2020年9月27日日曜日

737 Maxの定期運航再開への道筋が見えてきた。

 

FAA head Dickson to pilot the 737 Max next week

By Pilar Wolfsteller26 September 2020



FAAはボーイング 737Max の飛行停止措置解除に先立ち、スティーブ・ディクソン長官が9月30日に同型機を自ら操縦すると米議会に伝えた。


ディクソン長官は民間パイロット出身で今年初め、同機の型式証明再発行の前に同機を操縦すると公言していた。


Boeing 737 Max 8 house colours 1

Source: Max Kingsley-Jones/FlightGlobal


米航空規制当局のFAAはカナダ、欧州、ブラジルの各国当局関係者と会談し、合同運用評価委員会(JOEB)による同機評価内容の最終版を完成させたと9月25日発表している。JOEBの評見内容はFAAの飛行標準化委員会(FSB)報告書に掲載される。FSBが運航再開の前にパイロット訓練の基準をまとめ、技術諮問委員会がMaxの設計書類最終版を精査する。


「FAA長官スティーブ・ディクソンおよびFAA副長官ダン・エルウェルが来週シアトルでJOEB評価が推奨する訓練を受講する。シミュレーター訓練を経て、ディクソン長官はボーイング737 Maxを9月30日に操縦するが、その前にFAAは同機の運航再開を決定する予定」(FAA)


737 Maxは事故二件で乗員乗客計346名の生命を奪ったため、一年半前から世界各地で飛行停止措置に入っている。搭載する操縦特性強化装置(MCAS) が双方の事故で原因と判明した。


今年8月にFAAは同機で設計変更四点を示し、事故原因を除去すると発表していた。耐空証明(AD)の変更点では同機の安全性向上とともにコックピット乗員による解決策の強化を含めるとしていた。


このADへのパブリックコメントは募集期間が終了しており、FAAは寄せられたコメントを検討中だという。


「FAAは判明している問題全部が適正に解決されているとわかるまで同機の定期運航再開は認めない」と議会に伝えている。


今週初めにアメリカンエアラインズ(737 Max24機を地上待機中、76機を別に発注中)が同社パイロットが「特別訓練」を11月に開始し、2021年1月予定の運航再開に備えると発表していた。


米議会の報告書が先週発表され、その中でボーイングの「隠ぺい体質」に触れ、誤った技術想定にFAAの監督不行き届きが重なり、インドネシア(2018年10月)、エチオピア(2019年3月)の悲劇的事故につながったと結論づけている。


「Max墜落事故は単独の不良、技術過誤あるいは制御の過ちから引き起こされたものではない」と9月16日発表の報告書が指摘している。「技術面の誤った想定をボーイング技術部門がしていたこと、ボーイング社内の管理体制に透明性が欠如していたこと、さらに大部分が不十分なFAAの監督が連鎖して悲劇的な事故につながった」「ボーイングを十分監督すべき責任および利用客の安全な飛行移動を実現すべき責任を有するのがFAAである」


ボーイングは駐機中の各社向け450機あまりの737完成機材の大部分は一年以内の納入再開をめざすと言明している。飛行停止措置中も2019年に同機生産は続き、納入できないままの機体が社内に滞留している。■


2020年9月22日火曜日

航空不況 ルフトハンザもA380全機を運航停止へ、人員削減も上乗せ

 

Lufthansa to mothball entire A380 and A340-600 fleet

By Cirium22 September 2020


ルフトハンザグループは所有するエアバスA380は全機、A340-600の10機を長期保管措置とし、「想定外の迅速な需要回復」の際に再稼働させることとする。A340-600で残る機材は定期運行から外す。


また国際航空輸送の需要予測はここ数週間で「大きく悪化」し、提供座席数で下方修正を迫られていると発表した。


対前年比で長距離路線で50パーセント、短期路線で55パーセントの座席数で第四四半期に対応すると前に同グループは発表していた。だが、これを「20パーセントから30パーセント」に変更する。その結果、グループ全体で150機を「2020年代中ごろまでに」削減する予想が出てきた。

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同グループは減損費用11億ユーロを今年第三四半期に計上し、機材撤去もここに含まれている。2020年第一四半期では5.7億ユーロを減損費用に計上し、このうち3億ユーロが機材撤去用だった。


