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2020年8月14日金曜日

電動航空機の民生利用はどこまで実現しているのだろうか。展望は?

 電気推進方式の航空機はガスタービンエンジン機に比べ何が利点になるのか。

Aviation Week技術担当編集者のグラハム・ウォーウィックが以下回答してくれた。

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スタービンとの比較では電動モーターに利点が多い。ただしモーターは電気推進システムの一部に過ぎない。タービンエンジンに燃料タンク、ポンプ、配管その他が必要なように電気推進ではエナジー貯蔵、電気制御電子装置、配電系統や冷却システムが必要となる。システム単位でみると電動推進方式には課題が残る。

 

利点の一つはノイズだ。電動モーターは静粛度で燃料燃焼型エンジンに勝る。ただし、推進動力を作るためローター、プロペラやファンの駆動が必要となり、離陸時や上昇時にノイズが発生する。とはいえ、電気推進はタクシー中や巡航飛行中は静かだ。電動モーターで分散型推進が可能になり、小型かつ静粛なローターやファンを多数配置できる。

 

もう一つの利点が効率だ。電動型の効率は90パーセントに及ぶが、大型ターボファンで55%、小型ターボプロップは35%程度となっている。タービンエンジンの大きさで効率にも差が出るため、電動推進の導入はターボプロップエンジン搭載のリージョナル機から始まっている。

 

さらに利点となるのが規模を自由に変更できることだ。大型モーターを一二個使う、あるいは分散型推進方式にしても性能に大きな変化がない。タービンではこうはいかない。航空機用電動モーターの開発はまだ初期段階で各種技術で模索が続いている。時が経てば結果が出るだろう。

 

電動推進で最大の課題はエナジー貯蔵だ。現行バッテリーのエナジー密度は航空燃料の数分の一程度しかない。このため全電動機は小型短距離のエアタクシーからで、一時間程度の飛行を想定する。ハイブリッド方式の電動機も出だしは短距離リージョナル機だろう。

 

現行リチウムイオンを上回る高性能バッテリーもあるにはあるが、民生利用は先の話だ。水素燃料電池によるエナジー貯蔵方式が自動車業界で始まっている。さらに新しい方式としてフロー電池があり、NASAがこれをAquiferプロジェクトで航空機に応用しようとしている。

 

バッテリーに制約があるため電気推進方式も当面は従来の航空業界になじみのなかった分野を狙うことになる。その例が都市内航空移動やリージョナル貨物輸送で、現在は道路交通や鉄道輸送が中心だ。民間航空の中核部分ともいえる短距離路線、中距離路線用の機体で電動化はさらに時間がかかり、長距離路線用機材は液体燃料が中心のままとなるとみられる。

 

短距離、中距離用機材では全電動化は無理としても電動化が進むことは確実だろう。メガワット級モーターと発電機をターボファンに組み込めば出力増が望める。これは離陸時に活用でき、タービンエンジンの小型化、効率化が可能となる。貯蔵エナジーを利用したエンジンサイクル管理が可能となれば効率が上がる。

 

電動推進の実現への道はまだ長いが、欧州連合航空安全局がPipistrelの練習機Velis Electroの型式証明を6月に発行しており、普及に向け規制上の最初の関門を突破したと言えよう。■


What Are The Advantages And Challenges Of Electric-Powered Airliners?

Graham Warwick July 31, 2020


2020年2月22日土曜日

ベルのEDAT技術は電動ヘリコプター実現の大きな一歩になりそう

まだ道は遠いのですが、ここに来て電動航空機の可能性が高まってきました。地道な技術ですが今後の動向に注目です。(ターミナル2同時配信記事)

