2021年6月23日水曜日

主張 中国市場の行方に黄信号。米中対決の影響で、最大の航空宇宙市場が消滅に向かうのか。

 Boeing aircraft

Credit: Boeing

 

トランプ政権時に始まった米国の対中政策の変化はジョー・バイデン政権で加速している。バイデン政権で対中政策補佐官を務めるカート・キャンベルは「これまでの相互互恵といわれてきた関係は終わった」と述べ、「現在は競合状態だ」としている。英国でのG7サミットの席上では米国は西側諸国による共同行為で中国の政治経済面の動きに対抗しようと提案した。その後の米EU会談で世界貿易機関でのジェット旅客機補助金問題を終結させ、これまで以上の協調体制で中国への対抗で合意した。

 

こうした進展は西側諸国と中国のつながりが逆転したことを示し、ジェット旅客機市場への影響には大きなものがある。

 

逆転現象は昨年すでに現れていた。米中間の海外直接投資は2016年のピークに比べ2020年は75パーセント縮小した。航空宇宙分野も同様で米国際貿易委員会によれば2018年の192億ドルが昨年は51億ドルになっている。

 

他方で中国の経済・社会は急成長時代を終え、政府の統制色、介入度がいっそう高まっている。航空利用客の減少はCOVID-19流行前からすでにはじまっていた。2018年10月の中国国内移動は12.2パーセント増となり、これまで20年近く二けた増が続いていた。だが2019年10月に5.3パーセント増に落ち込んでいた。

 

機体引き渡し数も減少していた。世界の機体引き渡しにおける中国の比重は2018年に23パーセントのピークを記録し、2019年15パーセント、2020年は12パーセントと引き続き減少している。理由の一部には737 MAX生産が止まったことがあるが、エアバスの引き渡しも減少している。

 

こうした数字以外に、米中の航空分野の関係は悪化した。他国の規制当局と異なり、中国の民間航空局は737MAXの型式再証明を発行しておらず、また今後の工程表も公開していない。他方で、米国は中国の航空宇宙企業の大部分を軍事エンドユーザー企業リストに載せ、西側装備の輸出を困難にしている。

 

中国市場の今後のシナリオは三つある。最良のシナリオは平和共存体制の復活でジョージ・H・W・ブッシュからオバマ政権までの時代同様になることだ。中国からのエアバス、ボーイング機材の発注が復活し、737MAXの型式証明が再発行され、米国も中国国内向けの技術輸出の制限を解除することだ。

 

最悪のシナリオはUSSR2.0だ。この場合の中国航空産業は西側と急速に切り離されていく。社会主義経済で成長率は低迷する。西側機材発注は減少し、中古機材の需要が高まる。国内線機材は中国国産機が中心となり、西側製造のエンジン装備等は性能が劣る国産品に代わる。この結果、大きな代償を10-15年にわたり支払うことになる。

 

三番目のシナリオがその中間となる。中国の成長率低下でジェット旅客機需要にも影響が出る。 737 MAXの型式証明を中国は再発行し、米国も中国向けの部品輸出の姿勢を変える。しかし、中国は国産化を急ぎ、航空機への搭載を義務化する。

 

対中国姿勢で同盟各国に共同歩調をとらせる米国の力量次第でシナリオが変わってくる。各国が同調すれば、一番目のシナリオが実現する可能性が出る。中国政府も路線変更しないと本当に孤立してしまうと悟る。米国と同盟各国の歩調が合わないと、中国は米国離れをし、エアバスは受注多数を獲得することになる。

 

航空業界には大きな転換点となる。10年に一度あるかどうかの外的ショックが、パンデミック、戦争、テロ襲撃や経済不況などで発生すればジェット旅客機需要は2-3年低迷することがある。だが、一番目のシナリオでないと、ジェット旅客機市場は恒久的なショックに見舞われ、最大の輸出市場の消失が現実になってもおかしくない。■

 

Opinion: Big Questions About The World's Largest Jetliner Export Market

Richard Aboulafia June 18, 2021

 

Richard Aboulafia

Contributing columnist Richard Aboulafia is vice president of analysis at Teal Group. He is based in Washington



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