同グループは8月に65機を完全飛行停止するとし、A380(6機)、ボーイング747(5機)、A320(11機)をルフトハンザ本体から、ルフトハンザカーゴはMD-11Fが2機という内訳だった。その前に767を3機、ボンバルディアQ400を13機オーストリア国内運航から外し、ブラッセルエアラインズはリース中のA330(2機)、A319(8機)を運航停止する。ユーロウィングス部門はリース中Q400の15機を運航から外す。


ルフトハンザグループは発表済みの正規社員削減22千名を上乗せするとも発表した。管理職では2021年第一四半期に2割削減する。事務所スペースを世界各地で見直すが、ドイツ国内では3割減らす。


見通しが暗いが、同社は2021年にキャッシュフローを黒字化する目標を掲げている。2020年から2021年にかけての冬期にグループの月間流動性損失を現在の5億ユーロから4億ユーロに減らす目標だ。


「不確実性が世界規模で高いままで、航空輸送需要へ短期調整で対応する状況が当面は避けられない」とルフトハンザは見ており、搭乗前に実施中のCovid-19感染テストは「世界規模の移動再開に必須の前提条件」としている。■


2020年9月13日日曜日

航空不況 シンガポールエアラインズも人員整理に

 

 

Singapore Air Cuts 20% of Workforce as Virus Smashes Travel

By Will Davies

2020年9月10日 19:32 JST Updated on 2020年9月11日 16:03 JST

 

 

エアライン業界はどこまで縮小していくのか先が見通せません。今回はBloomberg記事から優良企業シンガポールエアラインズも人員整理に動いているとの内容です。

 

 

ンガポールエアラインズLtd.は従業員約4,300名を解雇する。対象はシンガポールエアラインズシルクエアスクートの各部門にわたる。労働組合と処置について協議が進行中で早期実施を望むと同社は9月10日に声明を発表した。シンガポールエアラインズでの人員整理は2003年のSARS大量流行以来初めてだ。

 

今回の決定で示されているのは世界トップクラスのキャリアーでさえパンデミックで縮小した航空需要による業界史上最大規模の財政危機を乗り越えられない事実だ。国際航空運送協会は旅客需要がパンデミック前水準に戻るのは2024年と予測している。シンガポールエアラインズには頼りになる国内路線が皆無のため特に脆弱な立場だ。

 

シンガポールエアラインズ、シルクエア合わせて現在の運航規模はパンデミック前の7パーセントで、路線運航再開の動きがあるものの、11月でも11パーセント程度にしか戻らないと同社は発表。

 

同社株は10日に1.1パーセント値下がりしたものの、翌11日は小幅低下にとどまっている。年間では45パーセントの値下がり。

 

シンガポールエアラインズは機材規模と路線網の見直しに入っており、7月にはエアバスSEと、さらにボーイングとも納入日程の調整と支払先送りで合意している

 

生き残れるのはどこか

 

今回の人員整理は同社で110億シンガポールドル(80億ドル)を6月に借入等で確保した中で実施される。またシンガポール政府から雇用支援も受けている。同国財務省は7月時点で150億シンガポールドルを投入しており各社の給与支払を支援中と発表している。その他エアラインと異なり、シンガポールエアラインズは当初こそ雇用削減を回避してきたが、一部社員は病院他での勤務に切り替わっていた。

 

雇用凍結

 

また同社は社員採用を凍結しつつ早期退職、自主退職を求め、1,900名分を削減していた。その結果、グループ全体での追加削減幅は2,400名に絞れたとする。

 

人員整理の効果は3月まで月間13百万シンガポールドルで、同月に政府支援が終了する。その後は20百万シンガポールドル規模になる。

 

6月発表の同社第1四半期業績は赤字10億シンガポールドルという記録的な規模となり、旅客キロメートル収入は99パーセント減った。燃料ヘッジでも損失が発生している。

 

世界各地の状況

 

同様の対応は大手各社で見られ、ブリティッシュエアウェイズルフトハンザエミレイツカンタスエアウェイズでも数千名規模の人員整理や無給自宅待機措置を取っている。米国政府による500億ドル救済策が9月に終了すれば人員整理がさらに増える予測がある。

 

アジアではキャセイパシフィックエアウェイズが傘下のキャセイドラゴンとあわせ香港政庁の雇用支援策に頼らないとしている。これにより同社は雇用規模の維持義務を負わないことになる。

 