EDAT testbed
フライ・バイ・ワイヤでトルク打ち消しを可能とした試験機Credit: Bell Helicopter

ベルがこっそりと電動トルク打ち消し装置の技術実証中で、電動垂直離着陸機(eVTOL)の実現に向かう可能性がでてきた。
同社の電動分散トルク打ち消し (EDAT) 技術試験機はモデル429双発軽ヘリコプターを改造し、固定ピッチ電動ファン4つを垂直安定装置にとりつけ、従来型テールローターを廃止している。
回転翼機で電動トルク打ち消し機能の開発が進んでいるが、ベルのEDATが最初に飛行にこぎつけた。テストは昨年5月に関心を集めることなく始まっていた。ベル試験施設があるケベックで試験機がホバリングする映像が公開されてEDATの存在がはじめて明らかになった。
自社資金で始めた研究開発にオタワ州政府が2018年に助成金を交付しており、安全と騒音軽減での利用者の期待の高まりに対応していくとEDAT主管のエリック・シヌサスが語っている。「安全と運行経費の改良を求める声が利用者の皆さんからでています。騒音への関心がこれまでになく高まっており、技術陣にプレッシャーがかかっています」
ヘリコプター騒音の大半はメインローターとテールローターの干渉が原因で、テールローターをダクト化すれば騒音が下がる。
ダクトは以前からある。エアバスは古くは1960年代に遡り採用している。だが電動の採用でトルク打ち消し効果が最大限必要ない段階ではファン回転数を下げて、騒音を減らせる。同社はEDATの騒音レベルを公表していないが、テスト記録では「通常の429型より相当下がっている」とシヌサスは述べている。
安全面で通常のテールローターは危険発生源となり、地上でもエンジンが回転する間は危険だ。これに対しEDATはメインローターが回転中でも停止できる。運行経費でも良い効果が生まれる。テールローター用の複雑なギアボックス、シャフトがなくなり点検整備が楽になる。
だがEDATの採用で大幅な設計変更が必要となる。機械式のトルク打ち消し制御のかわりに、フライ・バイ・ワイヤでファン4つをペダル操作する。空冷式ファンモーターに液冷発電機が付き、搭載するプラット&ホイットニーPW207タービンが動力となる。これまでのシャフトの代わりに配線が機体後部に走っている。モーター、発電機はサフランが供給する。
ファンが4つあることで冗長性も生まれる。地上テスト結果からわかったのはファン4つ全部が使えなくなってもトルク打ち消し効果がある程度確保されることだ。通常のヘリコプターでテールローターが故障すると墜落こそしないものの危険になる。
別の観点は応答性だとシヌサスは述べる。「大型ファン一基あるいは中型ファン2基の場合は回転慣性が働き、応答性が下がる」とし、4本式の採用が必要だという。
ヘリコプター業界では電動トルク打ち消し装置の研究が進んでいる。レオナルド・ヘリコプターズはAW139のテールローターを改装しており、ベルのFC-X試験機は2017年に発表されており、電動ファンを採用している。
次の段階はEDATの飛行性能の拡大とともに技術の適正化にあり、特に重量が問題となる。「これを踏石にし、完全電気機体につなげたい。型式証明取得も問題ではないだろう」(シヌサス)■
この記事は以下をもとに再構成しています。

Bell Achieves Electric Anti-Torque Flight First

Tony Osborne February 20, 2020


2019年12月15日日曜日

視点 環境負荷で非難の的のエアライン業界が取るべき正しい対応とは

How are airlines handling scrutiny of their environmental impact? 

環境負荷への批判にエアライン業界の対応とは

By Lewis Harper13 December 2019
Extinction rebellion
の一年で突如としてエアライン各社は環境負荷緩和の圧力にさらされ、対応を迫られている。
エアライン各社による環境影響が驚くべきペースで関心事となったのが2019年であった。
環境団体等が勢いを強める背景には「空を飛ぶのは恥」との意識やこのままでは人類の存続が危ういと公然と反旗を翻すグレタ・ツゥンバーグの様な存在がある。
特にヨーロッパで環境議論が強まっており、次代の利用客や政策決定層が航空事業に全く違う視点をとる見通しが強まってきた。
だが人類の存続をかけたともいわれる議論に業界は正しく対応しているだろうか。

