では2023-24年に年間600百万ガロンのSAF生産能力が追加されるとしている。この一部としてジーヴォGevoが非食用とうもろこしを燃料転換する初の工場をミネソタ州ラヴァーンで操業開始する。

SAF増産は世界規模で広がる。石油精製業トタル Total (フランス)とプリーム Preem(スウェーデン)は初のHEFA工場を2024年に操業開始し、パラグアイのオメガグリーンOmega Greenは年産300百万ガロンの生産施設でHEFAのSAFとグリーンディーゼルの生産を2024年までに開始する。

原料は確保できるのか

今後のSAF増産では廃棄物利用として供給原料の投入が主流となる。再生可能燃料生産の初期にヤシ油のような原料を使ったことで批判を浴びていた。ヤシ油のため土地利用方法が変わり食料生産に影響が出るという批判だった。

SAFの商業生産の初期では廃棄植物油や動物脂肪さらに調理油を主に使っていた。生産方法が広がり、生産施設建設が始まると利用可能な供給原料の幅も広がっている。

航空業界では廃棄物利用への流れが望ましいとし、食料生産との競合を避けたいとする。供給源はひろがっており、都市部の固形ごみは従来は埋め立てや焼却で処理され、工業プロセスで生まれるガスや農林産業で生じる残さいも利用できる。

PtL合成燃料への関心も高まっている。これはe燃料とも呼ばれ、大気中のCO2と再生可能電力から生成する。ヨーロッパが先行しており、限定規模ながらバイオマスを原料に持続可能燃料を製造する。PtL技術はまだ未成熟で高価格だが、大規模な増産が必要となるだろう。

KLMは今年二月にシェルがCO2、水、再選可能エナジーから生産した合成PtLケロシンを少量混合し初の営業運行を実施した。オランダではe燃料で別の事業二件の発表があった。ロッテルダムのゼニドZenid、アムステルダムのシンケロSynkeroだ。その他e燃料生産事業がデンマーク、ドイツ、ノルウェーにある。

SAF生産の潜在性を分析した世界経済フォーラム(WEF) では各種原料を使えばATAGの最も大胆なシナリオとするSAF利用の2050年目標を実現する生産能力は十分存在するとしている。分析では380億ガロンの追加生産能力がMSWから、農林業残滓から570億ガロン、廃ガスから150億ガロンの生産が可能だという。

WEF分析では石油、セルロースは食品生産と競合せず、土地利用変更も起こさず2050年までに620億ガロンのSAF生産を実現できるとする。これは航空業界の需要に対応できる規模だ。PtL燃料は理論的には無限の生産量が実現するものの、利用層は他にもあり競合が生じる。

SAFは買うのはだれか

SAFの利用拡大に大きな役割を演じているのはこれまでごく一部のエアラインや燃料供給会社だった。その一つがユナイテッドエアラインズで、World Energyと長期間オフセットSAF契約を結び、2016年からHEFA燃料供給を受けロサンジェルス国際空港を拠点に運行する定期便に使用している。

その他エアラインも利用を開始している。フルクラムのレノ工場はユナイテッド、キャセイパシフィックエアウェイズ、航空燃料メーカーのWorld Fuel Servicesと契約している。レッドロックのレイクヴュー工場はフェデックス・エキスプレスサウスウェストエアラインズシェルに供給している。

増産が続く中で初期からのメーカーのNesteはHEFA方式SAFの利用客を数多く確保しており、全日空フィンエアKLMのほか、サンフランシスコ国際空港を本拠地に運行する米系各社、航空燃料供給会社の Air bpAvfuel、シェルが含まれる。

ICAOが進めるCORISA国際線向けカーボンオフセット事業ならびにSAFを利用してエア林のオフセット義務を軽減する方策として、利用契約は増える一方だ。デルタは2019年に年間10百万ガロン供給契約をジーヴォと結んでおり、2023年から納品が始まる。デルタはノースウェスト・アドバンスト・バイオフュエルNorthwest Advanced Bio-Fuelsと条件付きオフテイク契約も結んでおり、木質廃棄物を燃料に転換する工場をワシントン州に建設する。

MSWを原料にSAF生産する工場をロンドンに建設する案は資金不足でとん挫したが、ブリティッシュエアウェイズ(BA)はVelocysとアルタルトプロジェクトと組み年産13百万ガロンのMSWからSAFを生産する工場を円グランドのイミンガムに建設し、2025年から生産開始する。

BAはアルタルト施設の所有オプション契約を3月に延長したが、同社はランザジェットのソパートン工場にANAと共同出資し、燃料オフテイク契約とともにアルコール原料のジェット燃料工場が英国内に建設できないか検討する。

業界ではオフテイク投資契約が徐々にだが着実に増えている。ジーヴォはSAFをスカンディナヴィアンエアラインズ(SAS)へ販売し、ユナイテッドには 1PointFiveへの大型投資をする。同社は大気中のCO2回収を専門とする新興企業だ。ユナイテッドCEOのスコット・カービーは炭素隔離技術が究極の排出ガスのオフセット手段となるとみており、航空機の排出ガスからCO2を除去できるとする。

今後必要な措置は

SAF増産の必要性が強まる中で、エアライン各社他航空業界関係筋は各国政府に対し、政策奨励策を実行に移し、原材料並びに燃料の生産ぞきょうを実現すべきとの声が高まっており、エアライン他業者は長期間にわたる関与、投資を続けるべきだ。

米国ではA4Aがガロン2ドルをSAFブレンド業者の税額控除として生産活動の奨励策とするよう求めている。SAF生産工場では同時にグリーンディーゼルの生産も可能で、こちらは要求水準が低いため利益率が高いことが理由だ。このため生産能力は利益率の高い陸上輸送用の燃料に向けられがちで、奨励策が必要との主張でSAF生産に役立つという。

ヨーロッパではReFuelEU Aviation法制がSAF利用促進のため混合方式で提言を出す予測がある。スカンジナヴィアでは導入済みだが、SAF混合比率を高め利用促進を狙う。

欧州連合(EU)が提案する義務内容は2025年に2%、2035年に20%、2040年に32%、2050年に63%と順次増やすとみられる。ヨーロッパで人気があるPtL方式のe燃料では2030年の0.7%を2050年までに25%増やすとの観測がある。

政府へのSAF増産支援では政府にともに働きかける航空業界だが、義務化は業界を二分する可能性がある。米国ではA4Aは混合比の義務化は時期尚早と主張し、SAF生産がまだ少量なことを理由とする。これに対しEUではLCC各社がSAF使用枠の適用を長距離国際線や短距離欧州内路線に求めている。

古代の船乗りは「見る限りの水だが一滴も飲めない」と嘆いたものだが、航空業界に見える持続可能燃料の供給はじれったいほど少ない。だが、状況が変われば今年中にもエアライン、政府、その他関係先が一気に活性化された状況を作り出せそうだ。■

Why Increasing Sustainable Jet Fuel Production Is Critical

Graham Warwick April 30, 2021

 


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