ただし、キャセイは子会社一部で政府支援を求めており、ホンコンエキスプレス、貨物部門のエアホンコンキャセイパシフィックケイタリングサービシズがその対象だ。新常態による旅客需要縮小にあわせ各社の規模を調整する必要があるとの認識だ。

 

世界規模では1月以降で400千名のエアライン社員が整理あるいは自宅待機となっている。(Bloomberg調べ) 北アメリカだけでも130千名の雇用が消える予測がある。ユナイテッドエアラインズ・ホールディングスは10月に16,370名を解雇すると発表しており、アメリカンエアラインズグループは19千名としている。■

 


2020年8月30日日曜日

Ottoのセレラ 500Lは航空業界を一変させる画期的な小型機になる。(T1T2共通記事)

 ットーエイビエーション Otto Aviation から発表のセレラCelera500Lは画期的な機体になる可能性を秘めており、無人機版や軍用機として情報収集監視偵察任務につく発展も考えらえる。弾丸形状の同機をThe War Zoneがいち早く報じたのは2017年だったが、以来同社の動向を注意深く追ってきた。

セレラ500Lの初めての発表は同社販促用ウェブサイトの立ち上げと同日になった。報道資料は初飛行の詳細や日時に触れていないが、これまで31回の飛行を実施したとある。

 

2019年6月、民間機登録N818WMとして南カリフォーニアロジスティクス空港でタクシーする同機の姿が見られており、初飛行が近い様子だった。

 

「イノベーションにより問題解決に成功した。当社の目標は米国内のあらゆる都市間を一気に飛行可能でいながらスピード、コスト両面で民間航空便に匹敵する水準となるプライベート機を実現することだ」とオットーエイビエーションの会長兼最高技術責任者ウィリアム・オットー・シニアが記している。「個人客や家族でセレラ500Lを民間航空運賃並みの料金でチャーターしながら、プライベート機の利便性が実現する。民間航空に十分対抗できる料金でプライベート移動できれば大きな市場需要が生まれると見ている」

 

「セレラ500Lにより航空業界、旅行業界でここ50年で最大の変化が実現する。当社の機材は旅客輸送以外にも貨物空輸や軍用用途にも投入できる。セレラ500Lの市販の準備ができた」

 

OTTO AVIATION

 

OTTO AVIATION

OTTO AVIATION

 

オットーエイビエーションによればセレラ500Lの最大巡航速度は450マイル、航続距離は4,500マイルだ。また燃料消費効率が高く、1ガロンで18から25マイル飛ぶと同社は述べる。セレラ500Lと同等のビジネスジェット機では6名搭乗でガロン当たり2から3マイルなのでオットー社の経済性は際立つし、環境にもそれだけやさしいことになる。またセレラ500Lの一時間当たり運航経費は328ドルという信じられないほどの低水準だと同社は言う

 

OTTO AVIATION

 

画期的な性能を実現したのが層流効率を考慮した機体形状だ。同程度の大きさの他機より抗力は59パーセント低い。搭載するライクリン・エアクラフトエンジン・ディベロップメントRaikhlin Aircraft Engine Developments(RED)製A03 V12ピストンエンジンも大きな要素で、多段階ターボチャージャーを搭載しジェット燃料A1以外にケロシンやバイオディーゼルでの運転も可能だ。

 

REDは同エンジンは燃料消費をて抑えながら信頼性は同程度の出力のピストンエンジンよりはるかに高いとしている。「セレラ500Lの空力特性では離陸時や巡航飛行時に大馬力は不要なので効率重視のエンジンを採用した」とオットーのウェブサイトにある。

 

セレラ500Lにオットーは保有する特許7点を応用しており、その一つとして排気システムに熱交換器をつけ推力を追加した。空力的に洗練された機体形状のため、失速しても操縦に支障はなく安全性も確保している。

 

また涙滴型の機体で客室内に余裕が生まれたのも同程度の機体サイズの競合各機への優位性となる。長期間フライトでも快適さが確保されており、航続距離が4,500マイルでいながら離陸滑走路も3,300フィートで十分なためセレラ500Lは事実上米国内のあらゆる空港から途中燃料給油なしで移動可能としている。

OTTO AVIATION

 

まず民間、商用用途を念頭とするが、オットーでは同機の長距離性能や燃料効率の高さを生かし軍用支援用途にも投入可能とみている。人員輸送貨物輸送に加え情報収集監視偵察(ISR)ミッションも視野に入る。無人機版に各種センサーを搭載すれば長時間監視や通信中継用機材として対象地点に長時間滞空し、高高度から戦場をカバーできる。また、対象地点を変更してもジェット機並みのスピードで移動可能だ。