一番目立つ対応に環境負荷緩和への努力の説明がある。
「乗客一人あたりCO2排出量は1990年比較で50%超削減された」とIATAが12月12日発表したのはこの動きを念頭においている。「業界が燃料消費効率向上に努めた結果で2009年以来に2.3%改良したが目標より0.8ポイント高い」
「乗客一人あたりCO2排出量」が業界で流行表現になっており、たしかに朗報である。ただし、利用客が増えればCO2排出総量が増える点は関係者も無視できない。交通量は今後も増加の見通しだからだ。外部はこの点をついてくるはずだ。
IATAは新型機や持続可能な航空燃料の肯定的効果を取り上げる。ICAOがすすめるCORSIA(グローバル相殺対策)や運行の改善効果もある。
だが航空業界全体の環境戦略の売り込みとしては成約がつく。
燃料効率を引き上げた機体を運用するのは確かにいいのだが、「新世代」機の多くは運用開始して数年経過しており、効率改善効果は目新しくなく、更に業界努力を求める勢力に訴求力がない。持続可能燃料も穀物生産への影響など規模拡大が可能か疑問が解消しておらず、メリットがはっきりしない。
CORSIAは大きな成果を残したが排出量増加を相殺するのが狙いで、根本削減ではない。こうしてみるとCORSIAをより大きなパッケージの一部と見る関係者多数の意見は正しいのだろう。

不公平な負担感?

IATA、域内業界団体やエアライン各社は環境対策が適正と世間に見られるにはどうしたらよいかとの難問に取り組んでおり、一方で不当な負担につながると判断される措置には反対している。
「各国政府が炭素税を追加してCORSIAの効果が削がれている」とIATAは主張。「航空旅行税導入の決定や提言が現れており、フランス、ドイツ、オランダ、スイスで現実になっている」
同様の課税措置の導入阻止に向け今後数年に渡りロビー活動が必要だろう。しっかりした理由がある。航空旅行が一部富裕層限定に戻る危険があるからだ。また航空業界が環境負荷対策に及び腰との印象がつくのは絶対に避けなければならない。
その他、一部関係者からエアライン業界は世界全体のCO2排出量の「わずか」2-3%にすぎないとの意見がある。
こうした主張には民間航空輸送の恩恵が世界に拡散する中で社会経済効果を強調する点では正しい。だがこの論調に頼りすぎると緩和努力は十分と業界が考えているとの印象が生まれかねない。
海運セクターのCO2排出量が航空業界を上回っているとの主張も業界にあるが、反証はうけていないようだ。
こうした主張は「そっちこそどうなんだ」の域を超えない。同様あるいは少し悪い現象を非難することで批判をかわそうというものだ。
また個別エアラインには「環境対応」証明を取得して自らの立場を守ろうとする動きがあり、他力本願と言わざるを得ない。
このやり方だとこの手の環境対策を業界全体で取り組んでいると受け止められかねない。あるエアラインが「優れた」対応をして他社は悪者扱いにしようとしていると一般に映るはずだ。

短所をしっかり把握する

2019年を通じ環境圧力に効果が一番高い対応をしたキャリアー各社は業界の欠点を認識しつつ現実的かつ前向きな対応で解決を求めた。
オランダのKLMと同社の「空を飛ぶ責任」広報は今年一番大きな変化となった。自社利用客の願う姿をエアラインが真剣に考え、かつ航空旅行の長所を取り上げつつ環境負荷の緩和に向け業界の目指す方向性を好意的に示した。
カンタスなどもよく練り上げられた環境方針を公表している。
つきつめれば、利用客が伸び続けるエアライン業界に向けられている厳しい圧力では解決策はかんたんに見つからないだろう。電動推進方式など画期的な解決策の登場はかなり先になりそうだ。

このため、各社・業界団体は有効な対策とそうでないものを区別すべきだし、将来に対する前向きな視点を提示しつつ防御にまわりたくなる誘惑に打ち勝つべきだ。■

2019年8月11日日曜日

リチウム硫黄は電機飛行機のバッテリー問題の解決策になれるか

Aviation Week & Space Technology

Is Lithium-Sulfur The Answer To Electric Aviation’s Battery Limits?