 

オットーエイビエーションではセレラ500Lの発展型としてハイブリッド推進あるいは全電動推進で効率をさらに高める機体も提案しており、拡大型のセレラ1000Lも提案している。

 

OTTO AVIATION

拡大型セレラ1000Lと500Lの機体サイズ比較

 


同社は外部投資先を確保し、FAA型式認証取得のうえで受注対応する。

 

目標はFAA型式証明を2023年までに取得し、量産型セレラ500Lの製造を開始し、2025年までに発注元へ納入開始することだ。

 

謎の機体として追跡してきたが、オットーエイビエーションのセレラとして姿を現したことに興奮を抑えきれない。同機には今までにない性能と期待が詰まっており、航空業界、航空輸送を一変させる可能性を秘めている。構想を飛行可能な機材として実現したオットーエイビエーションの大きな成果となった。多大な資源と相当の高リスクがある中でこれを実現したからだ。セレラがどんな発展をするか今後も見守りたい。■

 

この記事は以下を再構成したものです。

 

 

The Potentially Revolutionary Celera 500L Aircraft Officially Breaks Cover

Otto Aviation aims to disrupt the aviation landscape with a design that flies at jet speeds, but uses a fraction of the gas, and has more range.

BY JOSEPH TREVITHICK AND TYLER ROGOWAYAUGUST 26, 2020

Contact the authors: Joe@thedrive.com and Tyler@thedrive.com


2020年8月24日月曜日

航空不況の中、世界の貨物輸送はどうなっているのか



 

COVID-19による危機状態の中、航空貨物輸送市場はどう推移しているのか。

パリ支局長にして航空運輸エディターのヘレン・マシー-べレスフォードがまとめてくれた。

空貨物輸送部門はCOVID-19のパンデミック前からすでに厳しい状況にあった。昨年は2009年以来で最悪の年で、米中貿易戦争、マクロ経済の不透明性やブレグジットが暗い材料となった。   

だがCOVID-19危機が始まると、課題は一夜にして変化した。緊急に必要とされる医療品の各地への輸送が優先事項となった。一方で旅客輸送は静止状態となり旅客機の貨物輸送能力も使えなくなった。このためチャーター便需要が強まり、エアライン便も臨時で貨物輸送に転用された。並行してモノの輸送需要そのものが広範囲で縮小し、見通しがつかない中で消費支出が減り、失業増で貨物便運航も減速を迫られた。  

世界の多くの地点で産業活動に再開の動きがある中で、航空貨物の見通しは一層複雑になっている。国際航空輸送協会 (IATA) の最新の市場分析は6月が対象で、回復は低調とあり、業界全体での貨物トンキロメーターは対前年比17.6%減とある。ただ、IATAは5月は20.1%減としていた。ただIATAは6月の貨物需要が例年より軟調だったとし、工業出荷及び新規輸出受注の水準が原因とし、貨物輸送も低速安価な自動車や鉄道に移行しているとする。この傾向は景気悪化時によく見られるが、このまま推移すれば航空貨物業界は心配になるはずだ。

パンデミック前はeコマースは航空貨物業界が有望視していたが、パンデミック後は消費者がオンラインショッピング利用を増やしている。とはいえ、emarketer.comは今年のeコマース販売は年率4.7パーセント減の3.9兆ドルに予測を下方修正している。

では航空貨物業界の今後数年間の見通しはどうか。すべてはグローバル経済の動向にかかってくる。業界は新しい状況に適合を進める必要がある。そのひとつに貨物輸送能力の削減があり、今後数年でひろがるはずだ。IATAは2019年水準への復帰は2024年以降とみている。■

Cargolux 747

Credit: joepriesaviation.net

 How Is The Cargo Market Faring During The Pandemic?