Aug 7, 2019Graham Warwick | Aviation Week & Space Technology
リチウム硫黄バッテリーはリチウムイオンの2倍のエナジー密度を実現するが、出力と耐久性で改善の余地がある。
空機メーカーに実用に耐える全電動航空機実現の機運が強まっている。だがバッテリーが障害となり、寸法、性能で現行の制約の解消が不可欠だ。
次世代バッテリーが商業化の初期段階にありエナジー密度でリチウム-イオン(Li-ion)を上回り航空機への応用が期待されている。.
まず半導体バッテリーがあり、Li-ionに使われている電解液に変わり固体電解物として安全が向上しエナジー密度も高くなるとその分バッテリー寸法を小型化できる。またリチウム-金属型ではLi-ionの黒鉛陰極のかわりにリチウム金属を用い、これもエナジー密度が高くなる。
もう一つ有望なのがリチウム硫黄(Li-S)で注目を集めているのは英バッテリー新規企業オキシスエナジー Oxis Energy と米電動航空機メーカー、バイエアロスペース Bye Aerospace が航空機応用で協力関係を締結したことだ。バイは二人乗り練習機eFlyer 2の開発に取り掛かっており、Li-ionバッテリーを使用するが大型機用にLi-Sへ注目している。
オキシスは2004年創業でLi-Sのエナジー密度を400 Wh/kg以上に刷るのに成功し、来年早々には500 Wh/kg達成を目指す。Li-ionでは最高性能でも 250 Wh/kgだ。

この性能はサイオンパワーが2015年にキネティック(現エアバス)の太陽光高度無人機ゼファーで達成した 350 Wh/kgを超える。ゼファーは11日間飛行して長時間飛行記録を樹立した。またその後25日間の連続飛行を達成したが別のバッテリー技術を使っていた。
だがエナジー密度だけがバッテリー性能の重要要素ではない。出力、放電充電回数、安全性、寿命も重要要素だ。
リチウム硫黄バッテリーは確かに高エナジーだが高出力ではない。つまりエナジー貯蔵量と放電量の問題だ。高高度疑似衛星となるゼファーのような機体では高出力が必要だが放電率(C)は極めて低くする必要がる。電動の垂直離着陸 (eVTOL) では高いエナジー密度、高出力が必要だが離着陸で放電率は高くなる。
従来型の固定翼機としてジェネラルエイビエーション分野で運用すると高出力が必要となるの離着陸時のみで比較的短時間だが、放電率の制御が必要となる。
リチウム硫黄で懸念されるのは寿命で、これが理由となり開発が進んでこなかった。オキシスのLi-Sは200サイクル程度しかない。一方でLi-ionは数千サイクルとなっている。ウーバーは自社eVTOLsをLi-ionを容量が85%になる1,300サイクルで交換し地上発電需要向けに売却している。


この点は改良が必要とオキシスも認める。エナジー密度にこれまで開発の中心が置かれてきたが、高性能は達成できたので次は寿命の延長をとりあげ、最低500サイクルの実現を2年以内に目指すという。
Li-Sは Li-ionに対しコストでも有利だ。その理由として硫黄はコバルト他のレアメタル素材よりはるかに安価に入手できる。さらにWh/kgが高い。同じ容量なら必要な素材量が少なくてすむ。密度が二倍なのでセル数が半分で済む。
安全面でも有利だ。Li-ionセル内でリチウムが樹状に伸びるとショートが発生し熱暴走が始まるためバッテリー全体で慎重な設計が必要だ。
これに対してリチウム硫黄では樹状成長はなく、一旦形成された小さなくぼみも次回のサイクルでリチウムが使うことで消える。 Li-ionでは陰極陽極間を埋めるスパイクができショートが発生する。だがリチウム硫黄ではこのような望ましくない問題は発生しないという。
オキシスは国連が定めたUN/DOT 38.3試験標準でリチウムバッテリーの輸送を実施したがリチウム硫黄は良好な成績を示したという。.
同社は増産に入っており、ウェールズのポートタルボットに新工場を設け、陰極陽極を製造する他、ブラジルにセル製造工場を置く。民生用途の第一陣は2022年開始予定で年間数百万セルの量産体制に入るという。一方で試作用は1万しか製造していない。.
それにより同社はリチウム硫黄バッテリーの強みを享受する目論見だ。さらにエナジー密度を生かした用途として電動バスがあり、バッテリー集合体で数トンになるほか、携帯型ウェラブル型の電源として軍用用途や航空宇宙用途を想定。.
Li-Sの航空用途としてオキシスは社名非公開の欧州航空機メーカーと性能実証をしている。Li-ionバッテリーによる飛行プロファイルを確認中だ。

リチウム硫黄は軽量なため機内に多数搭載できると同社は見ており、大型バッテリーでは離陸時の放電率は低くできる。Li-Sの高エナジー密度により巡航飛行時間が伸び長いフライトが可能となるという。■

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