Helen Massy-Beresford August 19, 2020

2020年8月23日日曜日

厳しい企業環境のボーイング民生機部門でレイオフ希望者を追加募集中。軍用機宇宙部門は非対象

 

 

Credit: Boeing

 

ーイングは自発的一時解雇で追加を募集する。対象は商業機、MRO事業および管理部門で同社CEOが社内通知で発表した。これは今後数か年にわたり需要が縮小することに対応しての業務調整の一環。

 

「現在の市場需要で当社の雇用を支えられればよいと思う」「しかし、残念ながら新しい現実に合わせるため二は一時解雇が必要で、ゆくゆ

く成長路線に復帰するため現在の流動性と業界での位置を守っておく必要がある」(CEOデイビッド・カルホーンが従業員向けに発出したメッセージから)

 

最新の措置でボーイングは当初の予定より1割多い雇用調整を行うことになる。ただし、カルホーンによれば、今年後半に予定していた指名一時解雇の規模を下げるという。ボーイング・ディフェンスアンドスペースの社員は自発的一時解雇の対象外となっている。

 

ボーイングの社員数は2019年末で161千名だった。COVID-19のパンデミック状態と経済下降により航空宇宙産業ならびにMRO部門では数万名の社員が削減されており、これと別に一時解雇が見られる。米エアライン業界では数千名の整理が始まっているが、10月までに連邦政府支援が追加されなければその倍の整理が必要となるとみている。■

 

Boeing Seeks More Voluntary Worker Departures

Michael Bruno August 18, 2020

2020年8月14日金曜日

電動航空機の民生利用はどこまで実現しているのだろうか。展望は?

 電気推進方式の航空機はガスタービンエンジン機に比べ何が利点になるのか。

Aviation Week技術担当編集者のグラハム・ウォーウィックが以下回答してくれた。

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スタービンとの比較では電動モーターに利点が多い。ただしモーターは電気推進システムの一部に過ぎない。タービンエンジンに燃料タンク、ポンプ、配管その他が必要なように電気推進ではエナジー貯蔵、電気制御電子装置、配電系統や冷却システムが必要となる。システム単位でみると電動推進方式には課題が残る。

 

利点の一つはノイズだ。電動モーターは静粛度で燃料燃焼型エンジンに勝る。ただし、推進動力を作るためローター、プロペラやファンの駆動が必要となり、離陸時や上昇時にノイズが発生する。とはいえ、電気推進はタクシー中や巡航飛行中は静かだ。電動モーターで分散型推進が可能になり、小型かつ静粛なローターやファンを多数配置できる。

 

もう一つの利点が効率だ。電動型の効率は90パーセントに及ぶが、大型ターボファンで55%、小型ターボプロップは35%程度となっている。タービンエンジンの大きさで効率にも差が出るため、電動推進の導入はターボプロップエンジン搭載のリージョナル機から始まっている。

 

さらに利点となるのが規模を自由に変更できることだ。大型モーターを一二個使う、あるいは分散型推進方式にしても性能に大きな変化がない。タービンではこうはいかない。航空機用電動モーターの開発はまだ初期段階で各種技術で模索が続いている。時が経てば結果が出るだろう。

 

電動推進で最大の課題はエナジー貯蔵だ。現行バッテリーのエナジー密度は航空燃料の数分の一程度しかない。このため全電動機は小型短距離のエアタクシーからで、一時間程度の飛行を想定する。ハイブリッド方式の電動機も出だしは短距離リージョナル機だろう。

 

現行リチウムイオンを上回る高性能バッテリーもあるにはあるが、民生利用は先の話だ。水素燃料電池によるエナジー貯蔵方式が自動車業界で始まっている。さらに新しい方式としてフロー電池があり、NASAがこれをAquiferプロジェクトで航空機に応用しようとしている。

 

バッテリーに制約があるため電気推進方式も当面は従来の航空業界になじみのなかった分野を狙うことになる。その例が都市内航空移動やリージョナル貨物輸送で、現在は道路交通や鉄道輸送が中心だ。民間航空の中核部分ともいえる短距離路線、中距離路線用の機体で電動化はさらに時間がかかり、長距離路線用機材は液体燃料が中心のままとなるとみられる。

 

短距離、中距離用機材では全電動化は無理としても電動化が進むことは確実だろう。メガワット級モーターと発電機をターボファンに組み込めば出力増が望める。これは離陸時に活用でき、タービンエンジンの小型化、効率化が可能となる。貯蔵エナジーを利用したエンジンサイクル管理が可能となれば効率が上がる。

 

電動推進の実現への道はまだ長いが、欧州連合航空安全局がPipistrelの練習機Velis Electroの型式証明を6月に発行しており、普及に向け規制上の最初の関門を突破したと言えよう。■


What Are The Advantages And Challenges Of Electric-Powered Airliners?

Graham Warwick July 31, 2020


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